バンドサウンドと打ち込みの融合をいち早く実践し、音楽シーンに新たな地平を切り開いたジェッジジョンソンの中心人物・藤戸じゅにあと、声優として長年に渡り活躍しながらアーティストとしても国内外で高く評価される緒方恵美。異なるシーンで活動していた2人だが、緒方が2017年2月に発表したオリジナルアルバム「real/dummy」に藤戸が楽曲提供したことをきっかけに親交を深めている。ジェッジと緒方は2018年春、奇しくも同時期に、それぞれ過去の楽曲をリメイクしたアルバムを作り上げた。音楽ナタリーでは偶然のシンクロをした藤戸と緒方の対談をセッティング。2人の対話は、出会いにまつわる話題やそれぞれの新作に関するエピソードから、海外でも活動する藤戸と緒方が感じている問題点にまで発展した。
取材・文 / はるのおと 撮影 / 服部健太郎
藤戸さん、酔っぱらいでしたよね?
藤戸じゅにあ(ジェッジジョンソン) 今日、謝らなきゃいけないことが1つあって……僕、緒方さんと初めてお酒の席を共にしたときにこけたんですよね。
緒方恵美 そうでした! 大丈夫でしたか? 藤戸さん、けっこう酔っぱらいでしたよね?(笑)
藤戸 はい(笑)。でも今日は言い訳をしたくって。あの日はちょうど二徹してハリウッドから帰ってきたところに、ランティスのプロデューサー・佐藤純之介さんから「緒方さんのマスタリングに参加しないか」というお誘いがあって伺ったんですよ。
緒方 「real/dummy」のマスタリング日でした。
藤戸 「それはぜひ!」と羽田からスタジオに直行し、そのあとの打ち上げに誘っていただいたら、乾杯して2杯くらいで寝てしまって……しかも外で。
緒方 え! 冬だったし、危険ですよ。
藤戸 すごく緊張していたとは言え、大変な醜態を晒してしまいました。
緒方 全然大丈夫。でも純さんは心配してましたよ(笑)。
藤戸 そのあと純之介さんと飲みに行ったときに「気を付けてください」と怒られました(笑)。
緒方 でも、藤戸さんくらい国内外をたびたび移動していたら、時差ボケで変な感じにもなりますよね。自分も海外には弾丸で行くことが多くて、到着したその日にリハーサルしてイベントして、次の日もリハーサルしてイベントして帰るみたいなスケジュールが多いから、そういうときは身体、キツいですし。
藤戸 去年台北に行かれていたようですが、あれも弾丸だったんですか?
緒方 ええ。「ダンガンロンパ」(ゲーム、アニメ、舞台などマルチメディア展開されている作品)のイベントを弾丸でやってきました(笑)。
劇場版「エヴァ」は公開前日の朝から並んで観た
──お二人の出会いについて伺います。藤戸さんがブログで2016年の5月に緒方さんから楽曲制作の依頼があったと書かれていましたが、それが最初の出会いでしょうか?
緒方 実はその前に、とあるゲームの挿入歌を作るとなったときにいただいたいくつかのデモの中に、藤戸さんの曲もあったんです。そのときは「すごく素敵な曲だけど、このゲームとは少し世界観が違うかな。ごめんなさい」となったんですけど、「real/dummy」を作る際に純さんから「この間ボツになったあの曲、アルバムにどうだろう?」という話があり、それで収録曲として提供いただいたのが「アルター・エゴ」です。
藤戸 僕は本当に緒方さんの声で育ってる世代なので、連絡が来たときはとにかく驚きました。蔵馬(テレビアニメ「幽☆遊☆白書」のキャラクターで、緒方の声優デビュー作)もそうだし、何より碇シンジ(テレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主人公)くんの声を当てている人ですから。「新世紀エヴァンゲリオン」は僕の音楽や価値観を構成する非常に大きな要素なんです。
緒方 え! それって……「エヴァ」で構成されるなんて危険な匂いがしますが……もちろん作品を卑下しているわけではないですけど、大丈夫かなって(笑)。
藤戸 本当に好きなんですよ。僕、劇場版の「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」(1997年公開)は公開初日前日の朝から新宿コマ劇場の行列に最前で並んで観たんです。
緒方 ええ!? 本当に大丈夫? なんかすみません……まさか冒頭からの1人エッチシーンに触発されているなんてことは……(笑)。
藤戸 いえいえ(笑)。公開初日はメディア取材も来ていて、一緒に並んでいた後輩2人がテレビのインタビューを受けたりして。あれから20年経って、まさか緒方さんの作品を構成する1人になれるなんて、夢のような気分でした。それこそアーティスト駆け出しの頃、酒の席の冗談で「将来、自分の曲を碇シンジくんの声で歌ってほしい」みたいな話もしていたんですよ。今はバンドを辞めちゃった友人から先日電話が来て、開口一番「本当になっちゃったね!」って言ってくれました。
──いい話ですね。
藤戸 「アルター・エゴ」を提供できただけでも感無量なのに、間髪入れずに緒方さんが関わったアニメの楽曲をカバーしたアルバム「アニメグ。25th」(参照:緒方恵美、アニソンカバーを世界に届けるクラウドファンディング立ち上げ)のアレンジャーにまで指名いただけて。
