LiSA「REALiZE」インタビュー|“戦いの声”の運命が導いた「スパイダーバース」日本語吹替版主題歌

LiSAの新曲「REALiZE」が、6月16日より全国で上映される映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」の日本語吹替版主題歌に採用された。映画のために書き下ろされたこの楽曲は、All Time LowやBlink 182、マシン・ガン・ケリーといったアーティストの作品で手腕を振るうレコーディングエンジニア、ザック・セルヴィニ(Zakk Cervini)がミックスを担当。これまでのどのLiSA楽曲よりも荒々しく力強く、スパイダーマンを継承し“運命”を変えようと戦うマイルスやグヴェンの葛藤、マルチバース世界で展開するスピード感あふれるストーリーにパワフルな彩りを与えている。

6thアルバム「LANDER」発売時のインタビューから約7カ月。新たな楽曲を作り上げたLiSAは好奇心に満ちた表情で、新曲「REALiZE」や「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」とシンクロする自身の思い、新しい発見ばかりだという私生活について話してくれた。

取材・文 / 臼杵成晃

1日に何十個もの新しい発見がある

──昨年発売のアルバム「LANDER」はデビュー10周年のその先を予感させるバラエティに富んだ作品でしたが、「REALiZE」はまた新しいところにギアを踏み込んでいますよね。次のフェーズに突入したなという感じがひしひしと伝わってきますが、この半年ほどの間にはLiSAさんにとってプライベートでの大きな変化もありました。

そうですね。毎日いろんな感情になって楽しいです。デビュー10周年を迎えてさあここから新しい自分を、と考えていたものの、コロナ禍の中ではできることも限られていて、新しい刺激を受けるにもインプットが少なかった。海外に行ったりもできませんでしたし。新しい経験や刺激がないと、この先10年を戦える気がしない。踏み荒らした畑から収穫するのは難しいし、新しい感覚を呼び覚ましてくれるものは何かないかと考えていたタイミングだったので、初めてのことだらけで不安もありますけど、今はワクワクした気持ちが大きいです。

──「パワーアップした私で、音楽を届けられることが楽しみです」とコメントされていましたけど、今はその言葉をより実感している?

はい。そんな淡い期待を持ってそのコメントを書いたけれど、本当に1日に1個どころか何十個もの新しい発見があるから、夜な夜な自分の気持ちを整理している時間が本当に楽しいです。

LiSA

洋楽と邦楽のハイブリッド

──それではここから、映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」の日本語吹替版主題歌として制作された新曲「REALiZE」のお話を。6thアルバム「LANDER」を経ての次の1歩、というタイミングで、また新たな一面が感じられる曲になりましたね。

10年歩いてきた中でいろんな畑を耕した感覚があったので、これまでとは違う曲作りのきっかけを今回この「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」の日本語吹替版主題歌という新しいフィールドでもらえたなと思っていて。海外のアニメということで、自分がもともと好きだった海外のロックが持っている要素を取り入れたい、だけど日本語吹替版だからちゃんと日本人に楽しんでもらえるハイブリッドな楽曲にしたいという思いがあって、いろいろと模索しました。

──LiSAさんはアニメソングをスタートラインに表現の幅を広げていき、近年はドラマやCMなどのタイアップも増えたことでリスナー層も拡大しています。「LANDER」はそんな多種多様なタイアップ曲が多く収められていましたし、新たなリスナー層というのは意識していましたよね。

「LANDER」は新しく私を見つけてくれた人、これから一緒に遊んでくれる人たちに向けたアルバムだったけど、この「REALiZE」はもう1歩先というか、新しい世界を広げていくためのきっかけになる曲を目指しました。制作タイミング的にもちょうどアルバムを作り終えたあとだったので、また新しいことに挑戦できる喜びがありました。

──洋楽と邦楽のハイブリッドというのは、言われてみればモロにそうですね。サウンドの質感やワンコードで押し通すA~Bメロは思い切り洋楽に寄せつつも、ちゃんとサビには邦楽的な抑揚があったりとか。

そうですね。今までは日本のアニメが好きな人、日本の音楽が好きな人に届けるという思いが自分の中ですごく強かったけど、なんというか……今回は海外アニメーションの主題歌という新たな挑戦の中で自分の好きなことがやれるという。中でも特に意識したのは、サウンド、ミックスの部分ですね。

──ザック・セルヴィニさんにミックスを依頼したんですよね。

はい。自分にとって耳馴染みのあるサウンド感で返ってきたときは、めちゃめちゃ興奮しました。なんだろうな、例えば「このニンジン、めっちゃおいしいと思ってたけど、海外で料理してもらってもやっぱりめっちゃおいしかった」みたいな。すごく自信になりました。

──“邦楽”として作っても、ちゃんと自分の好きな“洋楽”になり得るという。作編曲はずっとタッグを組んできた堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)さんですもんね。邦楽であまり聴かないドラムの音というか、一聴してまず思ったのは「うわ、ドラムうるせえ!」ってことで。

ドラム、すごいですよね(笑)。そのへんは晶太くんにお願いする段階で意識していて……「洋楽的」というと簡単だけど、今までとは違うサウンド、私の声の聞こえ方にチャレンジしたいという話を最初にしました。コーラス全部にエフェクトをかけてみるとか(笑)、今までは素材重視だったところを、もうちょっと違う味にしてみよう、って。

──ちなみにこれ、ミックス以外は日本なんですよね? このうるせードラムは誰が?

これ、ゆーまお(ヒトリエ)なんですよ。あの細身から出る音とは思えないですよね(笑)。マッチョな外国のドラマーが叩いているんじゃないかってくらいの音になっていて、私も晶太くんも一聴して大爆笑しました。それはすごくうれしいという意味で。

──海外のエンジニアにミックスをお願いする場合はまるまるお任せという場合も多いと思うんですけど、この曲はどうでしたか?

ザックさんはパンク / ラウド系をはじめとして素晴らしい作品を手がけている方で、私もいろんな作品を聴いているうちにザックさんの名前にたどり着いたので、自分が影響を受けた作品をいくつか挙げて「こういう音を目指している」ということは最初にお伝えしました。最初に送られてきた時点でめちゃくちゃカッコよかったんですけど、ザックさんのほうから「これは1回目のミックスだから、何かあったら言ってください」と言ってくださったので、「もう少しだけ日本人的な細やかな部分を出したい」とだけオーダーしました。