自分から「変わりたい」と思って努力した

──中学進学と同時に音楽塾ヴォイスに通い始めたんですよね。“内気の極み”で塾内のコミュニケーションは問題なかったのでしょうか？

入塾当初はかなり困らせていたと思います。自分から何も主張しなさすぎて、先生とも壁があってなかなか打ち解けられなくて。歌っても、声、小さかったです（笑）。

──今話している様子や曲からは、とてもそうだったふうには見えないからすごい（笑）。

あの頃に比べたらオープンになれましたね。本当によかったです。中学に入ってから徐々に変わり始めて、学級委員にもなって。

──ガラリと変わってるし！（笑）

いえ、自分から「変わりたい」と思って努力したんですよ（笑）。上下関係とか学べたらいいかなと思いテニス部にも入って。でも音楽と両立できなくて1年半で辞めました。

──ヴォイスでは独自のメソッドを学ばれたでしょうし、なかなかひと言では言い表せないと思いますが、それでも自分にとってもっとも収穫だったことは？

自分から殻を破る力が付いたことでしょうか。もちろん具体的な発声とか、長年通っていればある程度付いてくる技術もあると思いますが、自分が思うように歌ってみせるとか、自発的に表現できるようになったことが最大の収穫だったと思います。

憧れはクリスティーナ・アギレラ

──その時期のフェイバリットは？

洋楽が多かったですね。ヴォイスは洋楽を最初から学ぶという方針なので、The Beatlesの「Let It Be」みたいな名曲中の名曲のコード進行を覚えるところから始まって。そこからいろいろと漁っていくうちに、クリスティーナ・アギレラにたどり着きました。それで彼女みたいな声を出せるようになりたいと憧れるようになりました。

──確かにデビューシングルの表題曲「Boogie Back」やカップリングの「Slave」を聴くと、井上さんのボーカルからはアギレラに共通するパンチ力が感じられますね。

そう言っていただけてうれしいです。中学の中盤くらいにアギレラをカバーし始めてから、声の出し方をさらにつかめて、ヴォイスでも褒めてもらえるようになったので、彼女の音楽に出会えてよかったです。それからはテイラー・スウィフトをギターで弾き語ったり、アリアナ・グランデやSuperflyさんの曲で練習を重ねるようになっていきました。

──つらいこともありましたか？

そうですね。私が教わった師匠のような存在の方が、かなり厳しい言葉をぶつけてくれていたので……（笑）。怒鳴るとかではなく、言うことが正論過ぎてグサッと刺さるというか。校内での発表会みたいなイベントでは、終わるたびにボロクソな駄目出しをされて、胃が痛くなっていました（笑）。

──そうして成長を重ねて徐々に頭角を現して、途中からデビューを視野に入れた特待生となったということですが。

はい。でも私の場合は中学から高校までの間にデビューの話が持ち上がってはまた延びてという繰り返しが何度か続いたんです。別に私が何かやらかしたからとかではまったくなかったですけど（笑）、そういうことが重なると「私はまだ全然ダメなのか」といちいち落ち込んで。

──講師陣の中で思うところがあったのかもしれないし、もしかしたら“秘蔵っ子”として大事に育ててもらっていたのかもしれない。

どうなんでしょうね。その時期はかなり思い詰めて、先生に「路上ライブをやって度胸を付けたい！」と提案したことがあったのですが「そこで満足してほしくない」と。「お前の目指す場所はそこじゃないだろ？」と言われて、また思い直したりしていました。そうやって親身に向き合っていただけたことも、今では感謝しています。