伊藤美来「This One's for You」インタビュー|胸を張って届ける歌の“ギフト”、10のキーワードでアーティストとしての魅力に迫る

声優の伊藤美来が4thアルバム「This One's for You」をリリースした。

2013年に声優デビューしたあとすぐ、ユニットでの音楽活動もスタートさせ、その後2016年にソロでアーティストデビューを果たした伊藤。「五等分の花嫁」「BanG Dream!」などのヒット作品に出演し、人気声優として活躍する多忙な日々を送りつつも、それと同時に歌手として楽曲をコンスタントに発表し続けている。

そんな伊藤が今回リリースしたアルバムのテーマは「ギフト」。ファンへの贈り物という意味に加え、「それぞれの個性を誰しもが持って生まれた天賦の才能と捉えることで、すべてを肯定し受け入れることのできるアーティストになりたい」という思いが込められている。音楽ナタリーでは10個のキーワードに沿ってロングインタビューを行い、音楽の原体験、歌うことへの思い、アルバムのテーマを「ギフト」に決めた理由などを聞いた。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 梁瀬玉実

キーワードその① 音楽の原体験

──一番古い音楽の記憶はどういうものですか?

小学校、幼稚園くらいまでさかのぼりますね。週末、学校や幼稚園がお休みの日はだいたい家族でドライブしていたんですけど、お父さんが車の中でよくスキマスイッチさんとか槇原敬之さんを流していた覚えがあります。そのあたりが一番古い記憶かもしれないです。

──自分で意識的に音楽を聴くようになったのは?

小学校高学年くらいに「ミュージックステーション」とか歌番組を自発的に観るようになった気がします。あと、そのとき流行っていたドラマの曲を聴いて興味を持ったりとか。自分でCDを買ったりし始めたのは中学1年生くらいだったと思うんですけど。

伊藤美来

──最初に買ったCDは?

aikoさんの「まとめI」「まとめII」っていうベストアルバムでした。お小遣いを貯めて初めて自分で買ったのがそれで、それこそ毎週のドライブのときに流してもらって、めっちゃ聴きまくってましたね。

──aikoさんが特にお好きだったんですか?

好きでしたね。今も好きなんですけど、どうやら私は女性シンガーソングライターが好きみたいで。aikoさんのほかにもmiwaさんとか、YUIさんとか……下の名前を英語表記する方ばかり(笑)。当時は歌詞の内容とか深いところまでは全然理解していなかったんですけど、声の聴き心地や曲調がシンプルに好きだったんだと思います。

──女性シンガーソングライターの中でも、比較的かわいらしい系統がお好きなんですね。

ですね。あんまりバンド系とかは通ってこなかったです。

──すごくイメージ通りです。歌うことは好きでしたか?

歌う経験自体があまりなくて。中学3年生くらいのときに友達に連れられてカラオケに行って、そこで初めて「歌うって、こんな感じなんだ」と認識したくらいでした。

──そこで「自分は歌う人になるんだ」と思ったりは?

全然なかったですね(笑)。カラオケも誘われたら行くけど、自分から1人で行ったりするようなことはなかったですし。どちらかというとみんなと仲よくなりたくて、「みんなが好きなジャンルの曲を覚えて、盛り上げるために歌おう」みたいな感覚でした。ただ、当時から声に特徴があるとは思ってもらえていたみたいで、「美来にはこの曲が合うと思うよ」と勧めてもらって……リクエストじゃないですけど(笑)、その曲を覚えていって歌ったりしていましたね。それで褒めてもらえると、やっぱりすごくうれしかったです。

キーワードその② 声優

──その後、伊藤さんは声優を志すわけですけど、そのきっかけは「カードキャプターさくら」だったそうですね。

そのカラオケに連れて行ってくれていた友達がアニメ好きで、「これ観て。これも観て」っていろいろ布教してくれたんですよ。その中で「CCさくら」もオススメしてもらって……それまでアニメと言えば「ドラえもん」とか「サザエさん」くらいの知識しかなかったので、「こんな世界があったなんて!」と衝撃を受けたんです。その子は声優さんのことにもすごく詳しくて、私が声優という存在を知ったのもそのときですね。

──そこで「自分もやりたい」という気持ちが芽生えたわけですね。

はい。ちょうどそのとき中学3年生だったので、進路について先生からつつかれたりもしていて(笑)。まだ将来やりたいことが特に決まっていなくて漠然としたままだったこともあって、思い切ってチャレンジしてみようかなと思ったのが声優を目指したきっかけです。

──歌に対してはそこまでの思いはまだなかったけど、声優については積極的にやってみようという気になったんですね。

すごく魅力的に思えたんですよね。もともとお芝居を観ることが好きで、小さいときからお母さんにミュージカルや舞台に連れて行ってもらったりもしていたので、演じるということ自体にそもそも興味があったんだと思います。小学校の学芸会にもすごく積極的に参加してましたし。

