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interviewmoraに聞く ハイレゾ音源の魅力と楽しみ方

国内でハイレゾ配信がスタートしたのは2005年。現在ではハイレゾ音源配信サイトの数も、リリースされるタイトル数も大幅に増加し、それに伴いスマートフォンでのハイレゾ再生対応機器やアプリもいくつも登場している。この数年でハイレゾ音源を取り巻く環境はどう変化したのか。音楽配信サイト「mora」を運営する株式会社レーベルゲート 配信ビジネス部マーケティング課 課長の中川雄策氏に話を聞いた。

取材・文 / 小林千絵 撮影 / 臼杵成晃

そもそもハイレゾを聴くには何が必要なの?

まずはハイレゾ対応のデバイスが必要です。具体的にはハイレゾ対応の再生プレーヤーと、イヤフォンやヘッドフォンなどの機器ですね。最近はAndroidスマートフォンの大半がハイレゾに対応していて、ハイレゾ対応のイヤフォンやヘッドフォンを使うだけでハイレゾ音源を楽しめますし、iPhoneもハイレゾ音源再生が可能なアプリがいくつも出ています。持ち歩けるくらい小さなサイズのDAコンバータも販売されていて、それを使用するとさらに高音質でのリスニングが楽しめます。「スマートフォンではハイレゾが聴けない」と思っている人も多いと思うので、まずはそれくらい手軽になっているということを知ってもらいたいですね。

ただ、厳密に言うとハイレゾ音源は有線のイヤフォンやヘッドフォン、スピーカーでしか伝えられません。ワイアレスでデータを転送した瞬間に、定義上ハイレゾ音源ではなくなってしまうんです。しかし最近は無線の技術も上がっていて、ハイレゾ相当の情報量を転送することのできる機器も増えていて、そういう機器は「ハイレゾ級」「ハイレゾ相当」などと表現されています。

株式会社レーベルゲート 配信ビジネス部マーケティング課 課長 中川雄策氏

株式会社レーベルゲート 配信ビジネス部マーケティング課 課長 中川雄策氏

ハイレゾ音源を買っているメイン層はどんな人?

主にITリテラシーの高い方、オーディオ好きの方という印象です。さらにmoraはもともとアニメソングの配信が多かったこともあり、アニソン好きの方は早くからハイレゾを多く利用してくださっています。アニソンだけじゃなく、声優さんが歌手としてリリースしている作品もよく売れますね。楽曲のアレンジも緻密なものが多いですし、何より声優さんのきれいな声を聴くのにハイレゾは打ってつけだと思います。ただ、J-POPや洋楽でも、AAC-320kbpsなどの通常音源よりもハイレゾ音源の方が売れているアーティストがほとんどなので、ジャンルに偏りがあるということでもないいようです。

moraでハイレゾ配信を始めたのは2013年10月。当初からそれなりに注目され売上は好調だったのですが、配信楽曲数が少なくて。比べて今はタイトル数も増えたので、おかげさまで売上も比例して右肩上がりです。特に初期はアルバム単位でのリリースが多かったのですが、今は単曲での販売も増えたので、お試し感覚で買いやすくなったのもあると思います。ハイレゾ配信をスタートした2013年と比べると、アルバムの売上が7倍、単曲の売上は39倍です。

アーティストの反応は?

「レコーディングの音をそのまま届けられるのがうれしい」という声が届いています。CDだと圧縮されてしまうので、特に音作りにこだわりのあるアーティストは、仕方ないと思いつつも悲しい思いをしていたそうです。

過去に奥田民生さんに話を聞いたことがあるのですが(参照:奥田民生|スペシャルコンテンツ | ハイレゾ・オーディオサイト | ソニー)そのときに、民生さんが「ハイレゾがスタンダートになってくると、『この音どうせ聞かせられないしな』みたいなことを考えなくてよくなるから、かなり自由に曲が作れるようになって楽だ」ということをおっしゃっていたのが印象に残っています。とはいえ、まだアーティストでも「ハイレゾって何?」と思ってる方も多いのが正直なところですね。

株式会社レーベルゲート

株式会社レーベルゲート

2016年のハイレゾ音源を振り返って

moraの年間総合ランキングで見ると、1位と2位が宇多田ヒカルさんの最新アルバム「Fantôme」なんですけど、1位はハイレゾ版なんですよ。ハイレゾ音源のほうが売れている(参照:次ページ「2016年 mora年間ダウンロードランキング」)。これはすごく大きなトピックだと思います。宇多田さんの作品は、このアルバムに限らずすべてのもので、ハイレゾと通常音源の音の違いがハッキリとわかるんです。こだわって作っているんでしょうね。例えば1stアルバム「First Love」だと、ハイレゾで聴くと声の震えまで生々しく伝わってきます。

宇多田ヒカル「Fantôme」(ハイレゾ)
宇多田ヒカル「Fantôme」(ハイレゾ)
moraで購入

あとはCDの売上とも比例するのですが、以前に比べてRADWIMPSやMAN WITH A MISSION、ONE OK ROCKなど、ロック系のアーティストがよく売れるようになってきたイメージです。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(Vo, G)さんも、ソロ名義のGotchではかなり早い段階からハイレゾに興味を示して配信をしていたんですけど、最近はバンドでもハイレゾを出すようになりましたね。

RADWIMPS「君の名は。」(ハイレゾ)
RADWIMPS「君の名は。」(ハイレゾ)
moraで購入
ASIAN KUNG-FU GENERATION「ソルファ (2016)」(ハイレゾ)
ASIAN KUNG-FU GENERATION「ソルファ (2016)」(ハイレゾ)
moraで購入

ハイレゾ音源の今後

まだハイレゾ音源をリリースしていないアーティストやジャンルなど、タイトル数を増やしていく必要があるなと感じています。iPhoneでも聴けるようになったり、スマートフォンの内部ストレージ容量が増えてハイレゾ音源をストックしやすくなったりと、以前よりもハイレゾを聴く環境が整っているので、これまでハイレゾを聴いたことのない方にもぜひ手に取ってもらいたいですね。

曲によっては通常の音源とハイレゾ音源での違いが分かりづらいものもあるので、1曲試してみて違いがわからなくても、そこで諦めずに、音数の少ないアコースティックの音源を聴いたり、歌モノを聴いたりと、いくつか試してみてほしいですね。ハイレゾの面白さや楽しさを、1人でも多くの方に知ってもらいたいです。


2016年12月21日更新