ナタリー PowerPush - 石橋凌

「SHOUT of SOUL」な表現者人生を振り返る

「凌、それは清志郎の独特の愛情表現だから」

──1990年に代々木第一体育館で行われたARBの解散ライブにはCHABOさんがゲストで出演されました。去年の南青山MANDALAでCHABOさんも「あのとき、なんで呼んでくれたのか……」と回想されてましたが、どうしてCHABOさんだったんですか?

うーん。なんかこう、清志郎さんよりCHABOさんのほうが入りやすかったんでしょうね。そういえば昔、大阪のイベントで、僕らの次がRCだったことがあってね。楽屋の廊下で清志郎さんとすれ違ったんですけど、清志郎さん、「あ~ちこちで~、クーデターが~、起こりだす~」って、僕らの「BAD NEWS」を鼻歌で歌ってるんですよ。挨拶も何も交わしてないのにですよ。なんでだろ?って、ずっと気になっててね。そのことをあるときCHABOさんに話したら、「凌、それは清志郎の独特の愛情表現だから」って(笑)。「興味があるってことの裏返しなんだよ」って。清志郎さんとはほとんど話す機会がなかったんですけど、そんなことがありましたね。

──RCとARBは当時イベントなどで一緒になることが何度かありましたけど、それほど混じり合うことはなかったですよね。けれども去年のMANDALAでCHABOさんは「マイオールドフレンド、石橋凌!」と言い、凌さんも「マイソウルメイト!」とおっしゃってた。ずっと親しかったわけではないけど、同じ時代をそれぞれの場所で闘い抜いてきた者同士として、友達以上の特別なものがあるんだなと感じたんです。

うん。なんかCHABOさん、今もツアーをしながら、よくオレのことをMCで喋ってくれてるらしくてね。スタッフがやってくれてるTwitterによくファンの人の声が来るんですよ、「またCHABOさんが凌さんの話をしてましたよ」って(笑)。「風音」の前日にじっくり話したときにも、CHABOさん、こう言ってくれてね。「音楽から離れていたときも、凌は俳優として闘ってたんだね。やっとわかったよ」と。「改めて石橋凌という男を見直すことができたよ」って言ってくださって、それはやっぱりうれしかったですね。自分はかなり人に誤解を与えるような極端な生き方を選んできたわけですけど、でも1つひとつ筋を通して、余裕もなく歩いてきた時間だったわけで、そこをわかってもらえるのは本当にうれしいし、ありがたいことだな、と。

震災後しばらくは静観すべきだと考えていた

石橋凌

──さて話は変わりますが、去年7月には被災地である宮城県の山元町でライブをされました。

2年前のあのときにまず思ったのは……まあ、どなたも思ったことでしょうけど、自分には何ができるんだろうと。で、自分ができることは、やっぱり歌を歌うことと映画作りに参加すること、あとはそれをどう届けるかってことですけど、文化とか娯楽とか芸術っていうのは、順番としてはまず衣食住が足りてからじゃないですか。だから自分としてはいつかタイミングが来たらっていうふうに思っていて、言い方は悪いけどしばらくは静観すべきだと考えていたんですね。で、そうこうしているうちに、Twitterをやってくれてるうちのスタッフのところに山元町の被災した人からツイートが来まして。読んだら、ほかの被災地のようにテレビやマスコミが取り上げないところで、陸の孤島と化していて、30代40代の男たちが途方に暮れていますと。じゃあってことで、最小限の発電機と楽器を持っていって、そこでやったんです。

──炊き出しをしたり、町民の皆さんと酒を飲み交わしたりもされたとか。

はい。初めから決めてたんですよ。もちろん歌いに行くわけだけど、握手したり、彼らの話を一方的に聞くだけでもいいじゃないかと。それが自分にできることかなっていうのがあったので。

──12月の赤坂BLITZ公演の模様を収めた今回の映像作品「SHOUT of SOUL」には、その山元町のワンシーンも挿入されていて、そこから「我がプレッジ」につながっていく構成になっています。それによって「我がプレッジ」の「ONE MORE TIME, ONE MORE CHANCE もう一度生まれ変わろう」という歌詞がとても力強く響いてくる。復興の歌ではないけれど、そのような意味合いも伴って胸に響いてきます。

あの歌はソロアルバムの新曲の中で一番初めにできたんですよ。震災の半年くらい前にできた曲で、あれは自分自身を鼓舞するために書いた曲だったんです。自分の年齢を考えて、このまま終わっていくのか、いやもう一回!という思いで、自分を叱咤するために作ったもので。でも、それが被災された方たちにもどこかで共感してもらえるものになったなら、それは意味のあることだなと思います。またこういう時代ですから、被災されてなくても、いろんな場所で多くの人がいろんな悩みを抱えながら生きている。そういう人たちにも届くような普遍的なところにこの歌がいけばいいなというふうに思いますね。

