黒子首2ndアルバム「dig saw」インタビュー|バンドの本質を掘り下げ手に入れた突破口

黒子首のメジャー2ndアルバム「dig saw」がリリースされた。

このアルバムには、テレビアニメ「鴨乃橋ロンの禁断推理」エンディング主題歌として注目されている「リップシンク」や、テレビドラマ「D.I.Y!! -どぅ・いっと・ゆあせるふ-」オープニング主題歌の「カナヅチ」といったタイアップ曲に、多彩な新曲を加えた全10曲を収録。心の奥底に潜む泥臭い感情を丁寧にすくい取っていく黒子首らしさはそのままに、楽曲ごとにキャッチーさやかわいらしさ、美しさをたっぷりとコーティングしていくことで作り上げられた本作には、これまで以上に圧倒的なメジャー感が漂っている。

バンドとしての覚醒を強く実感させる本作。前作「ペンシルロケット」以降に芽生えた感情の変化や、それを踏まえた充実の制作期間のエピソードについてメンバー3人にじっくりと話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき

こんなにも生き生きと楽しんでくれる方々が聴いてくれていた

──昨年10月リリースのメジャー1stアルバム「ペンシルロケット」は、2022年の「CDショップ大賞」に入賞するなど、高い評価を受けました。「ペンシルロケット」の反響を受けて、黒子首という存在がより多くの人に認知されるようになった実感もあったんじゃないですか?

堀胃あげは(Vo, G) そうですね。でも、だからこそ「もっともっと」という気持ちになったところも大きくて。「ペンシルロケット」は「黒子首にはこういう手札があるよ」っていうのをショーウィンドウに提示するようなアルバムだったと思うんです。だから、今度は「じゃあ実際に聴いてみよう」「手に取ってみよう」と思ってもらえるくらいのアルバムを作らなきゃなという思いになって。自己満足で終わらない届け方ができるといいなと、より強く考えるようになりましたね。

──「ペンシルロケット」のリリース後、12月からは黒子首にとって初となるワンマンツアー「Butterfly Crews」も開催されました。東名阪3カ所を巡ってみて、何か手応えは感じましたか?

田中そい光(Dr) ツアーのときはちょうどコロナ禍による制限が緩まって、不織布マスクをしていれば一時的には声を出してもいいよ、というガイドラインに変わったタイミングだったんですよ。だから、初日の東京公演ではステージに出て行った瞬間、「フウー!!」みたいな声が上がって(笑)。我々自身はあまり根が明るい人たちではないので(笑)、黒子首のライブにもそういう人ばっかりが集まってると勝手に思ってたんですよね、これまでずっと。

──静かに音楽を楽しむ人が多いのではないかと。でも、実際はそんなことなかったわけですね。

田中 そうなんです。黒子首は、こんなにも生き生きと音楽を楽しんでくれる方々が聴いてくださっているバンドだったんだということに気付けた。それが自分たちとしてはすごくデカかったんです。だからこそ、先ほど堀胃さんが言ったような気持ちに変わっていったところがあったんだと思います。

堀胃 うん。今まではライブで盛り上げようみたいなことをあんまり意識していなかったんですよ。でも、こちらからちょっとアプローチするとみんなの手が上がったり、泣いたり、笑ったり、各々が各々の楽しみ方をしてくれていたんです。その光景がすごくうれしいものだったからこそ、もっともっとみんなにわかりやすく、誰もが好きに楽しめる場所を作りたいなと思うようになったんですよね。

堀胃あげは(Vo, G)

堀胃あげは(Vo, G)

──ワンマンツアー以外にも、「VIVA LA ROCK 2023」や「OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL 2023」などさまざまな音楽フェスへの出演もありましたよね。みとさんはフェスに出てみていかがでしたか?

みと(B) どれもやっぱり声出し解禁による衝撃が大きかったですね。「わ、すごい。これはお祭りなんだな」と思うくらいのにぎわいでした。

堀胃 あはははは。

田中 みとは女性人気がすごいんですよ。最近は積極的にお立ち台にも立つようになってるんですけど、そうすると「みとちゃーん!」みたいな黄色い声が上がって。熱狂的なファンがね。

堀胃 出てき始めたよね(笑)。

みと 以前よりもライブがどんどん楽しくなってます。昔は前を向けなくてずっと横を向いてましたからね。パフォーマンス面でもだいぶ進歩できたんじゃないかな。

みと(B)

みと(B)

負の感情をユーモアで消化する突破口

──そんな充実した活動の中、次のアルバムにフォーカスした具体的な動きも進行していったわけですか?

