アニソンは世界に輸出できる
──藤戸さんは以前、Twitterで「日本が世界に輸出できる独自の音楽、それはアニソンです。今は『アニメ』というパッケージに包まれて輸出されていますが、僕はそう遠くない未来、日本が生み出した独自の音楽として認知されていくと思っています」とつぶやいていましたよね。これについて詳しく聞かせてもらえますか?
藤戸 僕は今、映画音楽の制作で頻繁にハリウッドと日本を往復する生活をしていて。そんな中で強く感じたことなのですが……日本の音楽って世界で全然知られていないんですよ。Apple Musicでも、日本のリージョンでは出てくるけど、世界に向けては配信されていない。日本のアーティストがアメリカでツアーをしました、ヨーロッパツアーをやりましたと言っても、それは日本のメディアだけが言っていて、現地のメディアは取り上げていなかったりする。本当に世界で広く知られている日本の音楽は「PPAP」と、そこから40年前の坂本九さんだけなんです。
緒方 ガラパゴスなんですよね。
藤戸 英語の壁があるからなんですよね。ただ、アメリカに行くとK-POPは知られている。これは韓国の方々が英語圏に対して楽曲をうまく作られているからで、Apple MusicやSpotifyでも配信されていますし、EDM界隈ではK-POPがすごくなじんでいます。そういった状況の中、アニソンだけは局地的ながら日本語の音楽としてそのまま認知されてるんです。
緒方 自分もいろんな国で歌わせていただく機会がありますが、「残酷な天使のテーゼ」(「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニングテーマ。オリジナル歌唱は高橋洋子)なんかはどこの言語圏に行ってもお客さん全員が日本語で歌ってくれるんですよ。それはいつもすごいなと思っています。
藤戸 そう、アニソンだけは言語の壁さえも飛び越えて知られているんです。ハリウッドの映画制作チームに僕が紹介されたとき、「彼はシンジ・イカリの曲を作った」と説明されたら「ウオー!」ってなりましたから(笑)。
緒方 碇シンジではなく“碇シンジの中の人”ですけどね(笑)。
藤戸 もちろん日本人が作っている音楽は誇りでもあるし、日本人の音楽制作技術の緻密さは世界でもトップクラスだと思います。そういったクオリティの高さが、アニメという世界的に人気のあるパッケージに包まれた“アニソン”ならば、多くの人に伝わりそうだと気付いたんですよ。
海外に正しく作品を届けるうえでの大きな壁
──その一方で、緒方さんは前作「アニメグ。25th」制作にあたってクラウドファンディングを実施し、日本と同時に海外のファンにも正規品を届けるというプロジェクト(参照:【緒方恵美、声優デビュー25周年記念企画】国内&海外、同時に正規CDを届けたい - CAMPFIRE(キャンプファイヤー))に挑戦されていました。
藤戸 「アニメグ。25th」も、昔のものを振り返るという意図以上に、「日本の音楽はこんなにクオリティが高いんだぞ」というメッセージを“緒方恵美”というパッケージで広めているように僕は感じたんですよね。だからこそ、あの作品に関われたのは僕にとってすごく大きなことだったんです。
緒方 海外にアニソンファンはたくさんいるけど、正規の配信や販売ルートが確保しきれていないんですよ。SNSで新譜を出すと伝えても、「それはどこで買えますか?」「欲しいけど買えない」という声が、海外のファンからはとても多くて。「アニメグ。25th」はそういう理由で、クラウドファンディングのリターンなら正規に届けられるからと立ち上げたプロジェクトですけど、加えて藤戸さんが今おっしゃったような気持ちもありました。今の日本、特にアニソン業界で活動しているアーティストの楽曲クオリティを広く知ってもらうために、収録曲のアレンジャーはあえて全部バラバラな方にお願いしましたし。
藤戸 やはりそうなんですね。
緒方 それから、これは「アニメグ。25th」の発売記念ライブのときに知ったんですけど、転売屋対策が厳しくなったおかげで、今、海外のファンが日本公演のチケットを買えない状況にあるんです。以前は日本のクレジットカードを持っていれば購入できたけど、今はさらに日本の携帯電話を持っていないとチケットを買えない。そんな状況だから、海外のファンは「本当に悔しいけど転売屋から買うしかない」「あるかどうかわからない当日券のために航空券とホテルを用意して観に行かなければならない」と。「本当は自分の国にライブしに来てほしい。でもそれは難しいってわかっているから我慢」「でももうお金と時間に余裕のある人しか」「日本は私たちには来てほしくないみたい」……そんな話を聞いて悲しかったです。
藤戸 日本のものを、海外の人がきちんと買うことに大きな壁ができていますよね。そもそもアニメ自体が正規に観られるのかという話もありますし。
緒方 それも本当に大問題。最近は日本アニメのパッケージビジネスはうまくいかないし、海外ではストリーミング配信が主流なのもあり、何とか、とプロデューサーの皆さんがんばってくださっているんですけど、有料配信の視聴者は多くないし、観ている人たちがすぐに違法アップロードしてしまう。
藤戸 そうですね。
緒方 それでレコード会社によっては、自衛手段として、主題歌が流れるところはカット、なんてことをしちゃったり。もう民間レベルでは限界を迎えているので政府がどうにかしてほしいのに、つい最近も「クールジャパン戦略が大失敗している」なんてニュースもあって。東京オリンピックもあり、私たちの業界の出番もきっとあるでしょうに、何言ってるの、と。本当に悲しい。
藤戸 コンテンツって重要だと思うんですけどね。
“アルター・エゴ”で被るほど中二病な2人
──出会ってからこれまでのお付き合い、そして今回の対談を通じて、改めてお互いの印象はいかがでしょうか。