──ただ伊藤さんの場合、デビュー当時からとにかく歌って踊る仕事が多かったですよね。

そうですね。デビュー作からして歌うコンテンツ(「アイドルマスター ミリオンライブ!」)だったので。

伊藤美来

──そこに違和感はなかったですか? 「私はお芝居がしたいのに、歌ってばっかりだな」みたいな。

違和感を持てるほどの余裕はなかったですね(笑)。当時はまだ思考も全然子供で、何もわからなくて。確かに、思った以上に歌を歌う機会が多くて、「声優さんってこんなにイベントがあって、こんなに人前に出て歌ったりする機会があるんだ」という驚きはあったかもしれないですけど、とにかく渡された楽曲を必死で覚えて練習することだけで精一杯の日々でした。

──そんな必死の日々は、楽しかったですか?

「楽しい」までは至ってなかったですね。とにかく「がんばらなきゃ!」みたいな。「とりあえず現場に行くんだ!」「これを覚えるまでやるんだ!」とか、目の前にあることを必死にやっていた感じです。若さだけで食らい付いてました(笑)。

キーワードその③ 歌手活動

──その後もStylipSへの加入やPyxis結成など、「歌手が本業なのかな?」というような活動が続きますよね。

そうですね。

──どこかで「あれ? 私、役者になったはずでは?」と我に返ったりはしないものですか?

その考えに至るのが、私は遅かったと思います。ちょうど私が10代後半から20歳になるくらいの頃、声優業界の中で「歌を一生懸命やりすぎるのは役者として恥ずかしいことだ」みたいな風潮が少しあったんですけど、他事務所の同業の子たちと触れ合う中で「あ、そういう考えを持っている子もいるんだ」と初めて知ったくらいで……。「そっちに時間を取られてていいの?」みたいに言う子たちと話していると、「私、大丈夫なのかな?」と思うようになり……まあ、揺れ動きやすい年齢でもありましたし、よく悩んではいましたね。

──さすがに今は揺らいでいないですよね?

そうですね。時間はかかりましたけど、今はお芝居のときの私も歌っているときの私も、どっちも私だと思えるようになりました。

──そう思えるようになったのはいつ頃でしょう? 明確に「このとき」と言えるものでもない気はしますが……。

うーん、いつ頃だろう……?

──2016年のソロデビューの前か後かでいうと?

あとだと思います。「ソロアーティストとしてデビューします」となったときの私は、ただのイエスマンでしたから(笑)。「やってみない?」と言われてとりあえず「イエス」と答えてのちのち苦しむ、みたいな……声優業界に入ったときとまったく同じことを繰り返している感じなんですけど。

──自身のあり方について揺らがなくなったきっかけは何かあったんですか?

やっぱり周りの意見をちゃんと聞けるようになったことでしょうね。「あれ、大丈夫かな?」という不安が出てきたものの、それで何か悪いことが起きているかというとそんなことはまったくなくて。むしろ、いいことしか起きていなかったですし。

──その時点では、もう日々を楽しめていました?

いや、つらかったですね。まだまだ慣れないことだらけで、大変なことが多かったので。何度も辞めようと思ってお母さんに相談したり……でも相談したらしたで「じゃあ辞めたらいいじゃん」みたいにあっさり言われるんですよ。そう言われちゃうと私も「『辞めたらいいじゃん』とかじゃなくてー!」ってなって(笑)。たぶん私の性格を熟知してるから、あえてそういう言い方をしてきたんだろうなと。昔からけっこう負けず嫌いなところがあるので、お母さんとしてはそれを逆手にとって、「まだがんばりな」という意味でそう言ってくれていたんじゃないかなと今では思ってます。

伊藤美来

──今の伊藤さんがあるのは、親御さんのおかげも大きいんですね。

そうですね。両親はずっと応援してくれています。

──ちょっと話が逸れますが、子供の頃に将来なりたかったものって何かありました?

いっぱいありました! 「キラキラしたものは全部好き」みたいな普通の女の子だったので、メイクさん、お花屋さん、アイスクリーム屋さんとか。女の子が好きそうなものを片っ端から口にしてましたね。

──なるほど。根底にそれがあったから、つらくても仕事を続けてこられた部分もありそうですね。声優にせよ歌手にせよ、女の子の憧れる華やかな世界での仕事ではあるわけですから。

あー、確かに! 今まで考えたことなかったですけど、そこへの女の子的な憧れはずっとあったんだろうなあ。キレイな洋服を着させてもらったり、写真を撮ってもらえたりしますしね。