角銅真実が開く、“不思議の扉”|アニメ「クジマ歌えば家ほろろ」ED曲&劇伴インタビュー (2/2)

クジマのことを待っていた気がする

──具体的な制作のプロセスについて伺いたいのですが、劇伴はどうやって作っていったのでしょうか。

事前に映像を観せていただいたわけではなくて、「○○○のテーマ」のような文字情報をいただいて作ったんです。だから、音と映像が共鳴しているのかどうか、完成するまでほぼわからないという。

──なるほど。台本しかない状態で作ったわけですか。

数話分の台本と、音楽のプロットみたいな感じでしたね。「M1 新のテーマ」「M2 クジマのテーマ」「M3 別れ」みたいな感じ。絵コンテをちょっと動かしたような映像は観せていただきました。だから、原作を読んだときの感触を大事に持ち続けようと考えていました。

角銅真実

──劇伴用に作られた楽曲をいくつか聞かせてもらったんですが、マリンバやストリングスなどいろんな楽器を使われてますよね。

はい、いろんな楽器を使ってます。スケジュールがうまく調整できなくて、結局2カ月ぐらいで全部作ることになったんですよ。2カ月で60曲くらい作ったと思います。

──2カ月で60曲!

曲としては48曲なんですけど、バージョン違いとかを入れると60曲以上あると思います。あと、このマンガに出会いたかったであろう10代の頃の自分に向けて作ったような感覚もあって。なんというか……私自身、子供の頃クジマに会いたかったんですよね。ずっとクジマのことを待っていた気がするんです。

──なるほど。

だから、音楽もクジマのように不思議な存在を必要とする人が出会えるものにしたかった。「不思議の扉、開け」って感じ。そういうことが今はもちろん、当時の私には必要だったし、「不思議の扉」をずっと探してたんですよ。妖怪が出てくるアニメも大好きだったし。

角銅真実

──どんなアニメが好きでした?

「(地獄先生)ぬ~べ~」とか「ゲゲゲの鬼太郎」とか。普段は学校にも行かず、土手に座って山が大きな生き物に見えるまでじーっと見続けてみたりしていました。「山よ動け、私の前に現れろ」って(笑)。

──そういう意味でも、かつての自分に向けて作ったような感覚があるわけですね。

そうなんですよ。不思議への手がかりはいくつあってもいいだろうと思って、なるべくいろんな音色を使いました。サウンドも少し手触りの残っているような、いわゆる宅録っぽい録音やミックスを想定していました。

──YouTubeで公開されている予告動画にはいろんなコメントが付いていますよね。その中には「なんか不思議でわくわくするような曲からの謎のクジマにじわじわきてる」というコメントもありました。

ああ、よかった! 不思議でわくわくするような感じを受け取ってもらえたのはうれしいですね。

「今ここに一緒にいる」ということが大事

──エンディングテーマ「ほろろ逍遥」は、原作の内容を踏まえて作ったそうですね。

劇伴を作っているとき、エンディングテーマのお話もいただいたんです。歌詞はけっこう直球というか、正面から書いたかな。一番言いたかったのは最後のところなんですけど。

──「どこからやってきたの どこへ向かってゆくの どうでもいいことさ、ね。二人ならんでいるよ」というフレーズですよね。

「どうでもいいことさ」って歌い方は軽いタッチですが、けっこう強い言葉ですよね。「どこからやってきてどこに行くのか」「なぜ生まれてなぜ死ぬのか」ということよりも「今ここにいる、一緒にいる」ということにフォーカスしてみたいなと。そういったテンションをアニメの最後に添えたいと思い、この歌詞を書きました。

──曲の最後には鳥の鳴き声が入ってますよね。飛び立つクジマのイメージが浮かんできます。

あれはクジマとは全然関係のないチェンマイ(タイ)の鳥の鳴き声なんですけど、「ほろろ逍遥」という曲は物語に付随する形で生まれた曲じゃないですか。自分と作品の間にあるものとしてこの曲を捉えていて。私はどんな物語でも、それを受け取った人の景色を変えてしまう可能性があると考えていて、「ほろろ逍遥」も歌や言葉を超えて、曲自体がそういう装置になったらいいなと思ったんです。全然違う場所に着地するための装置として、まったく違う場所の鳥の鳴き声を入れてみました。

角銅真実

──音楽面で意識していたことはありますか?