──この曲を歌いながら、凌さんは涙を流されていました。あのとき、どんな思いが去来したのでしょうか。

書いたときの自分自身の気持ちがよみがえってきたんです。うん。例えば僕は俳優の仕事をしているので、いろんな人間の役をもらうわけですよ。朝の5時に現場に行って、セッティングが終わったらカメラが回る。そしたら7時からもう涙を流さなきゃいけない仕事なわけです。あるいは大声で笑ったり、怒ったり。状況や時間にかかわらず喜怒哀楽を表現するのが俳優の仕事なわけですね。だけど音楽をやるときは、僕はまったくの自分自身でいたい。例えばうれしいとか楽しいという気持ちであれば、それを隠すことなく素直に笑いたい。で、悲しい思いの歌を歌ったりして涙が出たら、それは止めなくてもいいんじゃないかと思っているんです。そこにいるのは俳優として演じる自分ではなく、素の自分なわけだから。

──音楽活動を再開し、1年間走ってきてようやくここまで来れたというような感慨もあったのでしょうか?

ああ、それもありましたね。やっぱりこういう世界で仕事をしているとすべてが整ったところで作業していると思われがちなんですが、決してそんなことはなくて、結局1つひとつをきちんとやって一歩ずつ進んでいくしかないんですよ。しかも僕は俳優とミュージシャンの2つを選んじゃったもんだから、人の倍、時間がかかっちゃうんですね。それはもうしょうがない。自分で選んだ道ですから。「我がプレッジ」はそういう思いから書いた歌で。「ふと立ち止まった陽だまりの坂道で 一生懸命咲き誇る路傍の花」とありますが、実際に吉祥寺のある一角に花が生えてるところがあって、それを見て書いたんです。それは僕の中のリアルな一場面であってね。長い道を歩き疲れてその花に見とれていたときがあったのは事実なんですよ。そのときのことがよみがえってきたわけですけど……ただ、それを涙しながら歌うんじゃなく、普通に歌えるようにならなきゃいけないなとも思いましたね。だって僕が感じている苦労なんかよりもはるかに大変な思いをしている人がたくさんいるわけじゃないですか、特に被災地には。だから、やっぱりプロとしてって考えると、涙を見せずにちゃんと歌えなきゃいけないのかもしれない。でもね、前の自分だったらそこで強がって、弱さを見せずに自分を表現したと思うんですけど、それはもうしたくないんですよね。

ライブDVD / Blu-ray「SHOUT of SOUL」/ 2013年3月27日発売 / avex trax
DVD 5250円 / AVBD-92028
Blu-ray 6300円 / AVXD-91622
収録内容
Interview 1
  1. 魂こがして
  2. 乾いた花
  3. HIP,SHAKE,HIP
  4. Heavy Days
  5. 待合室にて
  6. Just a 16
  7. 淋しい街から
  8. 最果て
Interview 2
  1. 形見のフォト
  2. TOKYO SHUFFLE
Interview 3
  1. いい事ばかりはありゃしない
  2. Dear My Soulmate
Interview 4
  1. 抵抗の詩
  2. ダディーズ・シューズ
  3. Do it! Boy
  4. 喝!
  5. 我がプレッジ
Interview 5
  1. 縁のブルース
  2. ピカドンの詩
  3. R&R AIR MAIL
  4. SOUL TO SOUL
  5. AFTER'45
  6. パブでの出来事
BONUS TRACK~DVD version
  1. PALL MALLに火をつけて
  2. RESPECT THE NIGHT
BONUS TRACK~Blu-ray version
  1. 最果て
  2. PALL MALLに火をつけて
  3. RESPECT THE NIGHT
  4. 我がプレッジ

総尺:DVD 146分、Blu-ray 156分

~現在進行形の熱きソウルの共鳴!!!~

2012年12月16日に赤坂BLITZで行われた、石橋凌のソロライブ「SHOUT of SOUL」を収録。アルバム「表現者」のレコーディングメンバーでもある最強のバンドメンバー(池畑潤二、渡辺圭一、伊東ミキオ、藤井一彦、梅津和時)に加え、スペシャルゲストとして出演した仲井戸麗市との“魂と魂のコラボレーション”も含めた全23曲と、石橋凌本人がたっぷり語った貴重なインタビューを本編に収録。特典映像として、2012年1月に開催された「東京キネマ倶楽部」での初のソロライブ映像が追加収録され、総尺150分にもおよぶ“表現者”石橋凌の今の姿を余すことなく捉えたドキュメント作品。

石橋凌(いしばしりょう)

石橋凌

1956年生まれ福岡県出身のミュージシャン、俳優。1977年に結成され、数々のアーティストに影響を与えて2006年に解散したロックバンドARBのボーカルとして知られる。また、1990年から現在まで並行して役者としての活動を行っている。2011年12月にアルバム「表現者」を発表して音楽活動を再開。その後ライブ活動も精力的に展開し、2013年3月には赤坂BLITZ公演の模様を中心としたライブDVD / Blu-ray「SHOUT of SOUL」をリリースした。