上白石萌音|n-buna(ヨルシカ)、大橋トリオ、橋本絵莉子との対談から見えてくる色彩豊かな萌音の魅力

上白石萌音が8月26日に初のオリジナルアルバム「note」をリリースした。楽曲提供者として内澤崇仁(androp)、大橋トリオ、GLIM SPANKY、n-buna(ヨルシカ)、野田洋次郎(RADWIMPS)、橋本絵莉子、水野良樹(いきものがかり)、YUKIといった豪華なアーティストが参加。上白石の色彩豊かなボーカル表現を味わえる作品に仕上がっている。

音楽ナタリーでは上白石と「永遠はきらい」の作編曲を手がけたn-buna、「白い泥」を制作した橋本絵莉子、「Little Birds」を提供した大橋トリオとのそれぞれのトークを掲載。楽曲の制作エピソード、お互いの印象などについて語ってもらった。

[上白石萌音×n-buna(ヨルシカ) / 上白石萌音×橋本絵莉子]取材・文 / 森朋之
[上白石萌音×大橋トリオ]取材・文 / 吉田可奈
撮影 / 板橋淳一

上白石萌音×n-buna(ヨルシカ)インタビュー

息ができないくらい世界観に飲み込まれた

──上白石さん、n-bunaさんのお互いの印象から聞かせていただけますか?

上白石萌音 去年、ヨルシカさんのライブを観させていただいたんですよ。

n-buna 去年の12月の新木場STUDIO COASTのライブ(ヨルシカ LIVE TOUR 2019「月光」)ですね。

上白石 本当に素晴らしくて。世界観に飲み込まれて、しばらく息ができないくらいでした。途中の“語り”も素晴らしかったです。あの文章もn-bunaさんがご自分で書かれたんですよね?

ヨルシカ

n-buna そうですね。小説家になりたかった時期もあったんですけど、今、音楽の中に文学を取り込むことができていて幸せです。上白石さんのことを知ったのは「なんでもないや」を聴いたのがきっかけですね。野田洋次郎さんの曲も素晴らしかったし、それにピッタリの歌い方で。

上白石 うれしいです……聴いてくださったんですね。n-bunaさんは新海誠監督の作品もお好きですよね?(上白石は新海監督作品「君の名は。」でヒロイン・宮水三葉役の声を担当)

n-buna はい。すべて観てます。

上白石 新海監督もヨルシカさんが好きで。

n-buna ありがたいですね。新海監督が手がけたCMの曲(「春泥棒」)を提供したときも、すごく自由にやらせてもらって。監督は映像に音楽を当てはめるときの熱の込め方もすごくて、ミリ単位の調整を繰り返していたんです。新海監督もそうだし、チーム全体の熱量が高いんですよね。

上白石 そうですよね。n-bunaさんが私のアルバムに参加してくださることを、新海監督もすごく喜んでくれました。

小悪魔的な恋の駆け引き

──「永遠はきらい」は作詞がYUKIさん、作曲がn-bunaさんですが、どんなテーマで制作された楽曲なんですか?

上白石萌音

上白石 YUKIさんとn-bunaさんにお願いしたいというのは最初から決まっていて。その頃に作っていたアルバム「i」は“恋”をテーマにしていたので、お二人には恋の駆け引きというか、ちょっと小悪魔的な雰囲気の曲をお願いしました(参照:上白石萌音「i」インタビュー)。

n-buna 先にテーマをもらっていたので、書きやすかったですね。ヨルシカでも自分でテーマを決めて、それに沿って曲を作っているので。いつものやり方の延長で取りかかれました。

