生ドラムが人間っぽさを生み出した
SKY-HI 今おっしゃったことで言うと、トラップにある、70とか80のBPMを倍で取りたくなる感じって、ドラッグが引き起こす作用みたいなもので、実際に歌詞の内容もドラッグありき。服用してもしていなくても酩酊感があるんです。それがアメリカのユースカルチャーのなかで流行っていて問題にもなってる。でもこの曲は、問題作的な側面はあるんだけど、そういう作用を引き起こすというよりは、ナチュラルに150くらいの四つ打ちでアガれる。その理由を考えたときに、生ドラムを入れたことがポイントなのかなと。ヒューマンメイドな、人間が作った音だから、心音に近いというか。“東京トライバル”とか“パンク”とか、いろんな言葉が出てきたのは、とどのつまり“人間”ってことなんだと思います。
金子 確かに、やってるときはテーマはありつつ、それこそ心音のように何も考えずに出していって、ところどころで「なんだこれは」って自分の心はザワついてた。特にさっきも話したように、ラップができてから後乗せで生ドラムを入れたところ。最初はパーカッションだけでトライバル感全開だったところに、ロック的なアプローチでドラムを叩いたらどうなるんだって。そこで感じた衝撃はもはや事件でしたから。
SKY-HI 歌っぽいですもんね、ドラムが。
金子 だからドラム譜にすると、めちゃくちゃ変な感じだと思うんですよね。1つひとつのパートがちょっとずつ違ったり、ラップのフロウに合ってたりするんで。きっと何年か経って振り返ったときに、キャリアにおいてすごく重要な作品になるんだと思います。
──ドラムの音についても聞かせてください。今回はハットやスネアの音が抑え目のような気がするんです。
金子 音が多いからだと思います。だからミックスにはすごく時間がかかりました。マスタリングも3つくらいある中から聴き比べてみて、それこそジャンルで参照するものがないから、本当に難しくて行き着いたのがこれでした。変だし不気味だし、すっと喉元に何か突き付けられているような。
SKY-HI めちゃくちゃスリルありますよね。
金子 ドラムのサウンドとしては、アンビエンス、ルーム感が肝なんだと思います。自分をドラマーという立場から見ると、実はドラムのことをあまり考えてない。何ならミックスのときはドラムの音をクビにしていく方向なんです。だってうるさいし(笑)。みんなは“ドラマーの金子ノブアキ”っていうイメージもあって、すごく立ててくれるんですけど。そういう気遣いを感じつつも「もっと下げてくれ」って言う、みたいな。今回はラップと並走している感じがあったんで特にですね。日高くんの言葉が一番重要。総合的なディレクション魂が完全に勝ってます。
この曲が中学生の頃、渋谷を歩いていた自分の耳に届いてほしい
──この曲を聴かれた方々の反応も楽しみですね。
金子 僕や日高くんのことを知っている方には驚いてもらえると思いますし、何も知らずに聴いても、いいパンチくらったって思ってもらえるんじゃないかと思います。
──それだけのインパクトはあると思います。
金子 「Message In A Bottle」(※The Policeが1979年にリリースした曲。漂流者が助けを呼ぶために瓶にメッセージを詰めて海に流したことを歌っている)じゃないですけど、その先に何があるかわからないわけですよ。想像もしていない人が聴くかもしれない。そういうことって、昔だったらあまりないけど、今はアクセスツールが発達しているから、可能性は高くなってると思うんです。だからこそ発信する責任っていうのも、今までもあったけど今一度考えなきゃいけない。現場ではただ馬が野を駆けるように、ひたすらやってたんですけど、もしかしたら「自分は何にロマンを感じているのか」とかそういうことを激しく問いながらやってたのかもしれない。さっき分析的に聴いちゃうっておっしゃいましたけど、僕もあとから自分のことを分析するんです。その中で、こういう取材って、セラピー的なところがあって、あのとき自分はなぜああいう行動に出たのかわかって、ハッとする瞬間がたまにあるんですよね。すげえ興奮してくる。
SKY-HI 取材のその感じ、めっちゃわかります。
──そう思っていただけたならよかったです。
SKY-HI 今も話をしながら考えてるんですけど、振り返ると、やっぱりめっちゃ気合い入ってたし、収録に行くときは「やってやんぞ」って、確かに思ってました。実際に声が枯れそうになるまで歌ってますし。でもそれだけがんばった感触はないと言うか、自然体とはまた違うのかもしれないですけど、すべては街であっくんに会ったときから、始まっていたんだと思います。音楽って究極のコミュニケーションだって話をたまにするんですけど、人と人とが出会って、「初めまして」ってお酒を飲んで仲良くなって、気が付いたらそいつの家にいて朝になった、みたいな。トラックをもらって、ラップを返して、ドラムを入れることになって、あっくんの声が入って、ビデオを撮って、テレビに出て。一連の流れとそういうコミュニケーションがかぶるんですよね。最初のほうにも言いましたけど、気負いがなかったんだと思います。
──ゲストという感じではないんですね。
SKY-HI 呼んでくれた人がやろうとしていることを書く、その人の意識を下ろして書くような場合もあるんですけど、「illusions」はあっくんの作品でありながら、完全に僕のメッセージ。そして説明ができない、ほかの何ものでもない、聴いたそのものでしかないものになった。それは、バズを狙ってどうとか、よこしまな何かがなかったからこそ。こういう曲が、中学生の頃、渋谷を歩いていた自分の耳に届いてほしかった。東京や世界中の少年少女に、何かしら影響を与えるものであると考えると、その責任を持てる曲になったことは、本当に誇り高いです。
金子 そうやって思ってくれてるのはうれしいな。「バアーッと過ぎていく景色の中で、ただそこに立ち続けている何か」。もしこの音楽を言葉で説明しようとしたら、そういうことかな。だから決して音楽的なものではないかもしれない。もちろん音楽として、いろんな物理的な方法に則りながらも、こんなにいびつなものが生まれたっていうのは自分たちのことではありながらすごく興味深いです。誰かのスマホからでも、ラジオからでも、居酒屋でも、ドンキでもラブホでもいいですけど、ずっとそこにあったこの曲を、「なんだよこれ」って気付いた人がいて、そこから何が始まるかを想像すると、めちゃくちゃ面白いです。