ナタリー PowerPush - 泉 沙世子

映画「二流小説家」主題歌 テーマは“剥き出しの愛

“ヴユヴユ”って連呼する歌を

──カップリング「Love you Darling」は「手紙」とはすごく対照的な、ライトに聴ける1曲ですね。

これは2年くらい前に作った曲で、おっしゃるとおりライトとかかわいい印象の曲ですね。でも、歌詞はけっこうべちょってしてて(笑)。甘いというよりは甘ったるい感じ……ノドにこびりつくような甘さです(笑)。

──でも、このサウンド感だとあまり甘ったるく聞こえない。

はい。女の子が半身浴のBGMでかけてるくらいの軽いサウンド感なんだけど、実は歌詞はちょっと重たいっていう感じですね。

──もともとはどういうきっかけで生まれた曲なんですか?

泉 沙世子

Loveの「ヴ」と、youの「ユ」の音の響きが気になって、“ヴユヴユ”って連呼する歌を作ろうと思って。そしたら「Love you……Love you Darling」というフレーズが出てきたので、だったら思い切り振り切って甘い歌詞にしようかなと。

──“ヴ”と“ユ”の音の響きはどうして気になったんですかね?

それが覚えてないんですよ(笑)。何か外国の映画を観て「その発音なんなん!?」みたいに、気になったのかもしれない。普段から私、そうやって突然何かの音に引っかかることがよくあるので。

──タッチこそ全然違うけれど、歌詞は「手紙」も「Love you Darling」も相手に対する強い思いが描かれていますよね。

そうですね。確かに2曲の印象は違うんですけど、同じ1人の女性がどっちにも転がりうるというか。「Love you Darling」も、いつどうなるかわからない危うさはあると思いますし、数カ月経ったら「手紙」みたいになってるかもしれない(笑)。

もともとこういう髪型が好き

──お話は前後しますが、先程「『こうしたい、ああしたい』っていうものが増えた」とおっしゃったように、最近は自分のクリエイティブな部分をもっと出していきたいと思っているんですか?

そうですね。もともと自分の中に何の基準も持っていなかったものも、周りのスタッフさんがいろいろ提案してくれることによって、「あ、それが基準ならもうちょっとこっちのほうが……」というのが出てきたりして。そこを打ち合わせで詰めたりする作業は本当に楽しいですね。例えば「PVのイメージを色で例えると?」って聞かれて最初は「なんやろ?」と思ってたとしても、「じゃあ黄色は?」っていうひとつの基準をもらえることで「それよりはもっと赤かな」とか、イメージを伝えられることがいろんな場面であって。

──なるほど。

歌詞、曲、ヘアメイク、パフォーマンス……本当にたくさんの場面なんですけど、そうやって何か軸を示してくださるからこそ、自分の「もっとこうしたい」が出てきたのかなって。

──今回、髪を切ったというのはどうしてですか?

もともとこういう感じが好きなんですよ。今回のジャケット写真やPVの衣装も、見てもらえれば「こういうのが好きなんだ」ってパンッて伝わると思う。

──それくらいビジュアル面でも自分を出していこうと。

最初の頃は、曲作りでいっぱいいっぱいっていうのもあったと思ったんです。だから衣装を用意してもらって「これはどう?」って聞かれても「ほかのことに必死すぎてわかれへん!」みたいな(笑)。今はその状態から少し抜けて、ほかのことも落ち着いて見られるようになってきたのかなって。

素直に「好き」ってセンサーが働くものに囲まれていたい

──ここまでのインタビューでも、前回お話を聞いたときより自分の思いをしっかり包み隠さず伝えてくれてる気がします。それも泉さんの内なる変化が影響している?

そうかもしれないですね。以前は「何を求められてるんだろう?」って考えながら話してたというか……。もちろんそういう気持ちも常に持っていたいとは思うんですけど、その比重が大きすぎた気がして。例えば「この歌をどんなふうに聴いてほしいですか?」って質問されたとして、正直、どう聴いてもらってもいいと思ってるんです。そこまで設定する必要ある?って思うし、私は好きなように受け取ってもらって、好きなように楽しんでもらいたいので。

──はい。でも今までの泉さんはどうでした?

なんか、質問をされたらなんとかその問いに答えねば!みたいな気負いがあったのかな(笑)。だから「こんなふうに聴いてほしいです」って一応絞り出してたんですけど(笑)、なかったら「ない」って言ってもいいのかなって。それが自分にとって一番自然かなって思えたのは大きいと思います。

──そういうモードになったことで、今後何か変わっていきそうだなと思うことはありますか?

素直に「好き」ってセンサーが働くものに囲まれていたいなって。あまり固定概念にとらわれず、自分が好きな色、形、曲……それらをつなぐ核が自分であれば、それがおかしいってことはなくなっていくと思うんです。だからより自分がこうありたいっていうものを強くしていって、好きなものをつなぎ合わせる中心に自分がいられたらいいなって。もちろん皆さんの意見を聞いたり、プロの方の手を借りたいって気持ちもあるんですけど、やっぱり私、好き嫌いはすごくあるみたいで(笑)。

──好きになれないものは、どうしても好きにはなれない?

そうですね。だから歌を一番いい状態で歌うためにも、ワクワクするもの、直観で「あ、いいなー」って寄って行きたくなるものを選んでいきたいと思います。

泉 沙世子
ニューシングル「手紙」 / 2013年6月12日発売 / 1050円 / KING RECORDS / KICM-1450
ニューシングル「手紙」
収録曲
  1. 手紙
  2. Love you Darling
  3. 手紙(instrumental)
  4. Love you Darling(instrumental)

泉 沙世子

映画「二流小説家 -シリアリスト-」

2013年6月15日全国公開
監督:猪崎宣昭
出演:上川隆也 / 片瀬那奈 / 平山あや / 高橋惠子 / 小池里奈 / 伊武雅刀 / 武田真治 ほか
原作:「二流小説家」デイヴィッド・ゴードン / 青木千鶴訳(ハヤカワ文庫)
配給:東映

泉 沙世子(いずみさよこ)

1988年10月28日、大阪府豊中市生まれのシンガーソングライター。岡山県で育ち、小学生のときに歌手を志す。中学生時代よりオーディションを受け始め、高校卒業後に上京。地道な音楽活動を続け、2012年に開催されたキングレコード創業80周年記念オーディション「Dream Vocal Audition」でグランプリを受賞し、2012年11月にシングル「スクランブル」でメジャーデビューを果たした。2013年6月12日に3rdシングル「手紙」をリリース。表題曲の「手紙」は上川隆也主演映画「二流小説家 -シリアリスト-」の主題歌に採用された。