田中 そうですね。この1年はバンドでの話し合いをかなりやったんですよ。きっかけはライブの見せ方やバンドとしてのアンサンブルの作り方といったところから見つめ直していこうという感じだったんですけど、そのままアルバムの制作期間に入ったので、もっと深いところまで、黒子首がどういうバンドなのかを改めて客観的に見つめ直すようにもなって。ディレクターさんを交え、本当にいろんなことを話しましたし、今もずっと話し合っている感じです。

堀胃 ライブをいろんな人に見てもらい、客観的な意見をもらう機会が増えた中で、バンドとして混乱して見られている部分もあるのかなってちょっと思ったりもしたんですよ。やりたいことがいっぱいあるので、本来の自分たちらしさみたいなものが伝わりづらくなってしまっている気がして。

──なるほど。もっと黒子首の本質にフォーカスしたほうがいいのではないかと。

堀胃 そうですね。自分たちが得意としていること、自分たちがやりたいことを武器としてちゃんと出すためには的を絞ったほうがいいと思ったんです。そこで見えたのが、ポップスのバンドでありながらも泥臭いこともできてしまうのが黒子首の大きな武器の1つだということで。ただ、それを泥臭いまま出してしまうと、すごく限られた人たちにしか届かなくなってしまうような気もして。なので今回は、私たちらしさをより広い層に届けるために、泥臭いものを美しい方向に振ってみたり、悲しみをポップにかわいく仕上げてみたり、負の感情をユーモアで消化する突破口を見つけた感じがあったんですよね。

──そこを意識すると、堀胃さんのソングライティングにも変化が生じそうですね。

堀胃 だいぶ変わったと思います。メロディはよりキャッチーに、誰でも口ずさめるものになったと思いますし、歌詞も根を詰めすぎずナチュラルな状態で書けたところがあって。結果、今まで以上にメロディに寄り添った歌詞が付けられるようになったと思います。

みと 黒子首にはもともと、暗い部分とポップな部分、両方の面がありましたけど、今回のアルバムは本当にいろんな人に届くであろうポップさ、聴きやすさが出たと思いますね。

──黒子首は結成からの5年間、ずっと「自分たちらしさとは?」という問いに向き合い、アルバムごとにそのときの答えを見出してきたわけですけど、今回もまたその自問自答のうえで新たなトライアルをしたんですね。

田中 黒子首は常に変わろうとしているというか。なんと言うか……貪欲なんですよね、とにかく(笑)。バンドとしてまだまだ先に行きたいし、自分たちの音楽をもっとたくさんの人に届けたいし。今回のアルバムが前作より評価してもらえたとしても、たぶん「もっともっと」って思い続ける人たちなんだと思います。そこが私たちの一番の武器かもしれないですね。

田中そい光(Dr)

田中そい光(Dr)

みと ずっと落ち着きたくないもんね。音的にもプレイ的にも、まだまだやりたいことがある。だからこそ目標みたいなものも絶対になくなることがないんです。

田中 うん。それがなくなったらつまらないですしね。

──ニューアルバム「dig saw」が圧倒的なメジャー感に満ちているように感じたので、それをどう手に入れたのかが気になっていたのですが、これまでのお話を聞いて腑に落ちました。確実にバンドとして覚醒しましたよね。

堀胃 そうですね。バンド始めたての頃の自分がこのアルバムを聴いたら間違いなくビックリするだろうな(笑)。それぐらい変化したと思う。どう受け取ってもらえるか不安な部分も正直ありますけど、これがちゃんと受け入れてもらえたら今後はもっといろんなやり様があると思います。

田中 私としてはまだ客観的に聴けていない感じなんですけど、ラジオで楽曲がちょっとずつ解禁されていく中で、「あ、カッコいいアルバム作れたんじゃね?」って思ったりもしていて。皆さんの反応もすごく楽しみですね。

みと 昨日、「無問題」をラジオで初めて流したんですけど(取材は10月初めに実施)、「カッコいい!」「すごーい!」っていう反応をたくさんいただけたので、ほかの曲も早く聴いてもらいたいですね。