藤戸じゅにあ(ジェッジジョンソン)×緒方恵美|音楽で世界をつなぐ2人の矜持

過去の自分を否定するための「STRIKE ReBUILD」シリーズ

──今回は奇しくもお二人同時期に、自身のこれまでの楽曲を再構築するアルバムを発売されます。なぜ今このタイミングで、そういった趣旨のアルバムをリリースされるに至ったのでしょう。

藤戸じゅにあ

藤戸 僕らは2年前にリリースした「STRIKE ReBUILD UPPER」というアルバムから続く2部作なんですけど、この2作品ではインディース時代……それこそ「エヴァ」を観ていた頃の僕が作った20曲くらいを作り直しているんです。当時の僕は「これが最高」と思って作っていましたけど、もちろん今の僕の方が知識もスキルも上なわけで。次につなげるためにも、一度過去の自分を否定してみようかな、と。

──オリジナルと聴き比べると、全曲アレンジも録音もまったく違っていて面白かったです。

藤戸 全然違いましたか?(笑) 雰囲気はなるべく残そうとしたんですけど、無理でしたね。今の歌い方で歌うと、スタッフに「ジェッジっぽくない。当時の雰囲気を残しながら歌ってくれ」とハードルの高いことを言われて、当時の声色に似せて歌うなんてこともしましたし。

緒方 自分の真似みたいになっちゃうのも違うから、難しいですね。

──アルバムのラストには、6月2日に公開された劇場アニメ「『PEACE MAKER 鐵』前篇~想道~」の主題歌に採用された新曲「Rust」が収録されています。

藤戸 ジェッジジョンソンとして初のアニメ主題歌です。アニメ業界では僕なんか新参者ですけど、これは緒方さんに提供した楽曲を聴いた方がジェッジの音楽を認めてくださったことでいただけたオファーなので。緒方さんが僕にくれた未来なんです。

緒方 いやいやそんな! 実力です。そんなに持ち上げていただいても何も出ないですよ……?(笑)

過去の楽曲を今の自分で塗り替えた「EARLY OGATA BEST

──緒方さんの新作「EARLY OGATA BEST」は、2011年発売のアルバム「rebuild」以前の楽曲を、現在緒方さんが標榜する“エールロック”に昇華したアルバムということですが、これをリリースされた理由は?

緒方 ややスピリチュアルな話になってもいいですか?(笑) 私は昔から「演技でも歌でもトークでも、言霊の力が強い人ですね」と言われることがよくあったのですが、年月を重ねるごとにそれが顕著になっていて……2000年代半ばくらいには、「歌詞に書こうと思ったことがそのまま現実で起こる」ことが続くようになってきたんです。ポジティブな歌はいいんですが、失恋とか悲しい歌で、というのがつらくなってきて。そんな力をまんま信じてるワケじゃない。でも、もしそれが本当なら、誰かの希望になるような曲や元気を出してもらえるような曲を作ればいいんじゃないかって。それで2010年以降は、人を応援するロック……「エールロック」しか作らないと決めたんです。音楽性を決め、それを元に作った曲を歌うようにしたら、お客さんも増えてきて。そんな中、担当の吉江(輝成)プロデューサーから、声優活動25周年の締めくくりには、2010年より前の楽曲……私たちは“EARLY OGATA”と呼んでいるんですけど、EARLY OGATA楽曲をセルフカバーしないかという提案があって。昔の楽曲も、今の私たちの音に……そしてさらにパワーが乗った今の声で、エールロックとして昇華できそうな楽曲がある。それを中心にセレクトし、豪華編曲陣のアレンジや、パーマネントなバンドメンバーとで作り上げました。

緒方恵美

──2曲目の「can't go back my mission -metal ver.-」なんて思いきり原曲と雰囲気が違いますよね。

緒方 はい。原曲も疾走感はあるけれど、さわやかなポップスで。途中、1度だけデスメタルアレンジにしてみたところから、現在のバンドメンバーとライブでやるときはこういう音になり、そのメンバーと共に一発録りしたのが今回のバージョンです。特にドラムが……青山英樹くんは10年くらい私のバックで叩いてくれているんですけど、彼が叩き始めてからこれだけじゃなく、どの曲もメタルっぽくなっちゃうから「もういっそすべてメタルにしてしまえ」と(笑)。今の私のライブの、代表的なサウンドの雰囲気をこの曲に込めた感じです(笑)。

藤戸 4曲目の「カミング・アウト」もすごいですよね。歌詞が「ん?」ってなる(笑)。

緒方 あの曲は……20年前にいただいたとき、5拍子のジャジーな曲だったから、思い付きでヘアメイクの男性がだんだんゲイに目覚めていくという歌詞を書いてみたんです。

──それもすごい発想です(笑)。オリジナルバージョンでは、セリフ部分の女性役を柳瀬なつみさんと渡邊美香さん、男性役を作曲者の松尾早人さんが務め、おたっきぃ佐々木さんら当時の緒方さんの当時のラジオスタッフが“OKAMA軍団”として参加されていました。

