「リップシンク」に込めたメンバー、スタッフ、ファンとの関係性
──先行配信された「リップシンク」はテレビアニメ「鴨乃橋ロンの禁断推理」のエンディング主題歌としてもすでにオンエアされていますが、どんな反応が届いてます?
堀胃 「リップシンク」は「黒子首らしいポップスだ」と言ってくださっている方が多くて。自分的にはけっこう今までとは違う方向に振り切って作ったつもりだったから、その反応は意外でもあったんですよね。逆に、黒子首っぽいなと思って作った「無問題」に、「新しいパターンのカッコよさだ」という評価をもらったりもしていて。自分が思っていることと聴き手の方が感じることって全然違ったりもするから面白いですよね。
──「リップシンク」はアニメ作品との寄り添い方もすごく素敵ですね。リリックはどんなイメージで書いていったんですか?
堀胃 「鴨乃橋ロンの禁断推理」は主人公とその相方2人がお互いの持っていない部分を補いながら物語を進めていくんですけど、その関係性はバンドメンバーやスタッフさん、お客さんたちとの関係性にもリンクするよなと思ったんですよね。あとは、コロナ禍で思うように言葉が発せない時間を過ごしたので、「自分の言いたかった言葉を思い出そうよ」というメッセージも込めました。いろんな思いを1つのストーリーに落とし込むのは大変でありつつ、喜びでもありましたね。
──アレンジはけっこう難航したと聞きましたが。
田中 そうなんですよ。めちゃめちゃ苦戦しました。最初に上げたアレンジでスムーズに進んでたんですけど、途中で「いやちょっと待てよ?」と立ち止まる瞬間があって。3人だけの演奏でも成立するようなアレンジに1回立ち返ってみたりとか、イントロをギリギリまで粘って考え抜いたりとか、そこの時間がかなり長かったです。
みと 「リップシンク」ではひさしぶりに3人でスタジオに入ってアレンジを考えたりもしたんですよ。その場では「これいいんじゃね?」ってなるんだけど、お家に帰って聴いたら「え、よくないね」ってなったりとかして(笑)。そういう時間も楽しかったんだけど、終わらないんじゃないかという不安もありましたね。
田中 いい経験ができました(笑)。
「言わせない」でありったけのあざとさを
──メジャー1stアルバム収録の「おぼえたて」で黒子首は初めてアレンジャーを立てて制作をされました。そこでご一緒した伊藤翼さんが今回のアルバムでは2曲に参加されていますね。
堀胃 はい。「faraway eyes」は曲ができた段階でスケール感のあるアレンジにしたいなと思ったので、「おぼえたて」での経験を踏まえ、すぐに伊藤さんにお願いすることを決めました。前回はストリングスアレンジを中心にやっていただいたんですけど。
田中 今回はバンドアレンジから関わっていただいたんだよね。伊藤さんが考えてくださったベースやドラムのフレーズを受け取り、それを踏まえて私たちが考えたフレーズを送り返すという作業をしました。黒子首を客観的に見てくださっている方のアレンジはすごく勉強になりましたね。自分ではあまりやらないフィルが入っていたりもしたので叩くのはすごく難しいんですけど(笑)、やりがいがあったというか。今まで使ってなかった筋肉を使ったのか、レコーディングのあと、2日間くらいは体がバキバキになってました(笑)。
堀胃 もう1曲の「言わせない」では伊藤さんにまったく違った引き出しを開けていただいた感じですね。この曲では今までの自分じゃ言いそうになかったことを歌っているので、音的に現代のポップスになりすぎると痛々しく見えるんじゃないかなという不安もあって。でも、伊藤さんがちょっと古めかしいアレンジにしてくださったことですごくいいバランスになったんです。黒子首らしさを損なわないままでもかわらしいポップスができるということを学ばせていただきましたね。この曲のテイストは今後の武器になるのではと思っています。
──「言わせない」はボーカルもかなり“かわいい”に振り切ってますよね。
堀胃 今回のアルバムにはちょっとスケールの大きな曲が多いので、そういった曲では比較的シンプルに、あまり感情を乗せすぎない冷静さを持った歌を意識していたんですよ。でも、「言わせない」に関しては思いっ切りやっちゃおうと思って。「受け入れられなくてもいいや」くらいの気持ちで(笑)、ありったけのかわいらしさを出しました。
みと この曲のデモが来たときはそいも私もビックリしましたけどね。「大丈夫!?」って(笑)。でも、今までになかった表情だし、それもまたいいなとすぐ思いましたけど。アルバムに入っていてもまったく違和感ないですしね。
──先ほど「リップシンク」の歌詞にはバンドメンバーとの関係性をリンクさせたところもあったとおっしゃっていましたが、じゃんけんをモチーフにした「Guu」にもその匂いを少し感じました。実際どうなんでしょう?
