音楽ナタリー Power Push - 神聖かまってちゃん×テレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」
の子と諫山創の「弱い人対談」
4月1日からTOKYO MXほかで放送がスタートした、人気アニメシリーズの第2弾「『進撃の巨人』Season 2」。アニメのエンディングテーマに関する情報が事前に一切告知されていなかったが、第1話のエンドロールで楽曲が流れて初めて、それが神聖かまってちゃんの新曲「夕暮れの鳥」であることが明らかになった。
「進撃の巨人」の原作者であるマンガ家の諫山創は、かねてから神聖かまってちゃんのファンを公言しており、今回のタイアップも彼の強い希望によって実現したという。音楽ナタリーでは今回、神聖かまってちゃんの中心人物であるの子(Vo, G)と諫山の対談を企画。ほぼ同い年、かつ互いにシンパシーを感じ合っているという2人に、5月24日発売の両A面シングル「夕暮れの鳥 / 光の言葉」についての話題を中心にさまざまなことを語り合ってもらった。
取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 上山陽介
今回の対談は布教活動です
──お二人が顔を合わせたのは今日が初めてですか?
の子 去年の夏に1回会いましたね。でもちゃんとしゃべったことはなくて。以前からネットで交流があったからそんな気はしないんですけど。
諫山創 その件で最初に謝罪させていただきたいんです。の子さんとは最悪の出会いをしてしまったので……。
──その去年の夏の話ですか?
諫山 はい。エンディングテーマの打ち合わせがあるとは聞いてたんですけど、メンバーがもう来てるって知らなくて「わあ、会いたくねえ!」って言っちゃったんですよ。
の子 ははは(笑)。
諫山 その言葉が伝わっちゃったみたいで、会うなり「すいません、なんか会いたくなかったみたいで」って言われてしまって。まずそれについて弁解させてください。例えば僕はももクロ(ももいろクローバーZ)も大好きなんですけど、もし「今この場にももクロが来ます」って言われたら、本気でそこの窓から逃げると思います。「好きな人に自分を見られたくない」っていう病気なんです。これ、たぶん探したら病名があるんじゃないかと思う。
の子 僕は諫山さんのことを他人と思えないというか、こう言うと慣れ慣れしいんですけど、同じ戦場にいる戦友みたいなものだと勝手に思ってて。僕は今ちょっと気分が落ちてる時期なんですけど、たぶん諫山さんも弱いんじゃないですか?
──人として?
の子 そう。描かれた作品に触れたうえで「こういう表現って、弱い人からじゃないと出てこないよな」って思ったんです。神聖かまってちゃんって世間から異質のものとして見られがちなんですけど、単に圧倒的に弱い奴ってだけなんですよ。ホント雑魚なだけ。いつ社会的に死んでもおかしくない(笑)。今回エンディングテーマのお話をいただいたとき、ズタボロな僕を諫山さんが戦場で救ってくれたような感覚だったんです。ホントにありがとうございます。
諫山 僭越ながら僕もその弱さはわかります。僕がかまってちゃんに共感したのは“学校に行きたくない精神”だったと思うので。今回こういう対談をさせていただくことになったのは、僕にとって布教活動みたいなものなんです。
の子 布教活動(笑)。
諫山 世間的にかまってちゃんは「放送事故を起こすバンド」みたいなイメージが強すぎると思うんですが、ファンとしては別のアングルで“俺が自慢したいかまってちゃん”をみんなに知ってもらいたいんですよ。
の子 その件はホントに迷惑かけてます(笑)。放送事故って結局自分の責任、身から出た錆ですから。僕はやることがブレブレなもんで、インタビューをされても毎回言うことが変わるし、ネットの配信でもリスナーから「なんなんだお前は。何がやりたいんだ」みたいによく言われるんですよ。でもどの部分も全部ひっくるめて僕なんです。なのにやっぱり、クローズアップされるのはやんちゃなところだし、変な奴ってイメージはいまだに持たれてますね。
──とは言え諫山先生には、世間が思っているのとは違うかまってちゃんの魅力が伝わっていたってことなんでしょうね。
の子 そうですね。過激な行動をするのも自分の素の一面ではありますけど、あれだけが自分なのかっていったら、そうじゃないんで。それをわかってくれてる諫山さんと今こんな感じで話せるのは、すごくうれしいんですよ。今はこういう場だけど、いつか機会があったらお酒飲みながらもっともっとラフに話したいです(笑)。
「進撃の巨人」はファンタジーのようでいて現実だと思う
諫山 今回、エンディングテーマの制作に僕も最初から関わらせていただきましたが、「こういうイメージでお願いします」って言うことに申し訳なさがありまして……。
の子 いや、言ってくれたおかげで僕はすごくやりやすかったんですよ。僕も「進撃の巨人」っていう作品の世界観からイメージするものがあって、それをそのまま書いたので。
──ちなみに諫山先生は、具体的にはどんな曲にしたいとお願いしたんですか?
