ハンブレッダーズ特集| “終わらない青春”を鳴らす理由を紐解くレビュー&初のアリーナワンマンレポート (3/3)

ライブレポート

「ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Jタイム ~15th Special~」
2024年3月24日(日)大阪府 大阪城ホール

「高校1年の頃、文化祭に出演するために結成。本番で地獄のようなライブをするも、『音楽ってヤバいな』と気付きバンドを続けることに(同時に、人生も狂った)。」

(参照:ハンブレッダーズ Official Site|PROFILE

オフィシャルサイトに記載されているこの出来事から約15年。アニメ「けいおん!」をきっかけにバンドを組み、FM802を聴きながら青春時代を過ごし、ロックバンドとライブハウスの魅力に取りつかれた少年たちが、ついに大阪城ホールのステージに立った。ライブのタイトルは「放課後Jタイム ~15th Special~」。開演前にはFM802のDJ・樋口大喜が注意事項などをアナウンスしていたり、ハンブレッダーズが15年で出会ったバンド仲間の曲が流れていたりと、今のハンブレッダーズを形作ったものが会場の空気を作っていた。

「ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Jタイム ~15th Special~」の様子。(撮影:松本いづみ)

「ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Jタイム ~15th Special~」の様子。(撮影:松本いづみ)

以前インタビューをした際、ムツムロアキラ(Vo, G)は、バンドも人生と同じで、続けているといろいろなことがあるし楽しいことばかりではないけれど、活動を止めなければどんな逆境も過去の出来事になるし、全部が伏線になると話していた。それになぞらえると、今回の結成15周年記念公演は、すべての楽曲がこの日のために用意されたかのように響く“華麗なる伏線回収”と言うべきライブで、メンバー間で共有される苦楽の物語や名状しがたい複雑な感情を、音楽へと昇華させるロックバンドの生き様を見た。

開演時刻を迎えると、いつも彼らのライブでSEとして流れているKeno「おはよう。」が大阪城ホールに鳴り響く。ムツムロがTシャツにデニム姿なのは相変わらずだが、バックドロップに印刷されていたバンドのロゴが3D化して光るオブジェになっていたり、バスドラムのヘッドのデザインが今回の公演を記念したイラストに変わっていたりと、どこか特別感もある。メンバーは大きな歓声に迎えられながらステージへ。木島(Dr)は下手側花道の端まで足を運び、周辺の観客に顔を見せてから定位置についた。4人そろって最初の1音を鳴らすと、今度はでらし(B, Cho)とukicaster(G)が両花道へダッシュ。

「スクールカーストの最底辺から青春を歌いに来ました、ハンブレッダーズです。あの日少年マンガの主人公になれなかった俺たちが、今、大阪城ホールに立ってます!」

そんなムツムロの言葉から始まった1曲目は、インディーズ時代から歌い続けている「逃飛行」だった。歪むギター、うねるベース、疾走感あふれるビート。ハンブレッダーズ印のアンサンブルが大阪城ホールを満たし、4人の生き生きとした表情が巨大なスクリーンに映される。バンドが音を止め、ムツムロがマイクから離れたラストのサビでは観客のシンガロングが響いた。メンバーは「歌って」と促さないが、当然のように、なんのためらいもなくマイクから離れていたのがとても素敵だ。彼らが観客のことを、“音楽好きの同志”と思っていることが伝わってくる。4人の鳴らすみずみずしいサウンドは、彼ら自身も10代の頃に味わったであろう、ロックバンドに出会った瞬間の雷に打たれたような衝撃を何度だって呼び覚ましてくれる。そんなサウンドにムツムロ特有の捻くれた、そして自分の信じるものに対しては素直な歌詞をかけ合わせたハンブレッダーズの音楽は、声の大きな人が作る世の中のムードにいまいちノリきれない私たちの心も受け入れてくれる。

