ナタリー PowerPush - 片平里菜
東京スカパラダイスオーケストラ、スカパラ茂木&沖と世代を超えた音楽談義
いい言葉が選ばれてるから、想像を膨らますことができる
──茂木さん、沖さんは「あなた」を最初に聴いたとき、どう思いましたか?
茂木 いや、もう「なぜ人は忘れてしまうんだろう 身近なものばかり」っていう1行目の歌詞が一番好きっていうか。僕は里菜ちゃんと比べたらすごく年上なんだけど、でも今でもこの歌詞と同じようなこと思ってるし、家庭生活でも「ああ、こういうこと言い忘れた」とか自分の言葉足らずで大事な相手がモヤモヤしてる瞬間を見ると、やっぱり身近な人に対する言葉がすごく大事なんだよねと、「あなた」の出だしを聴いただけでそういうことを思っちゃうわけ。だから若い世代の里菜ちゃんからこういう言葉がポーンと飛び出してくるともう、いてもたってもいられなくて「僕もそうなんだけど!」ってハグしたくなる感じというか(笑)。
沖 僕はしょっちゅう、歌詞を勘違いして聴いてることが多くて。たぶん作り手の気持ちと違うところで感動してることが多い気がしてます。でも僕はどちらかというと本当の意味を知りたくないタイプで、だから勘違いしたまま自分の中で物語を作って感動してるのかな。今回の「あなた」に関しても、僕は自分の身近な女性のことを想像してたし。きっとすごくいい言葉や表現が選ばれてるから、個人的な想像を膨らますことができるんだと思うんです。
片平 うふふ(笑)。歌詞の内容をそんなに気に入ってくださっていたとは思ってなかったので、意外でした。
茂木 僕はわりと歌詞の内容ありきかな、演奏しているときも。出だしからエンディングに向かってストーリーを盛り上げたいタイプなんで、歌詞の流れを考えながら叩けるとすごくうれしいかな。
片平 叩きながらも言葉を意識するんですか?
茂木 ものすごく意識してますね。
片平 そうなんだ。レコーディング中もずっと見てたんですけど、気持ちよさそうに、心を込めて叩いてるのがすごく伝わってきました。
茂木 ああ、うれしいですね。別にでもスカパラでも……スカパラはインスト曲が中心だけど、例えば1番から2番に行くときのムードの変え方はやっぱり考えるし。だから歌詞があればその思いはなおさら強くなるんです。
震災以降、言葉の強さを改めて実感した
──「あなた」はいつ頃書いた曲なんですか?
片平 この曲は震災からちょっと経って、2011年の5月くらいにできた曲で。私自身もそうだったけど、当時はみんな失ってから気付いた大切なものがたくさんあったと思うんです。震災を経験したことで改めて、自分にとって何が大事なのか、その大切なものって実はそんなにたくさんあるわけじゃないよなって考えながら作りました。
──曲を作ってから3年を経て、こうしてCDとして発売されるわけですが、今聴くと普遍的な強さを持った曲だと思いました。
茂木 本当に強いですね。きっと震災直後だと歌詞の内容もダイレクトにそこにつなげて考えてしまいがちだけど、時間が経ってからのほうが言葉の普遍性により気付かされるというか。逆に震災前に書かれた言葉でも、震災を経験したことで気持ちがそっちに結びつくこともあるだろうし。僕はフィッシュマンズっていうバンドをやってるんだけど、フィッシュマンズの歌詞はもちろん震災とは関係のないところで生まれてた言葉なのに、震災のあとに演奏するとこう……自然と震災につなげて聴いてくれる人が増えて。震災以降、聴いてる人の心の栄養になったり支えになったり、そういうところで言葉の強さというのを改めて実感しましたね。具体的すぎない言葉を使ってるからこそ……それこそ小学生でも歌えそうな言葉しか並んでないからこそ、震災みたいな出来事のあとはより言葉の持つ力が強くなるのかな。この「あなた」という曲には、成り立ちこそフィッシュマンズの楽曲とは違うけど、きっと同じような普遍性があるんだと思うよ。
──なるほど。
茂木 出だしの「なぜ人は忘れてしまうんだろう 身近なものばかり」という歌詞でハッとするもんね。僕もライブのMCで「当たり前だと思ってることが、実はかけがえがないことなんだよ」って話をライブでいつも言ってるんですよ。「いつも隣にいる奴とケンカできるっていうのは、それはすごく最高なことだよね」とか、熱くなって言っちゃうんだけど(笑)。家族もいてくれて当たり前と思っちゃう日がもちろんあるんだけど、逆に毎朝起きて「いつも一緒にいてくれてありがとね」って言うのも気持ち悪い話で。
一同 (笑)。
茂木 でも愛する人にはやっぱり、毎朝起きて「大好きだよ」って言ったほうがいいのかもしれないなって思ったりもして。ふふふ(笑)。そう、僕がこの曲の出だしにやられちゃったのは、そんな気持ちにさせられたから。魂が揺さぶられたんですよ! 本当に大好きな1行なんです。
片平 ふふふ(笑)。そういうお話が聞けて、すごくうれしいです。
茂木 この曲を聴いた人は、みんないろんなこと感じて、そして思ってるはずだよ。
最初は母親を思って書いたのに、今は違う人が思い浮かぶ
──聴き手が100人いれば、それこそ100通りの解釈があるわけですからね。
沖 本当にそれでいいんですよ。例えば自分で作った曲であっても、好きになったり嫌いになったりすることがあるわけで。ときには勇気付けられるときもある。音楽ってそういうものなんじゃないかなと思うんです。だからこそ面白いですよね。
──片平さんも自分が書いた曲に元気付けられた経験はありますか?