上白石 まずn-bunaさんからいただいたデモ音源のメロディとギターのラインがすごくカッコよくて、しかも“ヨルシカ節”炸裂で。それまで歌ったことがない雰囲気の曲で、うれしかったですね。そして私が「ラララ」で歌ったものに、YUKIさんが歌詞を付けてくださいました。

n-buna YUKIさんの歌詞、素晴らしかったですね。歌詞だけでしっかり色を出していたし、本当に作詞の力がある方なんだなと思いました。

上白石 まさかサビで「ごはんの粒」が出てくるとは思っていなかったです(笑)。私の中のイメージは「おとなしそうだなと思っていた女の子が全然違った」という感じですね。何が飛び出してくるかわからないし、どこに連れて行かれるかもわからないというか。言葉のはめ方、母音の使い方も独特で、すごくYUKIさんらしい歌詞だなって。私はJUDY AND MARYもYUKIさんの曲も大好きなので、めちゃくちゃ興奮しました。しかも仮歌をYUKIさんに歌っていただけて。「これで完成してる」と思いましたね(笑)。

──生々しいバンドサウンドも印象的でした。

上白石 気持ちいいですよね。

n-buna すべて生楽器ですね。この曲に合うミュージシャンは誰だろうと考えて、ベースは堀江晶太さん(PENGUIN RESERACH)、ドラムは比田井修さんにお願いして。

上白石 豪華すぎますね。

n-buna 音だけでいうとバンドの構成とまったく同じなんです。その上に上白石さんの個性が乗っかって……いい曲になりましたね。

上白石 ありがとうございます。そうやって積み上げられた素晴らしい音があって、最後に自分の声を重ねるということで、参加してくださった皆さんの熱、こだわりも音から感じていたので、歌うのはめちゃくちゃプレッシャーでした。

──バンドのボーカリストの気持ちに近いのかも。

上白石 そうですね。バンドのボーカルって、ライブのときは一番前で歌うじゃないですか。レコーディングではそういう位置関係がなくなって、音に溶け込めばよくて。ボーカルを楽器として捉えるというか、皆さんと同じように「自分の楽器を鳴らす!」という感覚を楽しめばいいのかなと思いました。

n-buna 恋愛の駆け引きや、小悪魔的な要素がある歌ですけど、上白石さんの声質はかなり柔らかい印象で。そのミスマッチ感がよかったですね。

上白石 スタジオではいろいろな歌い方を試してみたんです。柔らかい歌い方だったり、もっとゴリゴリした感じだったり。「それだとちょっとトゥーマッチかもね」とか、皆さんにも意見をもらいながら、ちょっとずつ削ぎ落していった記憶がありますね。n-bunaさんのメロディライン、YUKIさんの言葉にすごく個性があるので、私は中立的というか、ニュートラルでいいのかもしれないなと。

歌を演じるということ

──曲の世界観をしっかり伝えようとするスタンスは、ヨルシカにも近いのでは?

n-buna そうですね。ヨルシカのsuisさんも似たタイプというか、彼女はいい意味でエゴがないんですよ。僕が作った世界観の中で演技しているというか。

上白石 それはライブを観させていただいたときも感じました。役者だなって。

n-buna そういうボーカリストだから一緒にやれているんですよね。上白石さんも曲の世界の中で演じているところがあると思うんですけど、今回のアルバム全体を聴かせてもらうと、ちゃんと歌に芯があるんですよね。もしかしたら上白石さんは無自覚かもしれないけど、これまでの人生で歌ってきた経験、「こういう声の出し方が気持ちいい」と培ってきたことが歌の芯になっているんじゃないかなって。

上白石 めちゃくちゃうれしいです。ありがとうございます!

ヨルシカ
「ウミユリ海底譚」「メリュー」などの人気曲で知られるボカロPのn-bunaが、女性シンガーのsuisをボーカリストに迎えて2017年に結成したバンド。n-bunaの持ち味である心象的で文学的な歌詞とギターサウンド、透明感のあるsuisの歌声を特徴とする。2017年4月に初の楽曲「靴の花火」のミュージックビデオを投稿。6月に1stミニアルバム「夏草が邪魔をする」をリリースした。2019年4月に1stフルアルバム「だから僕は音楽を辞めた」、8月に2ndフルアルバム「エルマ」を発表し、10月よりライブツアー「ヨルシカ Live Tour 2019『月光』」を開催。2020年7月に3rdフルアルバム「盗作」をリリースした。