この日のライブは、歪んだギターはトレンドではないと言われても「知るか、俺はこれが好きなんだ!」と胸張って鳴らすロックバンドとそのファンによるお祭りだった。「俺たちの人生を変えるために必要だったのは、たった1つだけ。ギター!」というムツムロの叫びで始まった「ギター」ではイントロから炎が上がりまくり、お祭りムードが加速。そしてこの曲でもムツムロのボーカル、メンバーのコーラス、観客の歌声が響き合った。特にでらしは半ば叫ぶように歌っていて、大舞台で音を鳴らせる喜びを剥き出しにしている。ハンブレッダーズの楽曲を“俺たちのテーマソング”として愛しているのは客席の私たちだけではない、メンバーだってそうなのだと改めて思わせられる。転調が重なる、泣きのメロディが印象的な「ユースレスマシン」を経てステージが暗転すると、メンバーの名前を呼ぶ声が客席のあちこちから上がった。その声の1つひとつから興奮が伝わってくる。

ハンブレッダーズのワンマン史上最大規模のステージ。4人の目に超満員の客席はどのように映っているのだろうか。「ちょっと……すごすぎますね?」と呟いたムツムロを筆頭に、「すごい」しか言えなくなっているメンバーの様子を見るに、相当インパクトのある情景なのだろう。そんな中、ムツムロは「今日はみんなが家で聴いてる曲をいっぱいやります。みんなの好きなギターリフが大阪城ホールで鳴るところを楽しんで帰ってください」と彼らしい口調で観客に伝えた。その後演奏されたのは、「スクールマジシャンガール」に「ユアペース」「才能」といったアッパーチューン。ukicasterが奏でるメロディアスなギターリフ、熱量の高いソロに観客のテンションがもう一段階上がる。

4人はニューアルバム「はじめから自由だった」から「DANCING IN THE ROOM」を披露するなど、バンドの最新のモードを見せることも欠かさない。また、ムツムロが「15年やってますけど、これからも末永くよろしくお願いします」という言葉を添え、ファンに向けたラブソングとして「プロポーズ」を届けていたのは、15周年記念ライブだからこそだろう。そして、「今日一番近くから来た人?」と具体的な地名を出しながら観客とコミュニケーションを取ったあとには、ムツムロの地元である大阪府・吹田市の歌「都会に憧れて」、歌詞に阪急電車や万博公園が出てくる「アイラブユー」と大阪にまつわる楽曲を続けた。

ここでムツムロ、でらし、ukicasterがステージを去り、ワンマンではおなじみの木島のドラムソロ。と思いきや、今回はひと味違う。木島はまず、“DJ KIJIMA”としてサンプリングパッドを叩いてさまざまな音を出し、スクラッチのようにつまみを操作。さらに“DR KIJIMA”のライティングを背にドラムを叩くという二刀流プレイで観客を熱狂させた。ラストは得意の2ビートで畳みかけ、“I'M KIJIMA”の文字を背に締める。ワンマンに初めてドラムソロを取り入れた2022年春のライブではやや照れが感じられたが、あの頃からひと皮むけてエンタテイナー精神あふれるソロを披露した木島。これを起爆剤にしながら、ライブは後半へ突入した。盛り上がりながら手拍子する観客に対して「もっともっと」と煽るような仕草をしていたでらしがスラップベースを炸裂させ、3人と掛け合いを繰り広げる。このライブアレンジから始まるのはそう、「ワールドイズマイン」だ。勢いよく発射されるテープキャノンもナイスタイミングである。

3人体制の頃に発表されたミュージックビデオの3分割画面演出との対比として、ukicasterも含めた現在のメンバーの姿を4分割画面に映す演出が感動的な「COLORS」、本編唯一のバラードで、ムツムロの歌いっぷりも同じ熱量で付いていくでらしのコーラスも光る「東京」と後半に入ってからも名場面は続く。極めつけは、客席にいた元メンバーの吉野エクスプロージョンにムツムロが「吉野、聴いてる? お前のせいで俺の人生、とんでもないことになってます。お前が始めたハンブレッダーズ、こんなことになってるよ、今」と投げかけてからの「銀河高速」。違う道を選んだ友の思いを背負いながら疾走する音と言葉も、吉野の心を確かに受け継いでいるukicasterのギターソロも心に残った。