片平 ありますね。だから今話を聞いていて、それって私だけじゃないんだなあと思って。
沖 あははは(笑)。
片平 ビックリしました。この「あなた」も震災があった年はちょこちょこ歌ってたんですけど、しばらくして急に歌いたくなくなっちゃって。しばらく封印してたんですよ。でも今回、映画「ライヴ」の主題歌というお話をいただいて改めてこの曲と向かったときに、今の自分にすごく響いてきたというか(参照:片平里菜の4月発売新作に東京スカパラダイスオーケストラ、スカパラ茂木&沖参加)。最初は自分の母親のことを思って書いたのに、今はまた違う人が思い浮かぶんです。同じ曲でもそのときの自分の心境によって全然響き方が違いますね。
──しばらくこの曲と距離を置いたことで、それまで気付かなかった部分にも気付けた?
片平 そうですね、うん。
茂木 あるよね。ずっと一緒にいすぎて気持ちがわからなくなってたけど、たまに離ればなれになると「ああ、こんなに好きだったのか」って気付かされること。
片平 ああ、まさにそういう感じですね。
- ニューシングル「Oh JANE / あなた」/ 2014年4月30日発売 / 1296円 / ポニーキャニオン / PCCA-04010
- [CD] 1296円 / PCCA-04010
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収録曲
- Oh JANE
- あなた
- 小石は蹴飛ばして
- あの場所で偶然
- 片平里菜 あの場所で偶然 弾き語りツアー2014
- 2014年5月12日(月)
宮城県 BLUE RESISTANCE - 2014年5月13日(火)
岩手県 LIVEHOUSE FREAKS - 2014年5月14日(水)
岩手県 KLUB COUNTER ACTION MIYAKO - 2014年5月17日(土)
宮城県 遊楽館かなんホール - 2014年5月20日(火)
秋田県 Club SWINDLE - 2014年5月21日(水)
福島県 club SONIC iwaki - 2014年5月24日(土)
福島県 岩瀬郡天栄村「風とロック CARAVAN福島」 - 2014年5月25日(日)
神奈川県 横浜赤レンガ地区野外特設会場「GREENROOM FESTIVAL '14」 - 2014年6月9日(月)
長野県 LIVE HOUSE J - 2014年6月10日(火)
新潟県 SHOW!CASE!! - 2014年6月17日(火)
北海道 COLONY - 2014年6月21日(土)
愛媛県 松山キティホール - 2014年6月23日(月)
岡山県 城下公会堂 - 2014年6月24日(火)
広島県 ナミキジャンクション - 2014年6月27日(金)
山口県 Organ's Melody - 2014年6月28日(土)
熊本県 cafe Arbaro - 2014年6月30日(月)
福岡県 ROOMS - 2014年7月2日(水)
鹿児島県 SR HALL - 2014年7月4日(金)
香川県 高松MONSTER - 2014年7月8日(火)
大阪府 Kitchen和 - 2014年7月9日(水)
京都府 磔磔 - 2014年7月11日(金)
東京都 自由学園明日館(アコースティックライブ / ワンマン)
片平里菜(カタヒラリナ)
1992年5月12日生まれ、福島出身のシンガーソングライター。2011年9月、「閃光ライオット2011」で1万組の中から審査員特別賞を受賞する。翌2012年にはソニーWALKMAN「Play You. Label」第1弾アーティストに抜擢され、山田貴洋(ASIAN KUNG-FU GENERATION)プロデュースのもと楽曲制作。7月にはメジャーデビュー前にもかかわらず「NANO-MUGEN FES.2012」に出演し、話題を集めた。2013年1月にアジカン山田プロデュースによる楽曲「始まりに」を配信リリース。同年4月には20公演にわたる初の全国弾き語りツアー「片平里菜 飾らない笑顔で 弾き語りツアー2013」も敢行した。5月にはギブソン社傘下のギターブランド・エピフォンが片平を日本人女性初のエピフォンアーティストとして公認したことも発表され、大きな反響を呼んだ。そして8月7日、ポニーキャニオンからシングル「夏の夜」でメジャーデビュー。翌2014年1月15日には2ndシングル「女の子は泣かない」を発表し、同月末からは初のワンマンツアー「片平里菜 1stワンマンツアー2014 “女の子は泣け、笑え、叫べ”」を東京、大阪、福島で行った。4月30日に3rdシングル「Oh JANE / あなた」をリリース。
東京スカパラダイスオーケストラ
(トウキョウスカパラダイスオーケストラ)
NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor sax)、谷中敦(Baritone sax)、沖祐市(Key)、川上つよし(B)、加藤隆志(G)、大森はじめ(Per)、茂木欣一(Dr)からなる、日本国内のみならず世界25カ国で多数の海外公演も行う、日本が世界に誇るスカバンド。2013年12月からはデビュー25周年の一環として亀田誠治をプロデューサーに迎え「バンドコラボ3部作」を展開。10-FEET、MONGOL800との共演を経て、2014年7月にASIAN KUNG-FU GENERATIONとのコラボシングル(タイトル未定)をリリースする。また5月17日より全21公演にわたる「25th Anniversary Hall Tour “SKA ME CRAZY”」を行う。
2014年5月7日更新