神聖かまってちゃん|の子が明かす「進撃の巨人」最終章オープニングテーマの生まれた背景

テレビアニメ「進撃の巨人」の最終章「The Final Season」の放送が2020年12月にスタートした。社会現象を巻き起こしたダークファンタジーが、これをもっていよいよ結末を迎える。

そのオープニングテーマである神聖かまってちゃんの「僕の戦争」は、これまでの同番組のテーマ曲とは一線を画する禍々しい狂気に満ちた楽曲。地獄のような戦場を描いた不吉なOP映像も相まって初回放送直後から世界中で話題になり、2021年2月にフルサイズ音源の配信がスタートすると、オリコンのデジタルシングルデイリーランキングで過去最高位の1位を獲得した。

神聖かまってちゃんは、彼らのファンを公言する原作者・諫山創の強い希望により「Season 2」にもエンディングテーマ「夕暮れの鳥」を提供しており、「進撃の巨人」への曲提供はこれで2度目。多くの視聴者を震えさせた「僕の戦争」はどのようにして制作されたのか、の子(Vo, G)に話を聞いた。

さらに記事の最後には、「『進撃の巨人』The Final Season」のアニメーション制作を担当したMAPPAによる、「僕の戦争」についてのコメントを掲載している。

取材・文 / 橋本尚平

精神的につらくて、コロナのことを考えてる余裕はなかった

──去年1月にベースのちばぎんさんが脱退してから、ほぼ同じタイミングでYouTubeの「るるちゃんの自殺配信」のミュージックビデオが海外でバズったので、幸先よく新体制をスタートさせたなと感じていたんですが、その直後にコロナ禍になってしまい、ツアーも中止になってバンド活動も停滞してしまいましたよね。これからという時期でしたし、の子さんもやっぱり出鼻をくじかれた感覚はありましたか?

そうですね。こういう状況になるのは当然、人生で初めてなんで。でもそれは世界中の人が等しくそんな感じだったんだろうと思いますよ。個人的には、コロナが日本に来る直前に自分の表現について深く考えてしまうきっかけがあって、そのことがものすごく精神的につらくて、コロナどころじゃなかった……。その件があってからコロナが流行して、という流れだったので、気持ち的にはコロナのことを考えてる余裕はなかったです。しばらくは自分の表現というものを、改めて考え直してましたね。

の子(Vo, G)

──考え直したというのは、「自分がやってきた表現がリスナーに悪影響を与えてしまったかもしれない」ということですか?

いや、僕は神聖かまってちゃんをずっと長くやってきたので、自分の表現が人の心にどう作用するのかというのは、わかってたことなんです。こういう表現活動をしている限り、いつか何かあるかもしれないというのは覚悟してたんですよ。だから別に「自分の表現を否定するようになった」みたいな話ではないです。長くバンドを続けてると、その間に病気になったり事故にあったり、いろんなことがリスナーの人生にもあるとは思うんですけど、そんな中で神聖かまってちゃんの音楽を選んでくれて、メンバーを愛してくれていたことを考えると、むしろこれからも変わらず、より一層やってやらなきゃとすら思う。

──自分を勇気付けてくれたの子さんがその表現をやめることを、当然リスナーは望まないでしょうしね。

うん。ただこれは自分で選んだ道なので、何があっても受け入れてやってきたつもりだったのに……。あのときは頭がしっちゃかめっちゃかになってました。ちょうど1年経ちましたが、その間いろんなことを考えてましたね。

──そうでしょうね。

僕はそれまでの10年以上、ずっと突っ走ってきたんですよ。毎年欠かさずCDをレコーディングして、ライブやツアーをやってというのをルーティンのように続けて。でも2020年になって、ちばぎんが辞めて、落ち込むことがあって、コロナが来て、やっと止まれたんです。自粛期間は1人で考える時間が増えたから、バンドのことやファンのこと、自分の人生のこと、表現のこととか、そういういろんなことを改めて考えるきっかけになりました。アクセルを踏みっぱなしで壊れた車に、やっとブレーキをかけてもらえたなっていう感覚。言い方は悪いんですが、そういった意味では本当にありがたかったです。