ラスト数曲を残したタイミングで、ムツムロが「すごいなあ。まだ慣れないですよ」と言えば、でらしも「僕もまだ慣れてません」と便乗。またムツムロが「お前のドラムソロもすごかったな。3年A組のお前がさ」と褒めると、木島は「(バンドを)こんなに長くやってるとは思わなくて。ヤバいよ、普通に」と笑い、ムツムロは「出会ってからの人生のほうが長いのか……ほえー……」と感慨深げな表情を浮かべる。また、ムツムロと18年来の仲である木島は、ムツムロが初めてオリジナル曲を送ってきてくれた日のことを「何か起こるかもしれへんな」と予感したと振り返り、「そこから18年経って、こんなにたくさんの人の前でやらせてもらって」と噛み締めた。普段のMCでは自分から積極的に話さない木島が、この日はバンドを愛おしむようにたくさんしゃべっていたのがほほえましい。そんな木島に対してムツムロは、「ありがたいね。ありがとうございます」と同調しつつ、「でも(MCが)ちょっと長いかな(笑)」とツッコミを入れる。さらに、「いいだろ、このくらいは!」と重ねるでらし。そのやりとりを無言で見守るukicaster。このバランスこそがハンブレッダーズだ。

そして木島は「70歳くらいまではバンド続けたいなと思います」と展望を述べる。ムツムロも「続けたいね。やりましょう」と宣言しつつ、「遊び半分だったんですけど、取り返しがつかなくなっちゃいました」と告げてから「ビートアディクション」の演奏へ突入。ここから先はバンドの音やムツムロのMCとともにドラマが押し寄せる展開で、「俺たちはハンブレッダーズ。少年マンガの主人公みたいになれなかったけど、ヘッドフォンをしてくれたら数分間だけ君を主人公にしてやれる」と告げてからの「DAY DREAM BEAT」、「すごい。この大阪城ホールの景色、ずっとずっと探してた見開きページみたいです」というひと言からつなげられた「見開きページ」に胸を熱くさせられた。

最後のMCではムツムロが、開場BGMとして15年の間に友達になったバンドの曲を流していたことに言及。「俺は中学の頃、毎日楽しくないって思ってた時期もあったんですけど、高校入って、バンド始めて、友達ができて。今は曲を作るたびに『あの友達に聴いてほしいな』って人、いっぱいいるんですよ。ホント幸せな人生です。ありがとうございます」と語ったあと、4人は自分たちを受け入れてくれたライブハウスへの愛と感謝を込めて「ライブハウスで会おうぜ」を演奏した。曲中には、彼らが15年の間にライブを行った全国のライブハウスの写真を映す演出が。初のアリーナワンマンでも、ライブハウス出身バンドとしての矜持を貫いたハンブレッダーズだった。

ハンブレッダーズ(撮影:松本いづみ)

ハンブレッダーズ(撮影:松本いづみ)

最高のライブだったとメンバーに伝えたい気持ちを誰もが抑えきれずにいるのか、アンコールを求める声がいつになく大きい。しばらくすると、観客の熱いリアクションを受け取った4人が客席の通路から登場。「後ろのほうの人がよく見えないと思うから」とアリーナ後方に設けたサブステージより、インディーズ時代から人気の「ファイナルボーイフレンド」、そしてバンドが19歳の頃から演奏し続けている「口笛を吹くように」を披露した。かつてライブハウスで必死に鳴らしていた曲が、今は万単位のオーディエンスの心を震わせている。あのとき自分が信じた音楽は間違っていなかったのだと、目の前の景色が証明している。

