ナタリー PowerPush - 星野源

自分なりのJ-POPチューン「夢の外へ」

つらさを明るく表現するのに憧れる

──そして2曲目の「パロディ」は映画「ぱいかじ南海作戦」の主題歌。これはどんな着想から生まれたんですか?

星野源

映画が西表島を舞台にした作品なんですけど、本物のウチナンチュー(沖縄の人)がたくさん出演しているわけではなくて、ピエール瀧さんが沖縄の人の役だったり、なんとなくパロディ感があるんです。あと、沖縄の人って、日常をパロディにするのがうまいというか、お酒を飲んでバーッと歌って、いろんなことを笑って乗り切っちゃうバイタリティがあるような気がしていて。そういう部分でのパロディをテーマにしながら、いろんな要素を組み合わせてる感じですね。

──小さい楽しみを見つけながら、いい意味で日常をやり過ごすというか。

それって、誰もがやってることですよね。毎週楽しみにしてるテレビ番組があるとか、通勤途中に音楽を聴くっていうのも、そういうことだと思うし。受験勉強しながらラジオを聴くとか、娯楽って全部そうじゃないかなって。例えば民謡も、同じような思いから生まれてきたんだと思うんです。つらい農作業を耐えるために歌うっているうちに、それがクラシックになっていくっていう。今も同じことが続いてる気がしますね。

──きつい状況をできるだけ楽しく過ごす方法のひとつに音楽がある。

ブルースやゴスペル、沖縄の音楽もそうですよね。確かにつらいんだけど、それを明るく表現するのはすごくカッコいいし、憧れもあります。「くだらないの中に」も同じテーマかもしれないですね。髪の毛のニオイを嗅いで、「クサイな」って笑って乗り切る、みたいな(笑)。

──うん、そうですよね。「パロディ」のサウンドも、切なさと楽しさがごちゃ混ぜになってるイメージで。

僕の中で沖縄の音楽というと、細野晴臣さんの「チャンキーミュージック」なんですよ。沖縄の楽器を使わずに、あの感じを出すっていう。それもずっとやりかったことなんですよね。だから映画の絡みもありつつ、今回、ホントにいいチャンスをもらったなって。

地に足を着けていたい

──星野さんにとって細野さんの影響って大きいんですね。細野さんの音楽のどういうところに惹かれてるんだと思いますか?

それがねえ、わからないんです。初めて聴いたのは「HOSONO HOUSE」なんですけど、最初は良さがわからなかったんです。「でも、CDを買っちゃったからなあ」ってずっと聴いてたら、だんだん「これはものすごくいいぞ」って思うようになってきて。そこからはっぴいえんどを聴いて、トロピカル3部作からYMOにまで広がって。……でも、どこに自分がグッときてるのかはうまく言えないですね。人間的なところだったら言えるんですけどね。世界中から神様みたいに思われてる人なのに、普段話しているときはすごく普通で。それがすごくカッコいい。これは何回もいろんなところで話してるんですけど、細野さんに「行きつけの店に連れていってあげるよ」って言われて楽しみにしてたら、それがジョナサンだったりとか(笑)。

──いい話ですよねえ(笑)。

「TV Bros.」の連載でも、普段の細野さんを読者に見せたいんですよね。だから、なるべく音楽の話をしないで、どうでもいいようなことばっかり訊いてるんですよ。やっぱりみんな、YMOの話とか聞きたいじゃないですか。そういうのは疲れちゃうと思うんですよね、細野さんも。でも、たまに自分から話してくれることがあって、それが宝石みたいに素晴らしいんです。「すごいっすね、その話!」っていうエピソードばっかりで。ホントにすごい人なのに、話してる途中で「今、トンカツのこと考えてた」ってボソッと言ったり……。そういう地に足が着いてる感じが素敵ですよね。

──星野さんのスタンスも同じですよね。

自分はずっと「普通」って言われてきたので、普通であろうとする努力はまったくしてないんですけど(笑)。地に足を着けながら、面白いものを作ることに集中するっていう感じですね。

限られた条件の中で何ができる?

──3曲目の「彼方」もめちゃくちゃ面白かったです。テーマは「群馬県のソウルミュージック」だそうですが。

ソウルとかリズムアンドブルースを自分なりにやってみようとしたときに、日本人が無理なく聴けて、土の匂いもして……っていう曲がいいなと思って。そこから都会への憧れもありつつ、緑もあるっていう絶妙な場所ってどこだろう?って考えてたら、群馬県かな、と。バンドに曲の雰囲気を伝えるときに、わりとそういうことを言うんですよね。感覚で伝えるというか。

──ソウル、リズムアンドブルースをそのまま持ってくるのは違う?

いや、ホントはやってみたいんですけどね。ただ、そういうことって多分お金さえかければできると思うんですよ。自分はそれよりも、限られた条件の中で何ができるか?っていうことに興味があるんです。もちろん、何をやるにも自分のフィルターをちゃんと通さないとっていう気持ちもあるし。

ニューシングル「夢の外へ」 / 2012年7月4日発売 / SPEEDSTAR RECORDS

収録曲
  1. 夢の外へ
  2. パロディ
  3. 彼方
  4. 電波塔(House ver.)
初回限定盤 DVD収録内容
  1. 「夢の外への中へ」(監督:山岸聖太)
  2. Music Video「夢の外へ」(監督:山口保幸)
  3. Live『星野源の全国ツアー「エピソード2以降」』
  4. レコーディング&Music Videoメイキングなど

星野源(ほしのげん)

1981年1月28日埼玉県生まれのシンガーソングライター、俳優。代表的な出演作はテレビドラマ「11人もいる!」「ゲゲゲの女房」など。2000年には自身が中心となりインストバンドSAKEROCKを結成。2005年に自主制作CD-Rで初のソロ作品「ばかのうた」を制作し、2007年にはこの作品をベースにしたCDフォトブック「ばらばら」を発売。2010年に1stアルバム「ばかのうた」をリリース。翌2011年には2ndフルアルバム「エピソード」を発表し好評を博す。2012年2月には3rdシングル「フィルム」を、同年7月に資生堂「アネッサ」のCMソング「夢の外へ」をシングルリリース。J-WAVE「RADIPEDIA」では月曜日のナビゲーターを担当している。