石崎ひゅーいインタビュー|必死にもがき苦しんだ先に見つけたもの。それは光り輝くダイヤモンドだった

石崎ひゅーいがニューアルバム「ダイヤモンド」を12月22日にリリースする。ベストアルバム「Huwie Best」(2018年3月)やミニアルバム「ゴールデンエイジ」(2019年3月)を発表してきたものの、石崎がフルアルバムをリリースするのは「アタラズモトオカラズ」(2016年12月)以来、およそ5年ぶりとなる。今作には「Namida」「パレード」「Flowers」「アヤメ」「ブラックスター」というシングル曲や、ドキュメンタリー映画「私は白鳥」の主題歌「スワンソング」に加え、私立恵比寿中学に提供した「ジャンプ」のセルフカバーなどが収められる。必死にもがき続けたゴールデンエイジ(成長期)を経て完成した「ダイヤモンド」。本人に話を聞くと、それは自身も「新しく生まれ変わった石崎ひゅーいを見せられる」と確かな手応えを掴んだ、ファンへの最上級のプレゼントだった。

取材・文 / 丸澤嘉明

「ゴールデンエイジ」の頃から変わってきた制作意識

──5年ぶりのフルアルバム発売ということで、まずはおめでとうございます。横浜赤レンガ倉庫でのライブで発表したときのお客さんの反応だったり(参照:石崎ひゅーい、全18公演のアコースティックツアーの幕をそっと下ろす)、そのあとのSNSでの反応だったり、やはりファンの人たちはずっと待っていたんだなと。

ありがとうございます。でも不思議な感じなんですよね。人に提供することも含めて、曲作りはずっとしていたので、そんなに時間が経った感覚は実はあまりなくて。もちろんファンのみんなのことを考えると待たせちゃったなというのはありますけど。

石崎ひゅーい

石崎ひゅーい

──2019年3月にミニアルバム「ゴールデンエイジ」を発表していますが、フルアルバムとなるとまた心持ちが違いますか?

そうですね。今回はシングル5曲があって、残り6曲をツアーの最中にレコーディングしたんですけど、ひさびさにアルバム制作をしている感触はありましたね。

──それはどういう感触でしょう?

既存曲を5曲入れることは決まっていたから、そのほかの曲をどういうふうに作っていったらいいか考えながら作業しました。「こういうアプローチが足りないな」とか、全体のバランスを見ながら構築していったというか。特に今回はサウンド面についても、アレンジを担当してくれたトオミヨウさんに「こういう音作りにしたい」と伝えて制作しました。これまであまりそういうことは言ってこなかったんですけど、「ゴールデンエイジ」を制作しているあたりから徐々に変わってきていて。

──デビュー当時からずっと、アレンジに関してはトオミさんにお任せでしたよね。自分でサウンド面を考えるにあたって、アルバム全体としてこういう肌触りの作品にしたいというイメージはあったんですか?

既存曲が映画やアニメの主題歌などでどっしりした曲が多かったので、僕の中に本来ある遊び心みたいなものとか、少し破壊的な要素もバランスよく入れたいというのはありました。「ゴールデンエイジ」を発表してから2年くらいの間でいろいろと吸収してきたものを、このアルバムで総括したいなと。

これからの日本を作っていく世代のために

──それでは収録曲について伺いたいと思います。1曲目の「ジャンプ」は私立恵比寿中学に提供した楽曲のセルフカバーです。7月にYouTubeチャンネルの「THE FIRST TAKE」で共演しましたが、あのときはどういう心境でしたか?

あれはもう教育実習生の先生みたいな気持ちですよね(笑)。あえてそこまでコンタクトは取らなかったですけど、安本(彩花)さんが活動休止から復帰したタイミングだったので、やっぱりエビ中は自分たちが背負っているストーリーをわかっていて、僕はそこに合わせていくだけでよかったというか(参照:私立恵比寿中学・安本彩花、2度のピンチを乗り越え「THE FIRST TAKE」で復活するまでの長い道のり)。

──その「ジャンプ」を、なぜセルフカバーしようと思ったんでしょう?