自分の中ではできるだけシンプルな曲にしようと考えていたかな。劇伴の延長線上のイメージですよね。歌もまた“不思議の入り口”みたいなものにできたらいいなと思っていました。大げさな感じじゃなくて、ふとめくってみたら穴があるかもしれないぐらいのテンション。歌に関して言うと、「意味と違うところの歌」をイメージして、鳴き声のようなものになればいいなと思いながら録音していました。

──意味と違うところの歌?

言葉の意味を伝えるということを2個目か3個目の目的にするというか……うまく表現できないんだけど。口の動くままに声を出してみるようなイメージです。

──僕は散歩をしながらハミングしているような歌だと思いました。意味をしっかり伝えようとしているわけじゃなくて、歌っているうちに自分が気持ちよくなってしまうような。だからなのか、不思議な生物が歌ってるような感じがするんですよね。

ああ、うれしいです。そうしたかったんです。そういうふうにみんな聴いてくれたらいいな。

「ほろろ逍遥」、タイトルに込めたものは?

──タイトルにある「逍遥(しょうよう)」という言葉は、「そぞろ歩く」という意味ですよね。この言葉はどのように出てきたのでしょうか。

原作を読んでいて、A地点からB地点へと移動するために歩いているのではなく、歩くこと自体が目的でそれを味わっているような印象を受けたんですね。それで「逍遥」という言葉が浮かんできました。原作のストーリーも初めから終わりまで大きな事件は起きないじゃないですか。出来事は起きるは起きるんですけど、まるで何も起きていないかのようなテンション感が同時にある。まさにそぞろ歩いてる感じで、そこも好きですね。

角銅真実

──「ほろろ」という言葉も面白いですよね。

そうそう。私、「ほろろ」という言葉を知らなかったんですけど、「クジマ歌えば家ほろろ」ってタイトル、とっても美しいですよね。

──美しいですね。

「ほろろ」がどんな意味か理解してないんですけど、ひばりか何か鳥の鳴き声なんでしたっけ?

──キジとか山鳥の鳴き声を表してるみたいですね。

そうそう、キジだ。へーと思って。もうこの「ほろろ」という言葉自体が音楽的だなって。

──オノマトペ(擬音語・擬態語)的でもありますよね。「けんもほろろ」という慣用句も「ほろろ」からきてるみたいで。

(スタッフ) (スマホを見ながら)「けんもほろろ」というのは、「人の頼みや相談事を取り付く島もないほど無愛想に拒絶する様子を意味する慣用句」みたいですね。「けん」という言葉もキジの鳴き声みたいで、「けんもほろろに断る」というように使うと。

へー、すごい。美しい言葉ですね。

角銅真実

──そう考えると「ほろろ逍遥」ってめちゃくちゃいいタイトルですね。

ありがとうございます。いいですよね。

──今回こうして劇伴を手がけた作品が世に出るわけですけど、今後、映画音楽の作家として「こういうものをやってみたい」というビジョンはありますか?

あります。「オオカミの家」(2018年)というチリのアニメーションがあるんですけど、その作品を作ったレオン&コシーニャ(クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ)という作家が好きなんですよ。彼らの音楽をやりたいです!

──ちゃんと書いておきましょうね。ひょっとしたらチリに届くかもしれない(笑)。

ありがとうございます。彼らの作品には音楽的なものを感じるんですよね。画面の中の質感を作るのと同じ手つきで監督自身が音楽を作っていて、それがすごくマッチしてる。魔術が宿っていると思います。独特のテクスチャーがある作品が好きなんです。

プロフィール

角銅真実(カクドウマナミ)

音楽家、打楽器奏者。マリンバをはじめとする打楽器、自身の声、言葉、さまざまな身の回りのものを用いた自由な表現活動を展開している。2020年1月にメジャー1stアルバム「oar」、2024年1月に2ndアルバム「Contact」をリリース。またcero、原田知世、満島ひかり、dip in the poolなどのライブサポートやレコーディングに携わっているほか、映画や舞台、ダンスやインスタレーション作品への楽曲提供・音楽制作も行っている。2026年4月にテレビアニメ「クジマ歌えば家ほろろ」のエンディングテーマ「ほろろ逍遥」を発表。同アニメの劇伴も手がけている。