「i care」で伝えたかったこと
──今年2作目となるシングル「i care」は、テレビ東京系ドラマ「ソロ活女子のススメ2」のエンディングテーマです。「ソロ活女子」のテーマ曲を担当するのは「Herge」に続き2度目ですけど、今回は書き下ろしたそうですね。
福富 はい。曲の種みたいなものがもともとあって、そこにドラマの世界観をイメージしながら歌詞を書いてメロディと展開を付けていった感じです。ドラマのタイトルは「ソロ活女子のススメ」ですけど、この曲では「女子とか男子とか関係なく自分で選んでいい」ということを歌いたくて。1人でいるのもいいし、1人じゃなくてもいい。性別関係なく何を選んでもいいし、その選択について誰かに何を言われる必要もない、みたいな。ただそれだけだと「Who cares?=誰が気にするの?」という意味にも取れるけど、それとは違う感覚があって。バラバラでもいいし、それぞれがどんな形を選んでもいいけど、バラバラのままでも手を取り合えるというか、そういうことを伝える曲にしたいと考える中で「care」というテーマが浮かんできたんです。
──その選択の自由を肯定する姿勢は「なにを選んでも、それでいいからね」「あらゆる色に花束を」といった歌詞に表れていますよね。
福富 自分たちがずっと歌にしたかったテーマでもありますし、ある意味シスターフッド的なその感覚をちゃんと形にできたらいいなと思っていて。そのテーマで行こうと決めてからは、歌詞はスラスラ書けましたね。「未来を花束にして」(2015年公開)という女性に参政権がない時代に戦った人たちを描いた映画があるんですけど、その戦いは今も続いていると思ってるんです。バトンじゃないですけど、そういった作品から自分たちが受け取ったものをちゃんと音楽にして、次の世代に伝えられたらいいなという思いも込めています。
──なるほど。ちなみに楽曲以外の部分で言うと、ジャケットアートワークにはミモザの写真が使用されています。ミモザは3月8日の国際女性デーに関連する草花ですけど、これも意識してのことですか?
福富 そうですね。「i care」はフェミニズムやシスターフッドがテーマになっているので。それに、この写真はちょうど国際女性デーのときに撮っていただいたんですよ。で、お花屋さんにミモザを買いに行ったら「男性はパートナーにミモザをプレゼントすることで日頃の感謝を伝えましょう」みたいなことが書かれていて。それはいいことやけど、国際女性デーってそういうことでもないよなという思いもあって、僕たちのジャケットに使うことで少しでも国際女性デーやその背景を知るきっかけになればいいなと思ったんです。あとジャケット写真を撮ってもらった小林美咲さんはフェミニズムにまつわる活動をしている方で、それこそさっき話した連帯じゃないですけど、個々でそういう発信をしつつも、ちゃんとつながっているみたいなことをバンドで表現したいと思っていたので、ご一緒できて本当によかったです。
音楽の歴史を1つでも進めたい
──畳野さんはこの歌詞に曲を付けていくうえで、何かイメージしたものはあるのでしょうか?
畳野 「i care」はもともとベースのほなちゃん(福田穂那美)が作ってくれたデモがあって、ピアノが入っているすごくシンプルなデモだったんですけど、私はそれをベースにドラマや、トミーが書いた歌詞の内容を汲み取って広げていった感じですね。シーズン1のエンディングテーマ「Herge」にもつながるような曲調というか、そこからもう一段階広がるようなサウンドを意識しました。ただ「アルペジオ」でやったギターポップの流れを途切れさせたくなかったから、「Herge」はピアノが前に出ていたけど、今回はバンドの現在のモードを反映させた音像になっています。あとは最初にもらった歌詞から読み取った春っぽさというか、少し暖かくなってきた様子が伝わるようなサウンドはイメージしましたね。
福富 バンドのなんとなくのモードというか、今面白がっているのが2000年代リバイバルなんですよ。自分たちが子供の頃に聴いていた世代の音楽がリバイバルしているという初めての楽しさがあって、たぶんアメリカで一番キてるのはパンクポップリバイバルだと思うんです。で、自分らもそういうのをしたいなと考えたときに、2000年代中盤くらいのYUKIさんのサウンドというか、あの時代の雰囲気を取り入れた曲を作りたいと思って。その自分たちの中の流行りみたいなものをうまい具合に入れられたような気がして、僕はそれがすごく楽しかった。
──なるほど。
福富 僕は音楽史をたどるみたいな聴き方が好きで。自分たちが子供の頃に好きで聞いていたアヴリル(・ラヴィーン)のようなアーティストのサウンドと、今のポップパンクリバイバルが重なっている感じがとにかく楽しいんです。で、そのポップパンクと日本の中のJ-パンク的な音楽は文脈が若干違うような気がしていて。それを意外とHomecomingsがずっとやっていたというか、自分たちにとって大事な曲の1つに「HURTS」(2016年発表の2ndアルバム「SALE OF BROKEN DREAMS」収録)があるんですけど、ギターポップ的なところから始まったバンドがあの曲を出したことでそれまでとは違う見方をしてもらえたんですね。あの曲はUSインディ的なオルタナもそうやし、ポップパンク的なところから着想を得て作ったんですけど、そういうリファレンスは今もバンドの中であるから、何かと掛け合わせて新しくする、音楽の歴史を1つでも進めたいという気持ちがあるんです。
──ちなみに「i care」はツアーで演奏しているんですか?
