JAM Project コンセプトEP「THE JUDGEMENT」インタビュー|結成22年目のあくなき挑戦──新章へと踏み出したJAM Projectの“今”に迫る

JAM ProjectがコンセプトEP「THE JUDGEMENT」を9月28日にリリースした。

EPでは全7曲を通して、“神の審判”をテーマにした1つのストーリーを描いている。EP全体のサウンドプロデュースは寺田志保が担当。コンセプトや作品の作り方、サウンド面など、あらゆる点においてJAM Projectにとって挑戦の1作となった。

これまでアニメソングを歌い続けてきたJAM Projectが、タイアップなしで自らのメッセージを注ぎ込んだ本作。楽曲のストーリーの背景にはどのような思いがあったのか? 結成22年目にしてチャレンジャーであり続けるJAM Projectの“今”に迫った。

取材・文 / はるのおと

22年の活動で培われたオリジナル曲のポジション

──新作の話を伺う前に、JAM Projectにとってのオリジナル曲とはどのようなものだったかを振り返っていければと思います。それぞれ、活動のターニングポイントになったと感じる曲、もしくは今作にとって重要だったと思う曲を教えてください。

遠藤正明 俺はやっぱり「No Border」(2008年1月発表のシングル表題曲)かな。うちらはアニソンを歌うユニットですけど、オリジナルソングを掲げてワールドツアーに向かったということがすごく強烈に印象に残ってます。

きただにひろし 僕は「HERO」(シングル「No Border」カップリング曲)です。「僕らは愛を伝えよう 愛の歌を歌っていこう」というあの歌詞は、僕らが世界中で歌ってきたこととリンクしますし、グッとくるものがありますね。

──今回のアルバムのキーマンである寺田志保さんは「No Border」リリース後のツアーからライブのサポートメンバーとして参加し、「HERO」の編曲で初めてJAM Projectの楽曲に参加したので、そういう点でも重要ですよね。「HERO」は英語版やポルトガル版もありましたが、ああいったヒーローという概念への郷愁みたいな感情は全世界共通なんでしょうか。

きただに いろいろなところで話を伺ってると、そうみたいですね。

奥井雅美 意外と日本語で歌っても通じちゃうのもすごいけどね(笑)。私は自分で書いた曲なんですが、2004年発売のベストアルバム(「JAM Project BEST COLLECTION III JAM-ISM」)に収録された「Peaceful One」です。これがコロナ禍の今、特に合うなと思っていて。最後の「Dear friends 世界中から同じ歌きこえる日までは We never cry 投げ出さないように僕ら歌い続けよう」とか。当時は戦争や発展途上国の子供のことを考えて書いたんですけど。私たちはアニソンをメインにやっていますが、オリジナル曲ではせっかくだから自分たちの思いを伝えたいということはずっと考えながら作ってきました。

──同じアルバムに収録された「Cry for the Earth」もメッセージ性が強いものでした。

きただに でも、それから20年経っても状況があまり変わらないのが悲しいですよね。

奥井 今回のアルバムの制作中にも戦争が始まっちゃったし。「無力だな」と感じることもあるけど、続けることが大事なのかなと。人の心に少しずつでも影響を与えていければいいですね。

──残るお二人はどうでしょう?

福山芳樹 今回のアルバムを作るにあたってのキーワードの1つに「シアトリカル(theatrical=演劇的な)」があるんですが、それにつながるという意味もあって僕は「火の鳥」(2010年6月発売のアルバム「MAXIMIZER ~Decade of Evolution~」収録曲)を選びます。JAM Projectはアニメの主題歌を歌うことが多いから、89秒(アニメのオープニングやエンディングの標準的な尺)が先に完成して、そのあとに全体を作ることが多いんです。それとは逆に、初めから長大な曲として全体を作ることを目指して作ったオリジナル曲としては「Olympia」(2006年4月発売のアルバム「JAM Project BEST COLLECTION IV Olympia」収録曲)などもありましたけど、それを自分でもやってみようと思って作ったのが「火の鳥」でした。

──福山さんが作曲し、残るメンバー全員で作詞された大作でした。

福山 ただ、長い曲がさもはじめからできていたような感じで話していますが、全部曲や歌のいろんなパーツを集めてまとめあげてくださるアレンジャーさんのおかげなんですけどね。今回のアルバムでもそうですが、いろんな方にお世話になっています。

影山ヒロノブ 用意してもらったオリジナル曲のリストを見ていざ振り返ってみると、自分の趣味もけっこう出てるのが面白いなと(笑)。例えば自転車にハマってるときに作った「AREA Z~Song for J-Riders~」は、イントロで俺の自転車のギアの音が入っていたりして。「Magical Mystery Spice~マジスパのテーマ~」(スープカレー店・マジックスパイスのテーマソング)もそうだなあ。