堀胃 お! 初めて気付いてもらえました。
田中 それ、私もこの前初めて知ったんですよ(笑)。
堀胃 サビの歌詞にはそういう思いも込めましたね。“冷え切ったトライアングル”は言いすぎだけれど(笑)。2人には言わず、そういうことを歌詞にこっそり込めるのは今までにもけっこうやってますね。
みと 怖いなあ(笑)。
田中 私はもう単なるじゃんけんの曲だと捉えてましたから。「だまされたー!」と思って。今後は我々からもそういった隠しメッセージ的なことができないかなと目論んではいますけどね。実はこういう意味があってこういう音になってるんだよ、という。
みと 音にそれを込めるのムリじゃない?(笑)
田中 じゃあ、こっそり声を入れとくとかね。
堀胃 怖い!(笑)
自分たちを再発掘して、断面を見せたアルバム
──8曲目の「Odd Eye」もめちゃくちゃカッコいいですね。
堀胃 ありがとうございます。これはですね、「カウボーイビバップ」というアニメに出てきたオッドアイの人が、「俺は右目で未来を見て、左目で過去を見てるんだ」みたいなことを言ってたのがカッコいいなと思ったのがきっかけでできた曲です(笑)。そこに、ドブネズミのように虐げられている存在を投影していきました。ヒリヒリした都会の雰囲気を出せるといいなと思って、トークボックスっぽい音を使ったり、シンセを入れたりしております。
──後半にちょっとスウィングっぽくなる展開がありますよね。
田中 そうですね。タイトルが「Odd Eye」なので、音的にも相反するもの、ミスマッチ感を出したいなと思って。で、私がジャズセクションの間奏を作ったところ、堀胃さんがラップを乗せてきたという。ジャズにラップ、まさにミスマッチな面白さになったと思います。
堀胃 カッコよくなってよかったです。いろいろ調べてもジャズラップというジャンルは見当たらなかったので、黒子首が流行らせたいです(笑)。
──そしてアルバムは、すべての人にとって人生のテーマソングになり得る「もぐら」というナンバーでエンディングを迎えます。
堀胃 これはもともと、工事現場で働くおじさんのことを歌った曲だったんですけど、それをもっと広い層に届けられるように書き直していったんです。地中で暮らしながら、なかなか明るいところに出てこられない自分自身の思いみたいなものを重ね合わせていきました。この曲こそが、黒子首の武器である泥臭さをキレイに昇華することに成功したものでもあって。アコギ弾き語りのデモを送った段階で、そいが「讃美歌みたいにも聴こえる」と言ってくれたので、コーラスもたくさん入れて仕上げていきました。
──間奏のコーラスはものすごくドラマチックですよね。
田中 そうですね。ライブではどうしようかなってちょっと悩んでるんですけど(笑)。
──この曲がアルバムタイトルである「dig saw」というワードに導いてくれたところもあったんですかね?
堀胃 そうです。「もぐら」が生まれていなかったら、ジャケ写をはじめとするアートワークをここまで“地層推し”にしなかったと思いますし(笑)。自分たちを再発掘するという意味での“dig”と、自分たちの音楽性をのこぎりで切り、その断面を層ごとに見せたいなという意味を込めて“saw”を付けた造語になっています。あと、自分たちはパズリングのように作っていく曲が多いので、ジグソーパズルの“ジグソー=jigsaw”に意味をかけてたりもしますね。
田中 あとは名前がね、“堀”胃だし。
みと いやいや、それは違うでしょ(笑)。
田中 まあ、これは私からのサプライズではありますね。こういう意味合いもありますよという。
堀胃 そんな弱めのサプライズを受けましたけど(笑)。
──あははは。本作を引っさげて11月26日には心斎橋Music Club JANUSでレコ発ワンマンライブも開催されますね。
堀胃 はい。今までのライブでの自分はアコギがメインで、たまにエレキを持つくらいだったんですけど、今回のアルバムは自分がアコギである必要のない曲が多いので、エレキをメインに持ってみたり、ハンドマイクで歌ってみたりするシーンを増やすかもしれないです。ラップもありますしね(笑)。みんなで歌えるパートも多いので、いろんな仕掛けを作りながら、みんなで楽しみたいなと思っています。
みと ベースに関しても、アルバムではプレべを使った曲が1つもないので、どのベースを使おうかなっていう。曲ごとにいろんなことができそうだからこそ悩みますね(笑)。
田中 遊び心をめちゃめちゃ込めて作ったアルバムでもあるので、ライブでも皆さんにはぜひ肩の力を抜いて、自由に楽しんでいただけたらと。お酒飲みながら踊ったり、知らない人とハイタッチしたり(笑)。
堀胃 それは楽しいね(笑)。
田中 1つのショーとしてのライブができたらいいなと思ってますので。
堀胃 あーいいね。自分はエンタテイナーになりたいので(笑)。
田中 ちなみに大阪以外の場所でもライブをする予定でいますので、楽しみにしていてください!
ライブ情報
黒子首ワンマンライブ
2023年11月26日(日)大阪府 Music Club JANUS
プロフィール
黒子首(ホクロックビ)
堀胃あげは(Vo, G)、みと(B)、田中そい光(Dr)からなるスリーピースバンド。2018年に結成され、2019年に初のCD作品「夢を諦めたい」をリリースした。2021年7月に初の全国流通盤となる1stアルバム「骨格」をリリース。2022年2月、泣き虫をフィーチャリングゲストに迎えた配信シングル「やさしい怪物 feat. 泣き虫」でメジャーデビューを果たした。10月にメジャー1stアルバム「ペンシルロケット」をリリースし、12月には東名阪ワンマンツアーを開催。2023年10月に2ndアルバム「dig saw」をリリースした。