juJoe「juJoe」特集 平井拓郎×ゆうきゆう(ゆうメンタルクリニック理事長)|アルコール依存と向き合い、自分のために書いた1stアルバム

juJoeが12月17日に東京・タワーレコード渋谷店で1stアルバム「juJoe」の無料配布を開始した。

「juJoe」は2018年12月に無料で配信リリースされたアルバムで、今回はCD1000枚が店頭に並べられた。アルバム収録曲「閃光」や「三十路」の歌詞には、QOOLANDが解散したあとに平井拓郎(Vo, G)がアルコール依存症や鬱を発症した実体験が落とし込まれている。音楽ナタリーでは平井と、ゆうメンタルクリニックの理事長であり、マンガ「マンガで分かる心療内科」の原作者でもあるゆうきゆう氏へインタビューを実施。juJoeを結成するきっかけになったというゆうき氏との対話を通して、平井にjuJoe結成の経緯や曲に込めた思い、アルコール依存症や鬱との向き合い方について語ってもらった。

取材 / 田中和宏 文 / 酒匂里奈 撮影 / 西村満

ゆうメンタルクリニックでの助言

──まずは平井さんがQOOLANDを解散した理由を教えてください。

平井拓郎(juJoe)

平井拓郎(juJoe) 2018年の12月にQOOLANDのメンバーに「辞めたい」と言われて、「じゃあ解散しましょ」となりました。それまで僕は2年間断酒していたんですけど、そのときからお酒を飲み始めて、解散するまでの4カ月間ずっと飲んでました。そうしたら何百回と歌ってきた曲の歌詞がAメロからわからなくなって、脳がめちゃくちゃ萎縮している感じがして。でもやっぱりつらいことを忘れられるからやめられなかったんです。お酒とは今も闘ってますね。こういう病気は完治するということはないんですかね?

ゆうきゆう(ゆうメンタルクリニック理事長) アルコール依存症は、時間はかかりますが寛解することはあります。大切なのは同じくお酒を飲まない仲間を作ることかなと思います。

平井 断酒会みたいな。

ゆうき そうですね。一番効くのは人間関係を築くことだと言われていて。アルコール依存に関しては「もうこの人は飲んでも安心」ということは一切なく、飲んでいる限りは坂の途中にいる状態。寿命が来るのが先か、重症化するのが先かという感じです。

平井 なるほど。もともとアルコール依存の症状はあったんですけど、QOOLANDを辞めたあとに連続飲酒状態になってしまって。記憶が途切れ途切れになったり、躁鬱が激しくなったりしていたんです。そんなときに友達から「ゆうメンタルクリニックに行きなよ」と言われて。その友達もそこに通ってたし、ゆうきゆう先生原作のマンガ「マンガで分かる心療内科」をずっと読んでいたこともあって、ゆうメンタルクリニックでカウンセリングと診療を受けました(参照:ロックバンドができるまでの話|takuro(juJoe)|note)。そうしたらカウンセリングを担当してくれた先生に「もう1回バンドやるといいよ」と言われたんです。それでアルコール依存だったこととか、治療のこと、全部を歌にしました。そこからもう一度音楽をやっていこうと思って、juJoeを結成したんです。

10日間で7曲作った

──カウンセリングはいかがでしたか?

平井 自分がうやむやにしてた問題と向き合うという点では大変でした。つらくはないけど、きつい。でも効果はあると思います。特に僕は完全にバンド活動を辞めてもう二度とやらないつもりだったんですけど、カウンセリングを通してもう一度バンド活動を始められたので。ゆうメンタルクリニックに行かなかったら間違いなく音楽活動を再開できていなかった。「趣味でもいいからバンドをやってみたら」と言ってくれたカウンセラーの方には本当に感謝しています。