緒方 藤戸さんの音楽が持つオルタナな雰囲気とかエレクトロロックな感じは、私の周りにはあまりなかったものなので新鮮だったんです。藤戸さんにはテレビアニメ「暗殺教室」のオープニングテーマ「バイバイ YESTERDAY」のアレンジをお願いしました。「週刊少年ジャンプ」も好きだと伺っていたので(笑)。
藤戸 本当に好き勝手にやっちゃいました。ジェッジはドラムンベースを主軸としているので、アレンジ自体は水を得た魚のようにいつもの路線でやらせていただいたんですけど、緒方さんから「ラップを入れたい」という提案があったときはびっくりしました。
緒方 「バイバイ YESTERDAY」は、自分が演じていたイトナと仲のいい寺坂組(「暗殺教室」に登場するキャラクター5人組)のメンバーにも歌で参加してもらったんですよ。その中の寺坂竜馬を演じた木村昴くんがラップが上手なので、ぜひ入れてもらいたいなと思って。昴くんはドイツ人と日本人とのハーフで、ご両親共オペラ歌手でいらっしゃるんだけど、彼はラッパーなので。彼以外のメンバーには、キャラなりに楽しく歌ってもらったんですが、みんなの声を藤戸さんがきれいに整えてくださったものの、「きれいにしなくていいんです。荒くれチームの雰囲気を残してください」なんてお願いもしましたね。
藤戸 結局いただいたボイスデータを、ほぼそのまま使っちゃいました(笑)。
- ジェッジジョンソン
「ストライク・リビルド【ダウナー】」 - 2018年6月13日発売 / Bellwood Records
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[CD]
3024円 / BZCS-1164
- 収録曲
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- HAPPY
- ボーン・スピリッツ
- オリファント
- Please, sister kick me
- Sentinel
- Swan Dive
- Ridham M
- 02mixedLOUDER
- Ridham AR
- Thousands of Brave Word
- Rust
- 緒方恵美「EARLY OGATA BEST」
- 2018年5月30日発売 / Lantis
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[CD2枚組]
3888円 / LACA-9629~30
- 収録曲
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Disc-R
- silver rain -piano ver.-
- can't go back my mission -metal ver.-
- ジェラシーの痕跡
- カミング・アウト
- 青い宝石の君
- -RA・SE・N-
- 鏡の国のアリス
- "sunrise, sunset"
- Byo-Doでいきましょう'18
- hit man
- ENDLESS LOVE
Disc-L
- "Dear, My Angel"
- タイム・リープ
- believe me
- 約束するよ
- awarding ceremony
- ジェッジジョンソン
- 藤戸じゅにあ(Vo, G, Programing)を中心に1990年代より活動開始。打ち込みを多用した“エレクトロロック”で注目を集め、2004年にUKプロジェクトよりCDデビューを果たす。同年に発表されたアルバム「DEPTH OF LAYERS UPPER」「DEPTH OF LAYERS DOWNER」はカナダおよびブラジルのカレッジチャートで2位を獲得するなど海外でも好評を受け、2008年にはキングレコード内のロックレーベル・UNITED TRAXからメジャーデビュー。「Discoveries」「12WIRES」「SOLID BREAKS UPPER」と年1作のペースでアルバムをリリースするも、藤戸の病気による長期療養で2011年12月よりしばらく活動が休止された。2014年4月の東京・UNIT公演で正式に活動再開を宣言した。2016年5月にはインディーズ時代の楽曲をフルリメイクしたアルバム「ストライク・リビルド【アッパー】」、2018年5月にその続編となる「ストライク・リビルド【ダウナー】」をリリース。藤戸は映画音楽や他アーティストの楽曲提供も手がけており、アメリカ・ハリウッドなど国内外で活躍している。
- 緒方恵美(オガタメグミ)
- 声優 / アーティスト。1992年放送のテレビアニメ「幽☆遊☆白書」の蔵馬役で声優デビューを果たす。1995年にはテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主人公・碇シンジ役を務め、迫真の演技で広く注目を浴びた。同年より音楽活動もスタート。1999年のランティス移籍後はアーティスト活動を本格化させ、3オクターブ強の広い音域を持つパワフルな歌声を生かした作品をコンスタントにリリースしている。近年は海外でも積極的にライブを行っており、2017年には海外のファンにも正規ルートで楽曲を届けるべく、クラウドファンディングプロジェクトを立ち上げてアニメソングカバーアルバム「アニメグ。25th」を発表した。2018年5月にはセルフカバーベストアルバム「EARLY OGATA BEST」をリリース。