畳野 名古屋公演で初めて演奏したんですけど、こんなにも明るい曲は実はHomecomingsにはなかったんじゃないかなという気がしていて。ライブで演奏してみて、すごく気持ちいい曲になったんだなと思いました。
──お客さんの反応はどうでした?
畳野 すごくよかったよね?
福富 うん。意外やったと思うんですよ。「i care」というタイトルだけ先に出していたので。たぶん想像してくれていたものからはいい意味で裏切りがあったんじゃないかなと思います。
畳野 初めて聴くはずなのに馴染んでいるというか、ライブで映える曲になっているんだなと思いました。
創作の楽しさが漏れ伝わるような1年になったら
──2022年はHomecomingsにとってバンド結成10周年のアニバーサリーイヤーですよね。何か周年企画をやる予定はあるんですか?
福富 それに気付いたのが今年の1月やったので、来年を10周年としようかなと……。
──(笑)。
福富 初めてCDを出したのが2013年なので、無理矢理「M-1グランプリ」に出るみたいな感じで周年をズラしてしまおうかなって(笑)。でも、いろんな人から「今年10周年ですよね?」と言われるんですよ。
畳野 ヤバいよね。本当に忘れてた(笑)。
福富 まあ、来年はいい年になると思うので期待しておいてほしいです(笑)。今年も今年で季節ごとに配信シングルを出したいと思っているし、それ以外にも新曲を聴いていただけるような機会を作る予定です。あと、これまでは時間をかけてじっくり作品を作る機会がなかったんですよ。アルバムを出すという目標が先にあって、そこに向けて急ピッチで作業していくことが多かった。だから今はメンバーとじっくりと作る感じを楽しんでいて、次のアルバムのリリース日も決まってないけどジャケットのことを進めたりしているんです。そういう創作することの楽しさがリスナーに漏れ伝わるような1年になったらいいかな。
畳野 私はしばらくやってなかったソロを再開しようと思っていて、コロナもあるから前みたいに動けるかはわからないけど、いろんな場所でライブをやれたらいいなと思います。とは言っても本当に何も決まってないんだけど。
福富 あと個人的に思っているのは、僕たちは京都の隅っこの大学でバンドを組んで、シャムキャッツやミツメといった当時東京インディと呼ばれていた方々にフックアップしてもらった感覚があるんですよ。それこそシャムキャッツは全国ツアーを回るときに京都やったら僕たちを呼んでくれたり、各地の若いバンドと一緒にやる感じが素敵やなと思っていて。アジカンもそうですけど、そういう姿勢に憧れているし、その中で自分たちの活動が続いている感覚もあるので、小さいことでもそういう企画を年内にやれたらいいなと思っています。
──先輩バンドに導いてもらった分、今度は自分たちが若手をフックアップしたいという姿勢は素敵ですね。ちなみに今注目しているバンドはいるんですか?
福富 僕が注目しているのはLaura day romanceとBROTHER SUN SISTER MOONですね。バンドの演奏はもちろんですけど、その2組のメンバーがやっているPodcast番組もいいんですよ(※BROTHER SUN SISTER MOONの惠愛由と、Laura day romanceの井上花月によるPodcast番組「HOMEALONE DIARY」)。それこそフェミニズムのことなどを発信していて、そういう姿勢に影響を受けているのもあるし、素敵だとも思うからそういう新しい友達とも一緒に何かできたらいいなと思います。