音楽ナタリー Power Push - KANA-BOON
葛藤の末に取り戻した自分たちの「Origin」
KANA-BOONが3rdアルバム「Origin」をリリースした。
2015年1月リリースの2ndアルバム「TIME」以降、大阪・大阪城ホールと東京・日本武道館でのアリーナ公演を成功させる一方、シングル「なんでもねだり」「ダイバー」やシナリオアートとのスプリットシングル「talking / ナナヒツジ」をリリースするなど精力的に活動を展開してきた彼ら。「Origin」(=起源)というタイトルを冠した本作は、メジャーデビュー以降の怒涛の日々を経て、「もう一度、音楽を始めたときの気持ちに立ち返りたい」という思いが反映された作品に仕上がっている。初回限定盤Aにはメジャーデビュー直前に開催していたイベント「KANA-BOONが人間をつくります。」にあわせて制作された楽曲を再録、新録、再ミックスなどしてまとめたCDが付属。バンドのメジャー進出前夜のサウンドを追体験できる貴重な音源と言えるだろう。
今回音楽ナタリーではメンバー全員にインタビューを行い、葛藤の末にたどり着いた「Origin」のテーマ、初回限定盤Aの特典CD「KANA-BOONが人間をつくります。」などについて聞いた。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 上山陽介
「そろそろ、きちんと自分たちと向き合わないと限界だな」
──ニューアルバム「Origin」はKANA-BOONのターニングポイントとなる作品だと思います。前作「TIME」は四つ打ちの高速チューンを軸にKANA-BOONの得意技を全面に押し出した作品でしたが、今回はモードが違いますよね。
谷口鮪(Vo, G) そうですね。でも、アルバムを作り始めたときは、テーマやコンセプトがまったく見えない状態だったんですよ。去年の夏フェスシーズンが終わって、秋から制作に入ったんですけど、フェスから気持ちの区切りがないまま進んでいって。曲作りやレコーディングはやってましたけど、かなりもやもやしていたんですよね。で、ドラムを録り終わって、ベースの録りもあとちょっとで終わるっていうところで、メンバー4人で話し合いをして。そこでバンドの状況を見つめ直すことで、ようやくアルバムのテーマが見えてきたというか。制作の途中で大きな変化が生まれたって感じですね。
──4人でしっかり話しておかないと、アルバムが完成できない状態だった?
谷口 それもあるし、2013年9月のメジャーデビューからここまでの道のりの中で、4人だけでしっかり話す機会を一切設けてなかったんですよね。「そろそろ、きちんと自分たちと向き合わないと限界だな」っていうか……。
──メジャーデビュー以降、一気に活動の規模が広がりましたからね。知名度も上がったし、ライブの会場もどんどん大きくなって。
谷口 その中で見えなくなってたこともあると思うんですよね。そのときの話し合いは、大きくまとめると「音楽を楽しめてるか?」ということだったんです。あとはそれぞれが悩んでることだったり、「これから、どうしていけばいいか?」「アルバムをさらにいいものにしていくためには?」みたいなことを話して。そういう重要なことを4人だけで話したんですよ、古賀んちに集まって。
古賀隼斗(G) みんな、俺の部屋を荒らすだけ荒らしましたけどね(笑)。で、最後にマジメな話をして。
飯田祐馬(B) 友達の家を荒らすだけ荒らすみたいなこともずっとやってなかったからな(笑)。そういうのも大事だったんだよ、たぶん。あのとき「やっぱり友達やから、こういうことができるんやな」って思ったし。
谷口 部屋がきれいに片付いていることで、きれいなギターしか弾けなくなってた古賀がいたからな。
古賀 そんなことないよ(笑)。もともと部屋は片付いてないし……。
小泉貴裕(Dr) ハハハハハ(笑)。
音楽を楽しめてない状況を打破するために
──「音楽を楽しめてない」という感じはバンド全体にあったんですか?