ゆうき そうだったんですね。

平井 コピーバンドをゆるっとやるのもいいかなと思ったんですけど、いざ始めると自然と本格化してきて。最初にメンタルクリニックで自分の身に起こったことを曲にしました。そういった内容の歌詞は今まで書いたことなかったです。メジャーレーベルに所属していた頃は、フェスとかでやるために訴求力のある歌詞とか、誰かのための歌詞が多くて、正直に言うと商品を製造するような気持ちで作曲をしていた面も少しあったので。でも今回は誰のためでもなく、自分のリハビリみたいな感じで曲を作ったら止まらなくなっちゃって、10日間で7曲作りました。

ゆうき すごいですね。

平井 僕、アルバムを作るときは、全体のバランスが大切だと思っているんです。例えばテンポが速い曲の次はバラードにしたり、ラブソングの次はパーティソングにしたり。いつもはすごく考えて作るんですけど、「juJoe」は躁状態で、しかも10日で作ったのでバランスはまったく気にしてない(笑)。本当に勢いだけで作りました。

左から平井拓郎(juJoe)、ゆうきゆう(ゆうメンタルクリニック理事長)。

ゆうき アーティストの方にも、エネルギッシュな時期もあれば落ち込む時期もあるような、躁鬱的な気質の方が多いのかもしれません。もちろん断言はできないですけどね。注意欠如や多動症……いわゆるADHDと呼ばれる病気がありまして、ADHDと明確に診断されていなくても、その傾向が強い人はいると思うんです。そういった方は1つのことにすごく夢中になったりします。1つのことに対するエネルギーが才能や努力と結び付いて、結果的に芸術家として大成される方が多いんですよ。平井さんはこの傾向に近いのかもしれません。生きづらさを感じるのだとしたら、薬やカウンセリングを利用して波を抑えるのもよい判断だと思います。

平井 事実そのおかげで僕はもう一度音楽業界に復帰することができたので、よかったです。でもこういった病気について、ギャグマンガにしちゃう発想は改めてすごいなと思いました。マンガにした理由は、やっぱり受け手にとってわかりやすくすることが目的だったんですか?

ゆうき そうですね。記憶にも残りやすいんじゃないかなと思って。小学生の頃とかでも、教科書の内容はあまり覚えていなくても学習マンガの内容を明確に覚えていることってあると思うんですよね。

──平井さんももともとマンガ好きで、自分で書いたりもしていましたよね。

平井 はい。マンガで学ぶ系の啓発本も今はたくさんありますけど、ゆうき先生のマンガはその先駆けなのかなと思っていて、そういう面でもすごいなと思っています。

否認はしていない

ゆうき マンガでも描いている通り依存症には2種類あって、まず1つがお酒、たばこ、薬物といういわゆる物理的な刺激によるもの。もう1つはインターネットやゲームなどへの依存です。アルコールに依存している人は、自分にはそれがなければいけないという意識からハマっていくんですけれども、実はそれはお酒によって思考が変わっているからなんですよ。

平井 完全に僕、そうですね。

ゆうき 現在もアルコールに依存されてるんですか?

平井 実は最近、カウンセラーの先生にまたちょっと悪くなっていると言われてしまって……3週間くらい前にきちんと断酒しようと思ってたんですけど、ひさしぶりの人と会ったりしちゃうと……。

ゆうき 飲みたくなっちゃう?

平井 はい。1杯だけならいいや、というところから朝の4時まで飲んじゃったり。飲み会ではウーロン茶を頼むようにしているんですけど、周りに「断酒しないほうがいいです」と言われるんです。断酒をすると、その反動で飲んだときに激しく酔っ払ってしまうんじゃないかって。

ゆうき 適量で飲み続けたほうがいいという話ですか?

平井 はい。でも適量でやめられなくて。

左から平井拓郎(juJoe)、ゆうきゆう(ゆうメンタルクリニック理事長)。

ゆうき 結局飲んでしまうにしても、断酒しようとする意志を持っているほうが素晴らしいと思いますけどもね。

平井 依存症って、“否認の病”と言われてるじゃないですか。カウンセラーの先生には「否認していないということは偉いのよ」と言われました。

ゆうき 向き合ってるのは素晴らしいと思います。

平井 ありがとうございます。でも5、6日お酒を飲まなかったら調子がいいのは間違いないです。