黒子首がEP「ぼやぁ~じゅ」を8月3日にリリースした。
今年2月にデジタルシングル「やさしい怪物 feat. 泣き虫」をリリースし、待望のメジャーデビューを果たした黒子首。そこから約半年のスパンで届けられた本作には、さまざまな夏の情景を想起させるカラフルな4曲が収録されている。
聴き手の心の隅々にまで染みわたる心地よいポップネスを描き出しながら、バンドとしてのさらなる可能性を提示する本作はどう作り上げられたのか? 10月にはメジャー1stアルバムのリリースも控える黒子首のメンバー3人に、たっぷりと話を聞いた。
取材・文 / もりひでゆき
この1年で見えた「黒子首としてのひとつの正解」
──昨年7月にリリースした、初の全国流通作品であるアルバム「骨格」以降、黒子首はより力強く活動を続けてきた印象があります。この1年を振り返って感じることはあります?
田中そい光(Dr) 制作する楽曲の中身に関しては、黒子首としてのひとつの正解が見えてきたような感覚があって。同時に、この1年でライブがすごく変わった感じもします。以前ももちろんライブは楽しいものではあったんですけど、その楽しみ方が変わってきたというか。演奏を楽しむだけじゃなく、みんなで手拍子をしてみたりだとか、楽しい瞬間をお客さんとちゃんとシェアする意識が強くなってきた。そういう変化は「骨格」の曲をライブでやっていくうちに見えてきたものだと思います。
──楽曲に関して見えてきたという「黒子首としてのひとつの正解」というのは、言葉にするとどんな部分なんでしょうか?
田中 ポップスを軸にしながら、自分たちらしいエッセンスを素直に入れていくということですかね。曲のよさを信じて、各プレイヤーが今まで以上にいろいろな遊びを入れていく。そういった部分が増えてきたということなんだと思います。
──堀胃さんはこの1年で変化を感じるところはありますか?
堀胃あげは(Vo, G) 「骨格」を出したことで、黒子首がそれまでに居たところとまたちょっと違う場所に来た感覚があって。だからこそ自分のことをちゃんと説明できる人間にならないといけないと思うので、けっこう今まで以上に考えることが増えましたね。そういう新しいフェーズに入ったのかなって。
──黒子首の存在への認知が高まったことで、堀胃さんの表現もより外を向いてきているのかもしれないですね。
堀胃 そうですね。自分の中にある葛藤みたいな感情さえも自然とキャッチーな表現になっているし、楽曲自体も勝手にポップスになっていったりしていますからね。そういう意味では、ライブでお客さんとシェアする意識が強くなったっていうのと一緒で、今までは1人で完結してたものを誰かと共有することを求めちゃってるんだと思います(笑)。
──それは今までの堀胃さんからすると大きな変化じゃないですか?
堀胃 うん。今まではね、ふさぎこめばふさぎ込むほど魅力的だと思ってましたから(笑)。でも今はそのふさぎこんでいる思いさえもちゃんと説明できる人のほうがカッコいいなって思えるようになってますね。
──みとさんはどうですか?
みと(B) 「骨格」を経たことで、今はよりいろいろなことを楽しめるようになりました。ベースラインの作り方もそうだし、ライブでの見せ方もそう。特にライブは回数を重ねるごとに楽しくなっていってますね。
──前回のインタビュー時には、「最近ライブでようやく前を向けるようになった」とおっしゃっていましたよね(参照:黒子首インタビュー|「いいアルバムができなかったら解散」結成から3年の軌跡を多彩なサウンドに昇華した1stアルバム)。
田中 あははは、そうだった!
堀胃 「骨格」のタイミングだとそんな感じだったんだ。今じゃお立ち台に乗ってますよ(笑)。
みと お客さんとしっかり目を合わせて、私自身、思い切り楽しめるようになりました。今まではちょっと恥ずかしいっていう感覚があったけど、最近は思い切り自分をさらけ出せるようになったのかもしれないです。私が気持ちを解放すれば、お客さんも楽しくなるんだなっていうことに気付きました。それはレコーディングでも同じで、今はもう本当に自分の好きなようにやっちゃってる感じで(笑)。
田中 そうだね。演奏でも自分をさらけ出すようになったってことだね。
曲はずっと作り続けられている
──バンドとしてはすごくいい状況ですね。「骨格」のリリース以降も制作はコンスタントに続けていたんですか?
堀胃 ずっと続けてました、ひたすら。今年頭、新型コロナウイルスに感染してしまったときは3日間くらい死んでましたけど(笑)。
──メインのソングライターである堀胃さんの中からは絶えず新しい楽曲があふれている感じですか?
堀胃 そうですね。もちろん自分が空っぽになった感覚になる瞬間もあるんですけど、好きな曲を聴いたり、好きなことをしながら生活をしていると、そこから派生してまた新たに自分好みの曲が生まれることも多くて。なのでずっと作り続けられている感じではありますね。
──「骨格」の制作時、セッションで曲のアレンジを固めていくことが増えているとおっしゃっていましたよね。最近もそういった制作スタイルですか?