緒方 あまり思ったことなかったんですけど、今回初めて、もしかしたら似ている……って(笑)。例えば「アルター・エゴ」は曲のイメージを膨らませてこのタイトルにしたんですけど、レコーディング時に藤戸さんに「僕、前のアルバムで『アルター・エゴ』というタイトルの曲を書いているんですよ」と言われてすごく驚きました。アルター・エゴは“もう1人の自分”という意味で、アニメやゲームにはたまに出てくる言葉で、同じ業界にいる人なら被ることもあるかもしれないけど、まさか藤戸さんと被るなんて(笑)。あと自分の音楽活動の転機となる2010年に作ったのが「再生-rebuild-」という曲なんですけど、ジェッジジョンソンの今度のアルバムのタイトルが「STRIKE ReBUILD DOWNER」。ワードのチョイスも被っているし、先ほど坂本美雨さんとの対談(参照:ジェッジジョンソン「テクニカルブレイクス・ダウナー」発売記念特集 藤戸じゅにあ×坂本美雨 対談)を読んでいて気付いたんですけど、中二病なのも共通している。
藤戸 (笑)。
緒方 私の中に巣食う中二病エッセンスみたいなものが、「エヴァ」のセリフからにじみ出てテレビを通じて伝わってしまったのかもしれない(笑)。
藤戸 僕からすると緒方さんは、以前からTwitterや雑誌で拝見していましたけど、実際はそういったものから伝わる以上に優しいし、パワフルな方だなと思います。クラウドファンディングの件もそうだし、Twitterでもおちゃらけたり、たまにエロスなことを言ったりしながらも、深夜が近くなると使命感にも似たことをつぶやかれて。
緒方 中二病ですから(笑)。中二病同士、今後共よろしくお願いします(笑)。
- ジェッジジョンソン
「ストライク・リビルド【ダウナー】」 - 2018年6月13日発売 / Bellwood Records
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[CD]
3024円 / BZCS-1164
- 収録曲
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- HAPPY
- ボーン・スピリッツ
- オリファント
- Please, sister kick me
- Sentinel
- Swan Dive
- Ridham M
- 02mixedLOUDER
- Ridham AR
- Thousands of Brave Word
- Rust
- 緒方恵美「EARLY OGATA BEST」
- 2018年5月30日発売 / Lantis
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[CD2枚組]
3888円 / LACA-9629~30
- 収録曲
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Disc-R
- silver rain -piano ver.-
- can't go back my mission -metal ver.-
- ジェラシーの痕跡
- カミング・アウト
- 青い宝石の君
- -RA・SE・N-
- 鏡の国のアリス
- "sunrise, sunset"
- Byo-Doでいきましょう'18
- hit man
- ENDLESS LOVE
Disc-L
- "Dear, My Angel"
- タイム・リープ
- believe me
- 約束するよ
- awarding ceremony
- ジェッジジョンソン
- 藤戸じゅにあ(Vo, G, Programing)を中心に1990年代より活動開始。打ち込みを多用した“エレクトロロック”で注目を集め、2004年にUKプロジェクトよりCDデビューを果たす。同年に発表されたアルバム「DEPTH OF LAYERS UPPER」「DEPTH OF LAYERS DOWNER」はカナダおよびブラジルのカレッジチャートで2位を獲得するなど海外でも好評を受け、2008年にはキングレコード内のロックレーベル・UNITED TRAXからメジャーデビュー。「Discoveries」「12WIRES」「SOLID BREAKS UPPER」と年1作のペースでアルバムをリリースするも、藤戸の病気による長期療養で2011年12月よりしばらく活動が休止された。2014年4月の東京・UNIT公演で正式に活動再開を宣言した。2016年5月にはインディーズ時代の楽曲をフルリメイクしたアルバム「ストライク・リビルド【アッパー】」、2018年5月にその続編となる「ストライク・リビルド【ダウナー】」をリリース。藤戸は映画音楽や他アーティストの楽曲提供も手がけており、アメリカ・ハリウッドなど国内外で活躍している。
- 緒方恵美(オガタメグミ)
- 声優 / アーティスト。1992年放送のテレビアニメ「幽☆遊☆白書」の蔵馬役で声優デビューを果たす。1995年にはテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主人公・碇シンジ役を務め、迫真の演技で広く注目を浴びた。同年より音楽活動もスタート。1999年のランティス移籍後はアーティスト活動を本格化させ、3オクターブ強の広い音域を持つパワフルな歌声を生かした作品をコンスタントにリリースしている。近年は海外でも積極的にライブを行っており、2017年には海外のファンにも正規ルートで楽曲を届けるべく、クラウドファンディングプロジェクトを立ち上げてアニメソングカバーアルバム「アニメグ。25th」を発表した。2018年5月にはセルフカバーベストアルバム「EARLY OGATA BEST」をリリース。