──ああ……ただ、何もなければの子さんは休もうとは思わなかったでしょうね。

とはいえ去年はそのことでずっと眠れなかったし、ラリったり頭おかしくなったりしてましたけどね。「進撃の巨人」の話をもらったのもちょうどその頃で、「僕の戦争」を作ったのも3月くらいだったから、その精神的な影響は確実に曲に表れてると思います。絶望しきっている状況下だからできた曲と言っても過言ではないです。

“アニメの曲”じゃなくて“自分の曲”じゃないといけない

──アニメのオープニングで「僕の戦争」を初めて聴いたときに、予想を超えて「進撃の巨人」の内容とリンクしているなと感じたので、「の子さんは原作を強く意識して、マーレ編のストーリーに沿った曲に仕上げたのかな?」と思っていたんですが、そういうわけではないんですかね?

はい。前にナタリーさんで諫山さんと対談させてもらったじゃないですか(参照:テレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」特集)。あのときも言ったんですけど、「進撃の巨人」と神聖かまってちゃんの持つ世界観には共通しているところが多いと思うんです。だからエンディングテーマとして「夕暮れの鳥」を作ったときもそうでしたけど、意識して寄せなくても奇妙に物語とリンクするんですよね。

神聖かまってちゃん

──「僕の戦争」というタイトルも、人と人が争うマーレ編を表した言葉のようにも見えますし。

それも本当に、そのときの自分の精神面を言葉にした結果、マーレ編のダークなイメージにハマったんだと思います。やっぱり「進撃の巨人」は僕に全部任せてくださいって感じです(笑)。対談のときに諫山さんにも言いましたけど、「進撃の巨人」の曲は僕に任せれば間違いないんで。

──「進撃の巨人」のオープニングといえばLinked Horizonの勇壮なサウンドをイメージする人も多いので、戦争の現実を突きつけるような「僕の戦争」の恐怖を煽る不穏な世界観は、視聴者にとっても衝撃だったと思います。

うん、ファックユーみたいな感じのコメントもいっぱいTwitterとかに書き込まれてましたね。いや、いっぱいでもないか(笑)。賛否両論みたいな感じ?

──初オンエア時にSNSの反応をリアルタイムで見ていたんですけど、最初に「リンホラじゃないのか、残念」という反応をしていた人も、「期待していたものと違うけど、むしろこれはこれですごく合ってる」と好意的に受け入れていたようでした。それだけの説得力がこの曲にはあると思いますし、きっとの子さんも相当気合いを入れてこの曲を作ったんだろうなと思ってました。

いや、こんな言い方をするのはアレなんですけど……意気込みがなかったわけじゃないです。ただ僕は当時、完全に頭がぐちゃぐちゃになってたタイミングだったんで、本当に何も考えてなくて……。でも、それがいい結果につながったところはあるかもしれないです。

──曲の後半で日本語詞になると、一気に景色が変わりますよね。

テレビアニメ「『進撃の巨人』The Final Season」オープニング映像より。
テレビアニメ「『進撃の巨人』The Final Season」オープニング映像より。

そういうのは狙ってやったところもありますけどね。前半と後半でシーンを変えるっていう。

──先にテレビサイズだけを聴くとマーレ編のストーリーとリンクした曲に聞こえるのに、フルサイズで聴いて初めて、実はこの曲で描かれていた舞台設定がいわゆる戦場ではないことがわかる、という構成はすごく面白いなと思いました。1曲の中で叙述トリックのようなことをしているというか。でもこれも別に「テレビで流れるのは前半だけだから、意図的にこういう構成にした」というわけではないんですか?

そうですね。まあタイアップ曲だし、その作品のことをまったく意識してないってことはないんです。でもあくまで、歌ってるのは自分なので。今後アニメの放送が終わっても歌い続けることを考えたら、やっぱり“アニメの曲”じゃなくて“自分の曲”じゃないといけない。だから作品に寄せすぎるのもよくないんです。諫山さんも絶対そう言うでしょうし、それは作り手として当たり前のことだと思います。

──精神的につらかった時期の話を聞いて改めて歌詞を読むと、この日本語詞パートの聞こえ方が変わってくる気がしますね。

曲を作るときにメンタルから影響されますから。今までの曲もみんな、書いたときのメンタルから影響されてできたものですし。