さらにここで、ハンブレッダーズが初の日本武道館公演「放課後Bタイム ~15th Special~」を10月9日に開催することが発表された。ライブが終わりに向かう中、次のビッグイベントが発表されるというサプライズに観客も声を上げて大喜び。そしてムツムロが「バンドは続いていくので、木島がさっき言ってたように、立てなくなるまでバンドやれたら幸せだなって思います。これからもよろしくお願いします! これから俺たちの代表曲になる曲をやって帰ります」と前置きし、最新アルバム収録曲「グー」で記念すべきライブは締めくくられた。

4月5日には「はじめから自由だった」のリリースツアーがスタートする。先述の通り武道館公演も決定し、メンバーの言う通り、ハンブレッダーズの活動はこれからも続く。きっとこの先も楽しいことばかりではないが、「今日みたいに最高な日がまたやってくるなら」という思いをよすがに彼らは歩み続けるのだろう。

「ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Jタイム ~15th Special~」の様子。(撮影:松本いづみ)

「ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Jタイム ~15th Special~」の様子。(撮影:松本いづみ)

セットリスト

「ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Jタイム ~15th Special~」2024年3月24日(日)大阪城ホール

  1. 逃飛行
  2. ギター
  3. ユースレスマシン
  4. スクールマジシャンガール
  5. ユアペース
  6. 才能
  7. DANCING IN THE ROOM
  8. STILL DREAMING
  9. プロポーズ
  10. 都会に憧れて
  11. アイラブユー
  12. ワールドイズマイン
  13. 起きろ!
  14. COLORS
  15. 東京
  16. 銀河高速
  17. ビートアディクション
  18. DAY DREAM BEAT
  19. 見開きページ
  20. ライブハウスで会おうぜ

アンコール

  1. ファイナルボーイフレンド
  2. 口笛を吹くように
  3. グー

ライブ情報

ハンブレッダーズ“はじめから自由だったワンマンツアー”

  • 2024年4月5日(金)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2024年4月10日(水)新潟県 新潟LOTS
  • 2024年4月15日(月)神奈川県 CLUB CITTA'
  • 2024年4月21日(日)香川県 高松festhalle
  • 2024年5月1日(水)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2024年5月9日(木)石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2024年5月11日(土)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
  • 2024年5月18日(土)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
  • 2024年5月21日(火)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
  • 2024年5月25日(土)北海道 サッポロファクトリーホール
  • 2024年5月30日(木)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2024年5月31日(金)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2024年6月8日(土)沖縄県 Output
  • 2024年6月9日(日)沖縄県 Output

ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Bタイム ~15th Special~

2024年10月9日(水)東京都 日本武道館

プロフィール

ハンブレッダーズ

2009年、高校の文化祭に出演するため結成。現在はムツムロ アキラ(Vo, G)、木島(Dr)、でらし(B, Cho)、ukicaster(G)の4人で活動を行っている。ライブハウスを中心に活動を続け、耳の早い音楽ファンの注目を集める中、2018年1月に初の全国流通盤として1stアルバム「純異性交遊」を発表。2020年2月に1stフルアルバム「ユースレスマシン」をトイズファクトリーよりリリースしてメジャーデビュー。2022年11月に3rdアルバム「ヤバすぎるスピード」、2023年2月にアニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」のエンディング曲「またね」とファストチューン「THE SONG」からなる両A面シングル「またね / THE SONG」をリリース。2024年2月に4thフルアルバム「はじめから自由だった」を発表した。同年3月に大阪・大阪城ホールで初のアリーナ公演「ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Jタイム ~15th Special~」のチケットを即ソールドアウトさせ、成功に収めた。さらに同年4月から6月にかけてはツアー「はじめから自由だったワンマンツアー」を開催中。同年10月には初の日本武道館公演「ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Bタイム ~15th Special~」の開催が控えている。

※記事初出時、タイトルに誤りがありました。お詫びして訂正します。

2024年4月17日更新