エビ中に提供した曲なんですけど、実は制作中から自分でも歌いたいと思っていました。「ゴールデンエイジ」の収録曲と同じ時期に制作していて、その頃は石崎ひゅーいの新しい扉を開けなくちゃいけないと思っていたんです。ベストアルバムを出してそれまでの活動にひと区切りつけたあとだったので。先ほど「『ゴールデンエイジ』の制作から徐々に変わってきた」と言いましたけど、もっと正確に言うとこの「ジャンプ」からなんですよ。アレンジも含めたアプローチを考えるようになったのは。具体的にはEDMにフォークロックやカントリーの要素を付け足してそれをJ-POPに落とし込む。そういう曲がJ-POPのチャートの中に入っていたら面白いなという発想で作ったんですよね。

──なるほど。

「ゴールデンエイジ」を作っていた頃は、自分の半径を広げるというか、世代を超えていこうと思っていた時期だったんです。「ジャンプ」は僕が新しく生まれ変わるためのテーマ曲ができたという手応えがあって。あとはこのコロナ禍で1年、2年というスパンで青春時代がごっそり奪われてしまった10代、20代の若者たちが、どんな思いでいるのだろうと考えていました。そんなときにこの「ジャンプ」のメッセージを伝えたいと思ったんです。

──これまで当たり前のようにあった学校生活が送れなくなってしまいましたからね。

そう。僕を形成しているのは間違いなくその頃の経験だから。それこそ高校1年生のときに本格的にライブハウスでバンド活動を始めて、それがあったから今の僕があるんですけど、もしもそれができなかったら……と考えたら怖くなってしまって。今の若い子たちはきっとすごく葛藤していると思うから、その子たちに対して明確に歌を投げかけないといけないと思ったんです。

──そういう意味でも、エビ中が歌ってすでに若い層に届いている曲を改めて石崎さんが歌う意味があるというか。

まさにそうです。これからの音楽シーンや日本の社会を作っていくのはそういった子たちだから、その世代の葛藤に寄り添いたいと思ったんですよね。だからこの曲は絶対に自分でも歌いたかった。最近10代、20代の子たちの音楽──例えば崎山蒼志くんの曲を聴くと、お尻を叩かれまくるんですよ。自分もまだまだがんばらないといけないなって。

石崎ひゅーい

石崎ひゅーい

──菅田将暉さんに提供してその後セルフカバーした「さよならエレジー」しかり、今回の「ジャンプ」しかり、人に提供した楽曲をしっかりと“石崎ひゅーいの曲”として提示している印象を受けたんですが、今の話を聞いて合点がいきました。自分で作った曲だから当たり前と言えば当たり前なのかもしれませんが、どちらも原曲のイメージに引っ張られることなく聴けると言いますか。

「エレジー」は今の時代に歌謡ロックという形で届けるのがいいんじゃないかと思って作ったんです。聴いてくれる人たちのことを意識していたから、そういう意味でちょっと似ているかもしれないですね。

──「ジャンプ」のセルフカバーは原曲に比べてアイリッシュっぽい響きですね。

エビ中バージョンはストリングスがフィーチャーされていますけど、最初はこういうアイリッシュっぽいアプローチだったんですよ。今まであまり曲で表現してこなかったんですけど、僕は昔からこういう音の響きが好きで。新しい自分を模索していたときに作った曲だったので、今までとは違う石崎ひゅーいを見せられるんじゃないかという思いはありました。

──この曲はサビのコーラスなどエビ中メンバーがみんなで歌うからこそ表現できる感情の昂りがあると思うんですが、石崎さん1人で歌うに当たり、そこはどう意識しましたか?

そこは逆にあまりエモくなりすぎないように意識しました。最近全部の曲に共通するんですけど、聴いた人が感情を移入できる余白を残した歌い方をしたいと思っていて。今までは「俺のすべてを出すから全部受け止めてくれ!」という歌い方しかできなかったんですけど、今回のアルバムではそうならないようすごく意識しましたね。この歌は特に、僕じゃなくて聴いてくれる人たちの歌になってほしかったので。