緒方 今回は「暗殺教室」3年E組の声優陣がセリフを担当してくれています。「アニメグ。25th」で藤戸さんにアレンジをお願いした「バイバイYESTERDAY」を寺坂組で歌ったら、「ずるい」「なぜ俺たちを呼ばないんだ」と言ってきたメンバーがいたので、「カミング・アウト」では彼らに手伝ってもらいました。セリフは全面的に書き換え、渕上舞ちゃんがモデル役で、逢坂良太、水島大宙、高橋伸也が部活の先輩役。「汗をかくのは最高だな。俺は好きだ、お前の汗は」とか「お前、筋肉固まってるんじゃないか? 硬いな」って(笑)。彼らにはゲイのガヤもやってもらったのですが、ゲイの笑い声にはレコーディングスタッフにも入ってもらって……ちなみにその中には佐藤純之介氏もいます。

藤戸 マジですか?(笑)

緒方 全員参加ですから! そんなエキセントリックな曲はこの曲だけですけれども!(笑) ほかにも“EARLYなオガタ楽曲”の中から厳選した人気曲やタイアップ曲を、今の音楽仲間が集まって、一緒に宝石箱のような1枚に作り上げてくれました。このアルバムを通して、初期の曲しか知らない方に今の自分の声や音に興味を持ってもらえたり、今ライブ会場に来てくれている、中高生から二十代前半の若いファンの皆さんが昔の曲を知ってくれるきっかけになったらうれしいですね。

ジェッジジョンソン
「ストライク・リビルド【ダウナー】」
2018年6月13日発売 / Bellwood Records
ジェッジジョンソン「ストライク・リビルド【ダウナー】」

[CD]
3024円 / BZCS-1164

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収録曲
  1. HAPPY
  2. ボーン・スピリッツ
  3. オリファント
  4. Please, sister kick me
  5. Sentinel
  6. Swan Dive
  7. Ridham M
  8. 02mixedLOUDER
  9. Ridham AR
  10. Thousands of Brave Word
  11. Rust
緒方恵美「EARLY OGATA BEST」
2018年5月30日発売 / Lantis
緒方恵美「EARLY OGATA BEST」

[CD2枚組]
3888円 / LACA-9629~30

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収録曲

Disc-R

  1. silver rain -piano ver.-
  2. can't go back my mission -metal ver.-
  3. ジェラシーの痕跡
  4. カミング・アウト
  5. 青い宝石の君
  6. -RA・SE・N-
  7. 鏡の国のアリス
  8. "sunrise, sunset"
  9. Byo-Doでいきましょう'18
  10. hit man
  11. ENDLESS LOVE

Disc-L

  1. "Dear, My Angel"
  2. タイム・リープ
  3. believe me
  4. 約束するよ
  5. awarding ceremony
ジェッジジョンソン
ジェッジジョンソン
藤戸じゅにあ(Vo, G, Programing)を中心に1990年代より活動開始。打ち込みを多用した“エレクトロロック”で注目を集め、2004年にUKプロジェクトよりCDデビューを果たす。同年に発表されたアルバム「DEPTH OF LAYERS UPPER」「DEPTH OF LAYERS DOWNER」はカナダおよびブラジルのカレッジチャートで2位を獲得するなど海外でも好評を受け、2008年にはキングレコード内のロックレーベル・UNITED TRAXからメジャーデビュー。「Discoveries」「12WIRES」「SOLID BREAKS UPPER」と年1作のペースでアルバムをリリースするも、藤戸の病気による長期療養で2011年12月よりしばらく活動が休止された。2014年4月の東京・UNIT公演で正式に活動再開を宣言した。2016年5月にはインディーズ時代の楽曲をフルリメイクしたアルバム「ストライク・リビルド【アッパー】」、2018年5月にその続編となる「ストライク・リビルド【ダウナー】」をリリース。藤戸は映画音楽や他アーティストの楽曲提供も手がけており、アメリカ・ハリウッドなど国内外で活躍している。
緒方恵美(オガタメグミ)
緒方恵美
声優 / アーティスト。1992年放送のテレビアニメ「幽☆遊☆白書」の蔵馬役で声優デビューを果たす。1995年にはテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主人公・碇シンジ役を務め、迫真の演技で広く注目を浴びた。同年より音楽活動もスタート。1999年のランティス移籍後はアーティスト活動を本格化させ、3オクターブ強の広い音域を持つパワフルな歌声を生かした作品をコンスタントにリリースしている。近年は海外でも積極的にライブを行っており、2017年には海外のファンにも正規ルートで楽曲を届けるべく、クラウドファンディングプロジェクトを立ち上げてアニメソングカバーアルバム「アニメグ。25th」を発表した。2018年5月にはセルフカバーベストアルバム「EARLY OGATA BEST」をリリース。