飯田 あったと思いますね。バンドを始めた頃は、音を出すだけで楽しかったし、メンバーと一緒に曲を完成させるだけで満足感があったんです。でも、デビューしたあとは聴いてくれる人が増えて、その分責任感も大きくなって。それはうれしいことなんですけど、自分たちの中でバランスが取れなくなった部分もあったんじゃないかなって。「あれ? これはやらされてるのかな?」って思うこともあったし、「しんどい」って言うこともできず……それを言ったら、終わってしまう感じもありましたからね。でも、そういうことも言わないと、どこかで崩れてしまうと思うんですよ。だから鮪が「ミーティングしよう」って言い出したんだと思うし。
谷口 その都度「楽しい」という感覚を持ちながらやってきたつもりですけど、音楽を始めた頃やデビュー前に比べると、デビュー後は100%楽しむことができてなかったなって。抱えているもの、背負うものも増えて、「それでも、リスナーに対して楽しそうに見せなくちゃいけない」って自分を偽る部分もあったり。それはちょっとしんどかったですね。
古賀 僕は楽しめてないという感じはなかったんですけど、自分らしさみたいなものが削がれてたんですよね。ライブの規模が大きくなるのはうれしいことだし、同世代のライバルのバンドのレベルも上がって、自分たちもやりがいを感じていたんですけど、商業的な音楽を意識するというか「こういうフレーズを弾けば、みんなが喜ぶかな」っていうニーズを考えるようになってきたんです。でも4人で話したことをきっかけに「それはちょっとアカンな」って思い直して。ニーズ視点をゼロにして、まずは自分がやりたいことを100%出そうって。気持ちとしては、音楽を始めたときに戻ってますね。
小泉 デビューしてからは「自分の技術が追い付いてない」とか「ライブのことをもっと考えないと」という気持ちが強くなって、楽しむというよりも「ちゃんとやらなくちゃいけない」っていう仕事的な感覚が強くなってたんですよね。ライブでもなるべく冷静に、うまく叩くことを大事にしていたというか。考えすぎて叩けなくなることもあったし、ライブが怖い時期もあって……。でも、その話し合いの中で「みんなももっと音楽を楽しみたいって思ってるんや」というのがわかったし、そこからちょっと気持ちが楽になってきました。
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- KANA-BOON ニューアルバム「Origin」 / 2016年2月17日発売 / Ki/oon Music
- 初回限定盤A [CD2枚組] / 4536円 / KSCL-2686~7
- 初回限定盤B [CD+DVD] / 3780円 / KSCL-2688~9
- 通常盤 [CD] / 3024円 / KSCL-2690
CD収録曲
- オープンワールド
- 机上、綴る、思想
- なんでもねだり
- ランアンドラン
- anger in the mind
- インディファレンス
- talking
- グッドバイ
- 革命
- ダイバー
- スタンドバイミー
- Origin
初回限定盤A CD「KANA-BOONが人間をつくります。」収録曲
- 見たくないもの(再録)
- 目と目と目と目(新ミックス)
- MUSiC(新ミックス)
- ピアスを開けた(新録)
- talking
- うそばっかり(新録)
- クローン(再録)
- かけぬけて(新ミックス)
- 僕らはいつまで経ってもさ(新録)
- Construct Connect(新録)
初回限定盤B DVD収録内容
- KANA-BOONの企画会議 その1
- 盛者必衰の理、お断り THE PARODY Music Video
- KANA-BOONの企画会議 その2
- 結晶星 THE PARODY Music Video
- こいずみのたたかい
- 盛者必衰の理、お断り THE PARODY オフショット
- 結晶星 THE PARODY オフショット
KANA-BOON(カナブーン)
谷口鮪(Vo, G)、古賀隼斗(G)、飯田祐馬(B)、小泉貴裕(Dr)からなる4人組バンド。高校の同級生だった谷口、古賀、小泉を中心に結成され、のちに飯田が合流して現在の編成となり、地元大阪を中心に活動を始める。2012年に参加した「キューン20イヤーズオーディション」で4000組の中から見事優勝を射止め、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのライブのオープニングアクトを務める。2013年4月には活動の拠点を東京に移し、同年9月にシングル「盛者必衰の理、お断り」でメジャーデビューを果たした。2014年はテレビ東京系アニメ「NARUTO-ナルト-疾風伝」のオープニングテーマ「シルエット」を書き下ろすなど精力的に新作を発表する。2015年1月には2ndアルバム「TIME」を発表。3月には大阪・大阪城ホールおよび東京・日本武道館にて初のアリーナワンマンライブを行い成功を収めた。11月にはシナリオアートとのスプリットシングル「talking / ナナヒツジ」をリリースした。2016年1月にアルバムに先駆けてシングル「ランアンドラン」を、2月に3rdアルバム「Origin」を発表。