神田沙也加|オタク目線を持つプロがボカロ曲を歌うとこうなる

薄い本はエロくなきゃダメ

──Amazonの特典に「1%」のカバーが収録されていて驚きました。この曲はボカロPのはるまきごはんさんの作詞作曲ですが、オリジナルアーティストがウォルピスカーターさんなので、厳密に言えばボカロ曲ではないですよね。

めっちゃ好きな曲でどうしても歌いたかったんだけど、本編に入れるにはやっぱりボカロ曲である必要があって……。「あ、特典だったら入れられるかも!」と思って、スタッフさんに無理言って収録させてもらいました。私、曲を聴くときにコーラスワークがすごく好きで、ちょっとマニアックなくらい声の重ね方とかを研究するのが好きなんです。

──オリジナルバージョンはオクターブで声を重ねていて、低音と高音、どちらも主旋律と捉えられる特殊な構成の曲ですよね。

そうなんです。原曲も研究しましたけど、アルバム(ウォルピスカーターが2020年3月にリリースした「40果実の木」)に収録されているはるまきさんとのデュエットバージョンも大好きでよく聴いていて。デュエットバージョンだとちょっと声の重ね方に動きがあるんですよ。今回はデュエットバージョンのコーラスを参考にしながら自分の声を重ねて作り上げました。特典でしか聴けないけど、本当に好きな曲なのでみんなにも聴いてほしいですね。

──とらのあなではアルバム購入時に“薄い本”が付属するようですが、これはどういう内容ですか?

正直に言うと、普通にエロい同人誌です(笑)。私、薄い本を作るんだったら絶対にエロくしなきゃいけないと思っていて。エロくない薄い本じゃ意味がないから、これは絶対にそうしなきゃダメだと無理を言いました。本当に数ページのものですが、キレイにエロに到達するように作られています。

──特典への思い入れも相当強いですね。

このシリーズは特典を作るのも面白くて。第1作からこだわって作っています。集めてくださる方々もいるみたいで、みんなと楽しめている感覚がありますね。

歌ってみたいボカロ曲が尽きない

──「The VOCALOID Collection」のようなボカロカルチャーにスポットを当てたイベントが定期的に行われるようになったり、ここ数年はボカロ界隈が再び盛り上がっています。神田さん自身は長らくシーンを見続けてきて、最近の盛り上がりについてどう感じていますか?

評論家に聞く質問みたいじゃないですか(笑)。ありがとうございます。私も長らくボカロを追いかけ続けていますけど、最近はいろんなところから新しいファンが増えているみたいなので、それがすごく気になりますね。私はもともと「Project DIVA」というゲームがすごく好きでボカロへの思いが強くなった背景があるんですが、最近だと二次創作が入り口だったり、ニコニコ動画だけじゃなくてYouTubeやTikTokのようなプラットフォームでボカロの曲を楽しんでいる若い子も多いみたいですし。ボカロという文化の裾野がどんどん広くなって新しい世代をちゃんと獲得できているのは喜ばしいことだと感じています。新しい投稿が無限に増えていくので、歌ってみたいボカロ曲が尽きないですね。アルバムを作っている間にも新しく歌ってみたい曲がどんどん増えていって……。

──“歌ってみた”を動画で投稿する手法もあると思いますが、神田さんはアルバム作りそのものを楽しんでいますよね。

それはその通りだと思います。1年以上かけてCDを作るので、その制作中に新しく歌いたい曲が生まれてくる歯がゆさはありますけど、時間をかけてじっくり作り込めるのがCDのいいところですし。サブスクが広まって音楽を気軽に聴ける時代にはなっていますけど、そういう時代だからこそモノが手に残ることにも価値が生まれると思うんです。私にとってCDは手に取ってくれた人とつながれるツールだから、これからもアルバム作りを楽しく続けていきたいですね。