KANA-BOON「Honey & Darling」インタビュー|暗闇の中でたどり着いた、希望のアルバムであなたの心に手を伸ばす

KANA-BOONが3月30日にアルバム「Honey & Darling」をリリースする。

2020年10月より谷口鮪(Vo, G)が休養に入っていたKANA-BOON。昨年3月に活動再開を発表し、秋には全国ワンマンツアーを開催した。4年半ぶりのフルアルバムには11曲の新曲を含む全15曲を収録。谷口は本作について「休養期間の最中、自分の心から溢れ出た音楽と言葉たち。それらは深い悲しみの産物と絶望から這い出すために求めた希望です」というコメントを出していた。そして、「もしもあなたが世界で一人ぼっちだと感じているなら、この作品があなたを一人にはさせません」とも。そんなアルバムは、ひと言で言うと“生きている”。手紙のように切々としたバラードも、心身を踊らせるダンスナンバーも、たくましいポップチューンもありながら、すべてそこに着地している。メンバー1人ひとりが表現した、自由に躍動するビート、エモーショナルなギター、真っ正面から響かせる歌が、豊かなアレンジとなって落とし込まれた楽曲たち。その真ん中にあるのは、“生と死”に向き合い、暗闇を経験したことで生まれた、あらゆる命に心を砕いた歌詞だ。

音楽ナタリーでは、ここに至るまでの道のりをメンバー全員で語ってもらった。赤裸々で誠実な彼らの言葉を、ぜひ受け取ってほしい。

取材・文 / 高橋美穂撮影 / 曽我美芽

本気の言葉たちを、本気で届けに行こう

──まずはお一人ずつ、今作に対する手応えを伺えますでしょうか。

谷口鮪(Vo, G) 自分たちでも傑作と言える、喜ばしい1枚ができたと思っています。僕にとっては、休養期間中に作った楽曲たちがほとんどなので、自分が生きた証とも捉えていますね。

──今作を聴いて、谷口さんもKANA-BOONも止まってなかったんだって思ったんですよ。

谷口 そうですね。ちょうど1年前ぐらい、去年の2月から5月にかけて、ずっと曲作りをしていて。その期間は、毎日のように曲も歌詞も作っていましたね。

谷口鮪(Vo, G)

谷口鮪(Vo, G)

──創作意欲は途絶えなかったんですね。

谷口 いや、一時期は、創作もできるような状態ではなかったんですけど。でも、周りのサポートやメンバーの存在があったし、何より待っているファンがいたので。そういうことを思うと、もう1回バンドを動かそうという気持ちになりました。

──谷口さんにとって、作ることは生きることだったんでしょうか?

谷口 うん、そうですね。曲を作ることで自分自身が救われたし。曲を次々と生み出していけないなら、生きている意味ももはやないというか。でも、こうやって作れているから、まだ自分は生きる理由がたくさんあるって、できた曲たちを聴いて改めて思えましたね。

──古賀さんは、今作までの道のりをどのように捉えていらっしゃいますか?

古賀隼斗(G) 鮪には休養期間に頻繫に会いに行っていたんですけど、音楽を聴いていないって話を聞いたので、音楽の話はまったくせずにボードゲームをしたりして。でも、内心はめちゃくちゃ不安だったんです。そんな中で、鮪がデモをメールで送ってきてくれて、めちゃくちゃうれしかったですね。また音楽を始めてくれた、向き合ってくれたという。それから曲がどんどんあがってきたんですけど、僕は鮪を近くで見ているからこそ、なお歌詞が心に響いてきて。だから、歌詞で書かれていることをギターで表現しようと思ったんです。鮪の気持ちを無駄にできない、ちゃんと伝えたいと思って。だから、アルバムには、たぶん僕にしか弾けないギターを詰め込むことができたんじゃないかと思います。

──今までの感覚とは、また違いましたか?

古賀 やっぱり重みが全然違って。前も「ここはこういう感情」という鮪の説明を受けたり、ディスカッションしたりしながら弾いていたんですけど、今回はそれ以上に表現できたと思います。

──そして、谷口さんを休養中に音楽に導くことは、あえてしなかったんですね。

古賀 それが、最初のほうはボードゲームとかしていたんですけど、だんだん、「今後のセットリストどうしようか?」みたいな話はちょっとずつ出していきました(笑)。

谷口 ぎこちなかったですね(笑)。2人とも、絶望に向き合ってしまった状態の人間を見たことがなかったと思うので。最初のほうはコミュニケーションを取るのにも緊張感はあったと思うんです。でも、そこらへんをほぐすのは、すごく巧みな2人なので。こんなに近くに僕の帰りを待っている人がいることは、すごく心強かったですね。

KANA-BOON

KANA-BOON

──小泉さんは、そんな状況を経ての今作をどのように感じていらっしゃいますか?

