kemu / 堀江晶太|ボカロP、コンポーザー、バンドマン いち音楽家のあくなき表現欲求

ボカロ、バンド、楽曲提供の3つに、優劣はない

──堀江さんは、ボカロP=kemuとバンド=PENGUIN RESEARCHともう1つ、作編曲家としての顔もお持ちです。最近ではLiSAさんのニューアルバム「LiTTLE DEViL PARADE」収録の「the end of my world」でもタフなサウンドにアレンジなさっていますね。

カヨコさん作曲の曲ですね。この曲もそうなんですけど、「敗者」を出してから、明らかに攻撃的な路線の作編曲のオファーが増えまして(笑)。自分としても、ちょっと汚した感じのサウンドは好みですし、少なくとも今は、自分のやりたいこととオファーが合致している、ありがたい状況ですね。

──このボカロ、バンド、楽曲提供に優先順位を付けたりすることってあります?

ないですね。もちろん、例えばバンドのほうで忙しいときは、楽曲提供の仕事量をやむを得ず減らしたりすることもありますけど、それは優劣を付けているわけではなくて、いただいたオファーには全力で向き合います。僕は、ボカロもバンドも楽曲提供も、それぞれの力の配分みたいなものは全然考えてなくて、今やるべきだと思ったものに100%の力を注ぎ込むっていうスタンスでずっとやってきたし、それはこれからも続けていきたいなって。

すべてのステータスをマックスにすることもできる

──現時点で3つ肩書きがある状態だと思うのですが、1人の音楽家として、それ以外にやってみたいことは?

まだ漠然としすぎているので、今話すべきではないんですけど、少なくともこの3つの軸だけで今後もやっていこうは考えてないです。今だって自分には3つの軸があるとも考えてないというか、もっと増えたとしても、どうせ1人の人間がやることですし。

──あるものを専業にしたくない感じでしょうか?

kemu / 堀江晶太

そうかもしれないですね。でも、それも難しいところで、もともと僕は職人的な仕事にすごく憧れている人間なんですよ。例えば伝統工芸のように、スキルを磨き上げて、達人の域まで達するみたいな。そういう意味では、1つの道を極めたいっていう気持ちもあるんですけど、同時に、1つだけでは終わりたくないというか、1人の人間としてできることをギリギリまで絞り出したい。もしかしたら、今極めようとしてる道以外にも自分の力を発揮できる道があるかもしれないと思うと、その道に進まないのももったいない気がしてて。

──それこそドッペルゲンガーがいれば、「そっちの道は君に頼んだ」ってできるのに。

そうですね(笑)。だけど、そっちの道に進んだドッペルゲンガーがうらやましくなっちゃうかもしれない。「やっぱり俺にやらせろ」って。

──強欲ですね。

でもよくゲームとかで、キャラクターの能力を示す五角形や六角形のパラメーターがあるじゃないですか。

──「パワー」「スピード」「スタミナ」とか、それぞれ割り振られているやつですね。

そうそう。それで、例えば「パワー」に特化した人は「スピード」がないとか、一長一短がある感じのいびつな形になる傾向にあるんですけど、すべてのステータスをマックスにすることもできるんじゃないかと思っていて。だから「スピード」がないとか、能力に偏りがあるから何かをあきらめるみたいなことはしたくなくて、「いやいや、試してみなきゃわかんないでしょ」と思って生きたいですね。

一生かかっても音楽家としてのゴールは見えない

──そんな堀江さんの目指す、音楽家としての最終的な目標というか、理想像みたいなものは?

目標は、その都度更新されていくものですよね。例えば最初はプロの音楽家になることが目標だったんですけど、それが達成されたらまた次の目標ができますし。だからキリがないというか、たぶん一生かかってもゴールは見えないんじゃないかっていうことが最近わかってきました。それはずっと追いかけていくものだし、周りの人が「もう十分だよ」って言っても、たぶん僕は「いや、もっと行ける。もっと行きたい」って死ぬまで言ってるんだろうなって。

──では今後更新されていくものとして、現時点の目標は?

日本の音楽シーンにおいて、「○○シーンには堀江晶太あり」と認知されることです。今は、楽曲提供だったら主にアニソンシーンということになるでしょうし、PENGUIN RESEARCHだったらバンドシーン。ボカロは、自分としてはシーンとしては見ていないというか、マイペースでやりたいので微妙なところなんですけど。いずれにせよ自分のポジションを確固たるものにすべく、自分の音楽を突き詰めていくだけですね。

kemu / 堀江晶太(ケム / ホリエショウタ)
5月31日生まれ、岐阜県出身。10代の頃より作編曲家として活動し、上京後に音楽制作会社に入社する。2011年にボカロP・kemuとして、イラストレーターのハツ子、動画クリエイターのke-sanβ、アドバイザーのスズムからなるKEMU VOXXを結成し、動画共有サイトに楽曲を投稿。いずれも大きな反響を呼ぶ。2013年に独立して以降は、LiSA、ベイビーレイズJAPAN、茅原実里、田所あずさらに楽曲を提供。アレンジャー、コンポーザーとしての地位を確立させる。PENGUIN RESEARCHのベーシストとして、2016年1月にシングル「ジョーカーに宜しく」でメジャーデビューしバンドマンとしても精力的に活動中。