諫山 例に出したのは「コンクリートの向こう側へ」。ああいう、かまってちゃんらしい“ホーリー感”で「風の谷のナウシカ」のオープニングテーマを作るとしたら、っていうイメージがあったんです。
の子 その話をいただいて僕、けっこういろいろ曲を作ったんです。「夕暮れの鳥」だけじゃなくて「光の言葉」もこのときにできた曲なんですけど、最終的に「夕暮れの鳥」がエンディングテーマに選ばれたって形で。
──全編英語詞の曲は「夕暮れの鳥」が初めてですよね?
の子 初めてです。異国感みたいなものを出したかったんで。
──英語だけで歌うことに、普段と違う難しさはありませんでしたか?
の子 いや、もともと英会話やってたんで。NOVAに通ってたんです。
──の子さんは自分の内面を曲にして表現するタイプなので、今回のように、何かのためにここまで寄り添って曲を書き下ろすのは珍しい気がしました。
の子 珍しいっすよ。でもホントにやりやすかったんです。作った曲はほとんど、ぶっちゃけ15分から20分くらいで大まかなところはできました。「光の言葉」だけは構成をめっちゃ考えたんで、けっこう時間かかって。先程も言いましたけど、作品を読みながら共感する部分があったので、パッと曲が浮かんできたんです。なんだろうな……言い方失礼ですけど、暗い物語じゃないですか? 暗いっていうか絶望。
諫山 そうですね。
の子 でも俺、これって現実だと思うんです。ファンタジーの世界を描いているようで、それだけじゃない。ここに巨人はいないけど、現実でも人がどんどんどんどん死んでいきますし。音楽業界は希望にあふれたキラキラした作品を求められがちなので、それに対して俺は「ああ、居場所ねえな」みたいに感じてたんです。でも「進撃の巨人」を読んで、同じ戦場で創作してる人がいるんだなって勇気付けられたんですよ。
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スタッフ
- 原作:諫山創(別冊少年マガジン連載 / 講談社)
- 総監督:荒木哲郎
- 監督:肥塚正史
- シリーズ構成:小林靖子
- キャラクターデザイン:浅野恭司
- 総作画監督:浅野恭司、門脇聡、山田歩
- 音楽:澤野弘之
- オープニング主題歌:Linked Horizon
- エンディング主題歌:神聖かまってちゃん
- アニメーション制作:WIT STUDIO
- 神聖かまってちゃん ニューシングル「夕暮れの鳥 / 光の言葉」 / 2017年5月24日発売 / 1620円 / ポニーキャニオン / PCCA-04531
- 「夕暮れの鳥 / 光の言葉」
収録曲
- 夕暮れの鳥
- 光の言葉
- 男はロマンだぜ!たけだ君っ(2017新録音ver.)
- コンクリートの向こう側へ(2017 最新リマスター)
神聖かまってちゃん「東!名!阪!ワンマンツアー(仮)」
- 2017年6月23日(金)大阪府 umeda AKASO
- 2017年6月29日(木)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2017年7月2日(日)東京都 東京キネマ倶楽部
神聖かまってちゃん(シンセイカマッテチャン)
の子(Vo, G)、mono(Key)、ちばぎん(B)、みさこ(Dr)の4人からなる“インターネットポップロックバンド”。の子による2ちゃんねるバンド板での宣伝書き込み活動を経て、自宅でのトークや路上ゲリラライブなどの生中継、自作ビデオクリップの公開といったインターネットでの動画配信で注目を集める。2010年3月に初のCD作品となるミニアルバム「友だちを殺してまで。」を発表したのち、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEと契約してメジャーデビュー。子供の頃の暗い記憶やニートの抱える不安な感情などを美しいメロディに乗せた楽曲、予測のできない破滅的なライブパフォーマンスでファンを増やした。2016年7月にミニアルバム「夏.インストール」をリリース。2017年5月にはシングル「夕暮れの鳥 / 光の言葉」の発売が決定しており、「夕暮れの鳥」はテレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」のエンディングテーマとしてオンエアされている。
諫山創(イサヤマハジメ)
1986年大分県出身。2006年に「週刊少年マガジン」のMGP(マガジングランプリ)にて「進撃の巨人」で佳作受賞。2008年、同誌の新人マンガ賞にて「orz」で入選し、デビューを果たす。2009年に「別冊少年マガジン」にて「進撃の巨人」の連載を開始。同作は2011年に第35回講談社漫画賞少年部門を受賞した。なお「進撃の巨人」は2013年4月にテレビアニメ化され、2015年夏には三浦春馬の主演で実写映画化された。2017年4月からはテレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」が放送されている。
2017年4月7日更新