小泉貴裕(Dr) 僕も最初はどうやって接していいか探っていたんですけど、何度か会ううちに、高校生の頃に遊んでいた雰囲気に戻った感じがして。その中で音楽の話もしました。鮪からデモが一気に送られてきたときは、本当にうれしくて。また、こんないい曲を自分たちで演奏できるんだという喜びもありましたし、鮪がこの状況で考えていたことがストレートに歌詞に出ていたので、僕自身もちゃんと歌を表現するドラムを考えようと思って。なので、今回のアルバムでは、自分が表現者として変われたと思います。

──谷口さんが出されていたコメントの「もしもあなたが世界で一人ぼっちだと感じているなら、この作品があなたを一人にはさせません」というひと言にグッときました(参照:KANA-BOONニューアルバム詳細発表、東阪ワンマンも開催決定)。音楽は、それくらい大きな存在になり得るんだと、改めて感じて。谷口さんもそれを実感しているからこそ、そしてそんな存在になれるアルバムが完成した自信があるからこそ、こういったコメントが出せたのではないでしょうか。

谷口 それは改めて思いましたね。自分は深い悲しみや喪失を音楽に変換して人の心を動かしていけるって、曲を作りながら実感して。さらに、アルバムが完成して、ただの嘆きや苦しみでは終わらせず、ちゃんと人に届けるものにできた実感がありました。だからこそ、「あなたを一人にはさせません」もそうですし、本気の言葉たちを、本気で届けに行こうって。姿勢と作品がつながっているからこそ、こういうことを言えたんだと思います。

最終的には音楽は人を楽しませるものだと思う

──ここまでのお話やバンドのストーリーから、シリアスでダークなアルバムを想像する方もいるかもしれませんが、実際は踊れる、アッパーな楽曲が多いですよね。

谷口 そうですね。気持ちを鼓舞してくれる瞬間が、何度もあるアルバムだと思います。

──KANA-BOONが沈んだあとに飛び上がるバネを持っていることがすごくよくわかるアルバムだと思うのですが、意図的にそういう作品にしようと思っていたんでしょうか?

谷口 自然にこうなりましたね。別に、悲しみだけを歌おうとも、逆にそれを乗り越えた歌ばかりを出していこうとも、そういうことは意図していなかったです。ただ、おっしゃっていただいたようにバネ、反発力の強さがKANA-BOONらしさの1つだとは思っていて、今作でそのバネの使い方がわかった感じがする。今までもバネに圧力がかかっていく場面はバンドとして何度もあったけれど、そこから最高潮まで飛び跳ねさせる術を知らなかったので。今回初めて、自分の体験やコロナ禍の状況を踏まえたうえで、全体的に追い込まれている状態から羽ばたく術を知ったというのはあります。このアルバムができていく過程、レコーディングを重ねていく日々が、自分たちをポジティブにしてくれたんだと思いますね。それは、この間のツアー(「KANA-BOON Re:PLAY TOUR 2021-2022」)でも感じました。あのツアーではのびのび自由に、解き放たれた感じがしたので(参照:KANA-BOON、大切な“あなた”への感謝あふれた3年ぶりのワンマンツアー)。

KANA-BOON

KANA-BOON

──ダンスチューンに関しても、今までもKANA-BOONは体を踊らせてくれる楽曲を生み出してきましたけれど、今作では心を踊らせてくれるような曲が多いと感じました。

谷口 そうですね。精神的なところでも。音楽は悲しみを癒すものだったり、共感を生み出せるものだったり、いろいろありますけど、やっぱり最終的には人を楽しませるものだと思うから。だから今回は、そう感じてもらえる曲たちがそろったんだと思います。「Dance to beat」とか、音楽の存在自体を捉えている曲だったりもするし。サウンド的にも、デビューの頃から比べるとだいぶ骨太になって。四つ打ちのビート感も、グッとテンポを落としても出せるようになってきたのは、バンドの成長だと思います。

──まさに「Dance to beat」は、サウンドが骨太になったからこそ生み出せる横ノリのグルーヴが感じられました。小泉さんは、この楽曲をどんな気持ちで叩きましたか?

小泉 一番自由に、音楽の楽しさを出した曲かもしれないです。こういうビート感は、バンド全体で一緒にノッて楽しんでいる雰囲気で叩きたかったんですよね。今までこういうビート感だと僕はきっちり四つ打ちをやってきましたけど、それに縛られたくないなって思って、そこから一旦離れて、「自分が今、音楽の楽しさをみんなに見せている」という気持ちで叩きました。「Dance to beat」もですけど、このアルバムではいろんな曲で違った表現をしていて。今までのレコーディングはきっちり録るということを一番に考えていたんですけど、今回は自分の音を楽しむことを大切にして、ギターやベースも感じながら曲を作り上げていくことができました。だから全曲ライブ感があるし、感情が伝わるドラムになっていると思います。