田中 いや、ここ1年はコロナ禍のこともあって、僕がベースとなるアレンジを打ち込みで作り、それをオンラインでやり取りしながら形にしていくことが増えたんですよ。
堀胃 そうだね。先週、ひさしぶりに3人でスタジオ入ってセッションしたらめっちゃ楽しかったですけどね。「せーの」でワーッと合わせて曲を作るのもやっぱりいいなと思いました。
田中 まあそこは曲によって、という感じですよね。
──オンラインでやり取りすることで生まれる化学反応もあるでしょうし。
田中 そうなんですよ。スタジオでセッションをすると、自分に演奏できるフレーズしかやらないじゃないですか。でも打ち込みで作ると、レコーディングで自分が叩くことを考えずにフレーズを決められるところもあって。打ち込みだからこそ生まれるアイデアを大事にしている部分はありますね。
堀胃 最終的にはそれを人間が叩くわけだから、そこで鍛えられるところもあるだろうし。
田中 そうそう。今回の「ぼやぁ~じゅ」の曲たちも、今でこそちゃんと叩けるようになりましたけど、最初はかなり難しかったですからね(笑)。
堀胃 自らを追い込んでいくスタイルだね(笑)。
──みとさんもご自身の個性を思い切りぶつけられているわけですよね。
みと はい。「骨格」のときは全体的に探りつつやってたんですけど、今回はもう特に探ることもなく。自信を持ってドーンと!
堀胃 天才じゃん(笑)。
みと 「骨格」で見えた自分らしさを、最近の曲ではいろいろ詰め込めていると思います。
──今年2月は「やさしい怪物 feat. 泣き虫」を配信リリースして、このシングルをもってメジャーデビューを果たしたのも大きなトピックでしたね。
堀胃 それはもうとてもありがたいことで。「おめでとう!」という声もたくさんいただきました。自分たちだけでは手が及ばなかったこともできるようになったりもしたので、そこは本当にうれしいですね。創作に関してはずっと一貫して同じことをやり続けている感じはあるんですけど。
田中 今まではメンバー自らやっていたことも、たくさんのスタッフの方々にやっていただけるようになったので、音楽に没頭できる時間が単純に増えたところもあるし。
堀胃 うん。それによって楽曲が完成するスピードはめっちゃ上がったと思う。私たちの楽曲を待ってくれている人の顔が見えるようにもなってきたので、3人で作った曲たちをどんどん召喚していくのが楽しいですね。
他者からの愛情を記した「トビウオ愛記」
──そして今回、デジタルEP「ぼやぁ~じゅ」が届きました。「夏」をコンセプトに、今の季節にマッチする多彩な4曲が収録されています。
堀胃 そもそも今回のタイミングでは配信シングルをリリースする予定だったんですよ。で、その候補曲をいっぱい作っていたところ、「これらをまとめて出しちゃおうよ」ということになって。結果、予定よりも4倍速でのリリースとなりました(笑)。
田中 配信シングルが4曲入りのEPになったからね。単純計算だとそうだね(笑)。
堀胃 今までコンセプトを付けて曲を作ったこと自体あまりなかったので、「夏」縛りのEPにできたのが純粋にうれしいですね。楽曲的には3曲目の「水面下の太陽」は3年前くらいから存在していた曲です。1曲目の「トビウオ愛記」は今年の1月に、ほかの2曲はEPに向けて作った感じですね。
──本作のリリースが発表されたタイミングで堀胃さんは「やっと言えたんだが、、まだリリースもしてないのに泣きそうなんだが、、こんな気持ちは初めてなんだが、、」とSNSでつぶやかれていましたよね。それを見て、本作が完成するまでにはいろいろな心の揺れ動きもあったのかなと思ったのですが、その真意はどういったものだったんでしょうか?
堀胃 先ほども言ったように「骨格」以降も日々、曲作りを進めていたのですが、私が今年1月にコロナ陽性になってしまい、予定していたライブに出れなくなってしまったんですよ。そのときに、対バン相手の方たちがライブで黒子首の「Champon」をカバーしてくれていて。その動画を現地に行っていたスタッフさんから見せてもらったとき、私は大号泣してしまったんですよね。で、気付いたらアコギを持って、ゼーゼーしながら1曲書き上げていて。それが1曲目の「トビウオ愛記」なんです。そのときに私は、それまでに感じたことのない他者からの愛情を受け取った気がして。それを忘れないために今、記しておかないと、と思ったんです。だからタイトルに「愛記(あいしる)」という言葉をつけて。そんなきっかけで生まれた曲が入っていることもあって、EPのリリース情報を出す際に、「泣きそうなんだが、、」とツイートしました。
──そんな経緯があったんですね。
堀胃 もちろんファンの方々もたくさん心配してくださったことも込み込みでグッと来たんですけどね。本当にあの出来事はうれしかったです。
田中 ちなみに私はずっと元気だったので(笑)、堀胃さんがダウンしたときはみとと一緒に「Champon」のリアレンジバージョンみたいなのを勝手に作ったりとかして。
堀胃 あー、あれも泣いた! うれしかったよ。
──その後、みとさんもコロナに罹患してしまいましたよね。
みと そうですね。私はホテル療養だったんですけど、楽器を持っていくことができなかったので、ベースを弾かずに1週間くらいを過ごしたんですよ。で、療養が明けて家に帰ってベースを弾いたときに、「わー楽しい!」ってものすごく感じることができて。そのタイミングで「トビウオ愛記」のデモが来ていたので、その「わー楽しい!」って気持ちのままベースを入れて送ったら、「ちょっと弾きすぎだから削ってください」って言われました(笑)。
──あははは(笑)。
みと でもコロナに感染したことでベースの楽しさ、音楽の楽しさに改めて気付けたのは自分にとっては大きなことだったと思いますね。「骨格」をリリースしたときよりも今のほうが全然、「ベースが本当に大好きです!」って大きな声で言えます(笑)。
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声色に表情を乗せることを意識した