ナタリー PowerPush - 石橋凌

「SHOUT of SOUL」な表現者人生を振り返る

歌には力があると僕は信じたい

──アンコールでCHABOさんと一緒にやった「SOUL TO SOUL」、そして「AFTER'45」も感動的です。特に「AFTER'45」は、「試される2012 瓦礫を乗り越え 手を伸ばしてみる」というふうに歌詞の一部が変えられ、現在の歌になっているところにも打たれました。

石橋凌

「AFTER'45」はもともと終戦の1945年からの日本を歌ったものでしたけど、今は戦後に加えて震災後という意味が付いてしまった。そういうつもりで今は歌っています。だから歌っていて頭に浮かぶ人の顔も、それまで歌ってて登場した顔とは違うんですよ。あのときテレビのニュースで観たおじいちゃんの顔が浮かぶんですね。その人は被災されて、すべてを失ってしまった。その上、あの年の冬は雪がものすごく厳しかったので、そのおじいちゃんが泣きながら「津波と雪で、踏んだり蹴ったりとはこのことです」って言ってて。それはどんな映画やドラマよりも訴えてくるものじゃないですか。しかもいまだに現実はものすごく厳しい。山元町のボランティアの長の人も言ってましたが、やっぱり風化されるのが一番怖いことだと。まあ僕の仕事は表現することであり、人に伝えていくことだと思うので、できることの数少ない1つとして、それはやっていきたいと思っているんです。

──それも音楽の持つ大きな力ですね。

うん。たださっきも言いましたけど、まず衣食住が足りて、それから文化とか娯楽なんですよね。だから地元の人が少しでも音楽を聴いたり歌を口ずさんだりっていうところに来ているなら、それはすごくいいことだと思うんです。確かに歌にはもともとそういう力がある。例えば戦後の美空ひばりさんの歌であるとか、坂本九さんの「上を向いて歩こう」がすごく日本人の士気を高めたのは事実だし、そういう意味で歌には力があると僕は信じたいんです。

──BLITZで歌われた過去の曲……例えば「Heavy Days」しかり「喝!」しかり「AFTER'45」しかりですが、これらはそのような説得力を持って今も響いてくる。時の流れによって風化しない力があるように思います。

僕は作るときから、いつも「この曲が不変になればいいな」と思っているんですね。80年代に書いた曲も90年代に書いた曲もそう。なんでかというと、僕が小さいときに聴いていた欧米の歌や日本の歌にずっと自分が支えられてきたから。ロックとかフォークとかジャズとか、そういうジャンルを越えたところでですよ。だから、本当に人が大変なときに思わずぽろっと口ずさむような歌がいつか書けたらいいなっていうのは、いつもあるんですよ。

──そういう深みのある曲がいくつかある一方、楽しい曲はますます楽しく豊かなアレンジになっている。ARB時代の曲にしても、例えば「HIP,SHAKE,HIP」や「Do it! Boy」なんかは昔の鋭角的な感じとは違って、ホーンの入ったゴージャスなアレンジになってますね。

そうですね。実は僕がホーン隊を使うのはパブロックやニューウェイブの人たちの影響なんですよ。イアン・デューリーとかグラハム・パーカーとかあのへんの人たちに対する思いが強くてね。ですから、もろにソウルをやろうとは思ってないんですけど。

──なるほど。でも「Dear My Soulmate」のホーンセクションなんて、けっこうオーティス(・レディング)っぽいタッチがありますよね。あれもパブロック経由なんですか?

うん。オーティスは好きなんですけど、すごすぎてできないんですよ。それはもう、できないものはできないと思ったほうがいいかなと(笑)。

実際に起きたことを消化して形にしていくのが自分のスタイル

──ではこれからの話を。ここからはどんなふうに音楽活動を続けていこうと考えていますか?

まあ、梅津さんを含めた今のバンド形式のスタイルは引き続きやっていきますし、イベントも声がかかればやりますし。あと、梅津さんとは今年も新宿のPIT INNで一緒にやるんですが(「2013 梅津和時・プチ大仕事@新宿PIT INN」※石橋凌は4月22日にスペシャルゲストとして出演予定)、今回はベースを入れたいということだったので、ぜひ一緒にやりたい人がいると僕のほうからお願いした方がいましてね。僕はちょくちょくジャズクラブに観に行ってるんですけど、すごいベーシストがいて、あるとき終わってから声をかけたんです。それが古野光昭さんで、お話を聞いたら板橋(文夫)さんがクラシック界からジャズのほうに呼んだらしくて。4月のPIT INNと、あと7月に毎年札幌でやってるジャズフェス(「SAPPORO CITY JAZZ」)にはこのバンド(石橋凌 JAZZY SOUL=梅津和時、板橋文夫、古野光昭、石橋凌)で7月8日に出演します。本当にすごい人たちなので、僕としては胸を借りる気持ちで。自分自身の歌の表現力をもっと付けていくためのチャンスとして。あとはフレキシブルに伊東(ミキオ)くんとピアノと歌だけでやるとか、藤井(一彦)くんとギターと歌だけでやるとか。そういうコンパクトな形であれば、被災地にもフットワーク軽く行けますからね。

──作品リリースの予定はありますか?