──その2曲も収録されたオリジナルアルバム「AREA Z」(2016年6月発売)のリード曲「NAWABARI~背徳のシナリオ~」はEDMの要素が色濃く取り入れられたことで印象に残っています。

影山 その曲を編曲してくれたR・O・Nくんや、宮崎誠くんといった明らかに俺たちより若い世代のサウンドを作る人たちとやっていた頃だからね。JAM Projectはいろんなサウンドクリエイターに支えてもらっているけど、意図的に変えていったところもあるんです。気に入ったからって同じ洋服を着続けるのはダメな気がして、着替えが必要なのかなって。それが今回のアルバムだと寺田志保という女性にサウンドプロデュースをお願いした理由でもあります。

はなから「こうやったら売れんじゃない?」みたいなアイデアは外されてた

──これまでに作られたオリジナル曲の要素が今作につながっていることが感じられました。10月には作品を携えてのツアーがスタートします。コンセプトEPとツアーをセットで行うという今回の取り組みはどういう発想から生まれたのでしょうか?

影山 「2022年はどうしよう?」という話し合いの中で、スタッフから「JAM Projectの次のステップとして、オリジナルアルバムの制作とツアーを秋に一緒にしよう」という提案があったんです。その提案を受けてどんな内容にしようかと考えたときに、やっぱり今までにやっていないことをしようと。俺たちの曲って、タイアップ作品があって、キャッチーなロックで……と目的がはっきりしたものが多いじゃないですか。だからオリジナルを出せるタイミングでは、そうでないもの、もっと言うとメンバーのソロでも出せないものを探ろうかなと。そのほうがアーティストとして長期的には大事でしょうし。

JAM Project「THE JUDGEMENT」ジャケット

JAM Project「THE JUDGEMENT」ジャケット

──そこからEPの内容はどうやって決めていったのでしょうか?

影山 言い出しっぺは俺です。さっき福ちゃんがシアトリカルと言ったけど、映画みたいに1つのストーリーに沿って展開する作品を作りたいなと思ったんです。それで今の世界を見ていて感じていること……これまでさんざん痛い目に遭ってきた人間が、懲りずにまたまた悪いことをして、そろそろ本当に神様のような存在からご破産にされる、みたいな。言ってしまえば俺が好きなマンガの「風の谷のナウシカ」みたいな内容をミュージシャンとして表現しようと考えて、井上俊次(LAZYのメンバーとして影山とともに16歳でデビュー。Lantisの創立者で、JAM Projectのエグゼクティブ・プロデューサー)や志保ちゃんといったプロデューサー陣と一緒にストーリーや各曲の雰囲気をまとめてみんなに提案しました。

奥井 その時点で(影山)兄さんの中で作品の大まかな流れはしっかりできあがっていました。当時はまだウクライナの戦争は起きていませんでしたけど、それでも私が普段から考えているようなことと同じだったし、タイムリーな話だなと感じました。

──その影山さんが考えた流れに沿って、皆さんで曲を作っていったと。

きただに そうです。今回はZoomで毎週集まってデモを持ち寄って1曲ずつ聴いて、そこから詰めていったんですけど、簡単に集まれるのもあってこれまでで一番話し合ったんじゃないですかね。

遠藤 「今週はこの話の曲を作りましょう」と決めて、俺たちは兄さんが考えたコンセプトに沿ってデモを作る。その中でよさそうなメロディやパーツを兄さんや俊次さん、志保ちゃんが選んで1曲にまとめていくという流れでした。自分が出した曲がどんなふうに使われるかわからなかったので、できあがったときには「こういう感じになるんだ」と新鮮に感じることも多かったです。

奥井 あくまでコンセプトを表現するための曲なので、はなからキャッチーなデモや「こうやったら売れんじゃない?」みたいなアイデアは外されてたよね。「今回はそういうんじゃないよ」ってことで。

遠藤 でもそのコンセプトと自分が考えていた世界観がずれていることもあって、自分が考えていたメロディがほかの曲に使われていることもあったりしてそれも面白かった。トンチンカンなのを作っていたのは主に俺や福ちゃんですけど(笑)。

影山 「トンチンカン」ってひさびさに聞いたな。

福山 2人で「俺たちずれてるよね」って話していたよね。

奥井 Zoomで面白かったのが、みんなが作ってきたデモを聴く前のプレゼン。例えばダニーの作ってきたものを聴く前なら「じゃあ、きただにさんから何かひと言」って流れが毎回あって。

福山 公開処刑みたいだったよね。

遠藤 あれはいらなかった(笑)。

きただに でもヒカルド(・クルーズ)のプレゼンは熱かった!

遠藤 そういう細かい話もじっくりしていったからこそ、作品全体の世界観をきちんと理解してこの1枚を完成させられました。

奥井 今回、私は曲を出していないので歌詞を3曲分書いたんですけど、みんながZoomで話しているのを聞いていたのでイメージしやすかったです。曲を作るほうが大変だったと思います。