今、作ってますね。

──あ、詞曲をですか?

はい。

──具体的じゃなくてもいいんですが、どんなものか話していただけますか?

やっぱり実際に起きたことからインスパイアされたものが多いですね。昔みたいにこういうことを歌わなきゃといったような使命感はないんですよ。ただ、やっぱり実際に起きた事件なり現象なりを音楽的に消化して形にしていくのは自分独特のスタイルなのかなという気がしているので、どうしてもそういうものが多くなりますね。

──現実に起きた事件なりをモチーフにしたストーリーテリング。

そうです。ひとつは……これは初めて言いますけど、中東で亡くなった女性ジャーナリスト(山本美香さん)のこと。まったく不条理じゃないですか!? 相手は聖戦だと言っている。でも聖戦だと言いながら丸腰の女性や子供を撃つんですよ。何が聖戦なんだってところはやっぱり誰かが問題提起すべきだと思うんですよ。それは別に政治家でも思想家でもいいんですが、オレは音楽で言いたい。ペンとカメラを持って、その人の勇気と意志で使命を持って行動していたのに、それを無差別で殺すというのは絶対に許されないし、これがまた風化されちゃったら浮かばれないでしょ。だからそれを歌として残したいんですね。

──見て見ぬふりのできないことを歌にして世に問う。そこは昔から一貫してますよね。

うん。「Just a 16」(※1981年にリリースされたARBのアルバム「BOYS&GIRLS」収録曲。暴走族が最盛期を迎えた時代にバイク事故で亡くなった16歳の少女をモチーフに書かれた)を作ったのは80年代初頭でしたけど、今よりもっと世の中にお金があふれている時代で豊かな国なんて言われていたのに、娘の遺骨すら取りに行かない親がいたんだよね。で、お姉さんもいたんだけど、町工場をやってた父親が負債を負って逃げていて、妹の遺骨を取りに行ったら自分が債権者に捕まっちゃうって理由で出てこなかったの。あれは新聞のちっちゃな記事を見て歌詞にした実話で、僕は16歳のその女の子と会ったこともないけど、でもその親や姉妹や警察の無責任さが許せなかったし、なんとか仇を討ちたかったんですよ。

──なるほど。

それは今の時代にも起こってることなのかもしれないわけでね。だから、昔からそうですけど、実際にあったことをそうやって自分なりに消化して3分なり4分なりの歌にしていくというのが僕のスタイルで、まったくのフィクションというのは僕の歌にはそんなにないんですよね。これからもたぶんそれは変わらない。それが結果的に歌を通しての対話になると思っているんです。

石橋凌
ライブDVD / Blu-ray「SHOUT of SOUL」/ 2013年3月27日発売 / avex trax
DVD 5250円 / AVBD-92028
Blu-ray 6300円 / AVXD-91622
収録内容
Interview 1
  1. 魂こがして
  2. 乾いた花
  3. HIP,SHAKE,HIP
  4. Heavy Days
  5. 待合室にて
  6. Just a 16
  7. 淋しい街から
  8. 最果て
Interview 2
  1. 形見のフォト
  2. TOKYO SHUFFLE
Interview 3
  1. いい事ばかりはありゃしない
  2. Dear My Soulmate
Interview 4
  1. 抵抗の詩
  2. ダディーズ・シューズ
  3. Do it! Boy
  4. 喝!
  5. 我がプレッジ
Interview 5
  1. 縁のブルース
  2. ピカドンの詩
  3. R&R AIR MAIL
  4. SOUL TO SOUL
  5. AFTER'45
  6. パブでの出来事
BONUS TRACK~DVD version
  1. PALL MALLに火をつけて
  2. RESPECT THE NIGHT
BONUS TRACK~Blu-ray version
  1. 最果て
  2. PALL MALLに火をつけて
  3. RESPECT THE NIGHT
  4. 我がプレッジ

総尺:DVD 146分、Blu-ray 156分

~現在進行形の熱きソウルの共鳴!!!~

2012年12月16日に赤坂BLITZで行われた、石橋凌のソロライブ「SHOUT of SOUL」を収録。アルバム「表現者」のレコーディングメンバーでもある最強のバンドメンバー(池畑潤二、渡辺圭一、伊東ミキオ、藤井一彦、梅津和時)に加え、スペシャルゲストとして出演した仲井戸麗市との“魂と魂のコラボレーション”も含めた全23曲と、石橋凌本人がたっぷり語った貴重なインタビューを本編に収録。特典映像として、2012年1月に開催された「東京キネマ倶楽部」での初のソロライブ映像が追加収録され、総尺150分にもおよぶ“表現者”石橋凌の今の姿を余すことなく捉えたドキュメント作品。

石橋凌(いしばしりょう)

石橋凌

1956年生まれ福岡県出身のミュージシャン、俳優。1977年に結成され、数々のアーティストに影響を与えて2006年に解散したロックバンドARBのボーカルとして知られる。また、1990年から現在まで並行して役者としての活動を行っている。2011年12月にアルバム「表現者」を発表して音楽活動を再開。その後ライブ活動も精力的に展開し、2013年3月には赤坂BLITZ公演の模様を中心としたライブDVD / Blu-ray「SHOUT of SOUL」をリリースした。