人間味を減らしたアレンジに取り入れたアコギ

──「WANTED」はちょっとエレクトロ的なムードがありますよね。ボーカルにもオートチューンがかかっていますし。

堀胃　もともとはもっとバンドっぽいアレンジで始まったんですけど。

田中　そうね。私が出したアレンジに対してずっと文句を言われ続け（笑）。最初はめちゃめちゃ普通のドラムパターンとエレキギターを入れていたんですけど、それじゃダサいと。そこで堀胃さんから渡された参考曲を何度も聴いて、ようやく今の形になったんです。結果、初めてエレキギターを一切入れない、全部アコギのアレンジになりましたね。

堀胃　「正体不明のものを探してる」という設定の世界観を持った曲なので、極限まで人間味を減らしたアレンジにしたいなと思ったんですよ。ただ制作中は頭の中のイメージがあまり整理できていなくて、うまく説明できなかったんです。だからとにかく参考曲をひたすら投げてたという（笑）。

──人間味を減らしたかったのに、エレキではなくアコギをチョイスしたのが面白いですよね。

田中　そうですね。黒子首がずっと大事にしてきたアコギのサウンドと、人力ではあるけどエレクトロな感じを持ったサウンドのミスマッチ感がこの曲の面白さではありますよね。あまりほかで聴いたことのない曲だと思うので、私もすごく気に入ってます。

堀胃　ならよかった。そい的にはなかなかツラい作業だったと思うので（笑）。この曲はみとの的確で機械的なプレイが聴きどころでもありますね。

みと　アレンジ的に1音1音しっかり止めていったほうがいいと思ったんですよね。あと曲自体にどこか透明なイメージがあったので、キレイめな音作りをしています。

初のタイアップ曲で感じたアレンジの力

──7曲目には本作のリード曲である「おぼえたて」が収録されています。この曲は放送中のテレビアニメ「忍の一時」のエンディングテーマとして書き下ろされたそうですね。

堀胃　はい。あらすじを読ませていただいたときに家族愛が肝になる作品だと私は受け取ったので、母性をテーマに書いていきました。初めてのアニメタイアップだったので、かなり作品の世界に入り込みましたね。あまりにも入り込みすぎて、制作の途中にディレクターさんから「もうちょっとあげちゃん（堀胃）の心の部分を表現してみてよ」って言われたとき、「あげちゃんって誰⁉」と思ってしまって（笑）。

──あははは。「そんなキャラ出てきたっけ？」みたいな（笑）。

堀胃　そうそう。で、ちょっとして「あ、私のことか」みたいな（笑）。そこまで作品に入り込んで曲を作れる自分に気付けたのはよかったですけどね。

──この曲のアレンジは、さまざまなアニメの劇伴やキャラソンを手がけている伊藤翼さんによるものですね。

堀胃　アレンジャーさんを迎えるのは今回が初めてのことで。生の弦楽器を盛り込んだ壮大な仕上がりにしていただけたのがうれしかったですね。アレンジが上がってきたときは、そいが沸いてました（笑）。

田中　世の中にはバケモノ級の才能を持った方がいるんだなって。普段は全体的なアレンジを含めて考えていくんですけど、この曲はいちドラマーとして勝負できたのが新鮮でしたね。初のタイアップに懸ける堀胃さんの覚悟みたいなものも感じていたので、それにふさわしい機材やフレーズを選び、プレイをしていきました。

みと　アレンジをお願いする前にリズム録りはしていたんですよ。そのときは曲の持っている温かさをテーマにしてベースを弾いていたんですけど、そのあとにアレンジされたものを聴いたら、想像以上にスケールの大きな曲になっていて。アレンジによってここまで印象が変わるんだなという驚きがありましたね。

堀胃　この曲は本当に初めてのことが満載な、まさに黒子首として“おぼえたて”が満載な1曲になりました（笑）。

斎藤ネコさんが答えてくれた“音楽への問いかけ”

──“黒子首と斎藤ネコ”名義で収録されている「question for」は、ネコさんのバイオリンがたっぷりフィーチャーされていますね。

堀胃　初めてネコさんとコラボさせていただいたんですけど、ホントにもう衝撃でしたね。歌詞や歌のある音楽で感動することは今までも経験したことがあったけど、バイオリンという楽器1本でここまで胸が苦しくなるのはなんでだろうという思いに駆られたというか。そういった素晴らしいコラボレーションにちゃんと見合うようなバンドでい続けるために、これからも努力を続けようと思いましたね。

みと　レコーディングは本当にすごかったです。事前に曲の主人公のイメージをざっくりお伝えしたくらいで、ほぼ打ち合わせもしなかったんですよ。

堀胃　うん。「“危うくて音楽が大好きな少女”の曲です」しか言ってない。

みと　なのに、「よし、わかった」って言って2、3回くらいワーッと演奏されて終わり。

堀胃　「お酒飲んで帰るわー」って（笑）。

みと　ネコさんが意図してやられたのかどうかはわからないんですけど、私が上昇していくフレーズを弾いているときに、それに沿って下降するフレーズを弾いてくださってるところがあるんです。そういう部分も含め、細かいところまでものすごいセンスを詰め込んでくださったなって思います。

──そいさんはどうでしたか？

田中　それがですね……実は私がコロナになってしまって、隔離期間の最終日がネコさんの録りの日だったんですよ。なのでレコーディングには立ち会えずで。メンバーの中で私が一番のネコさんファンなので、今回のアルバムに関して唯一の心残りになってしまいました……。

堀胃　そこはね、またコラボしていただけるように精進していくしかない。この曲は音楽への問いかけの曲なんですけど、ネコさんにガッツリ応えてもらっちゃった感じがしましたね（笑）。ものすごいものができたなと思ってます。

ツアーではお互いの思いの見せ合いっこを

──そしてアルバムのラストには「ぼやけて流星」というドラマチックで感動的なナンバーが。最高のエンディングですね。

堀胃　これは大切な人との何かしらのお別れを結末にした曲です。レコーディングの最終工程の段階までストリングスは生じゃなかったんですよ。でもチーフディレクターさんのひと言で生にすることができて。それによって、もともとはすごく寂しくてちっぽけな自分の雰囲気を表現した曲だったのに、急に壮大な星空が広がった感じがして。ここまで壮大にしてもいいのかなって悩んだところもあったんですけど、でも壮大になったからこそ、より自分がちっぽけに見えるというか。本来伝えたかったことがちゃんと表現できたなって思ってます。

──ボーカルにも感情が強く込められていますよね。

堀胃　そうですね。普段はパートごとに分けて録っていくんですけど、この曲はストーリーを大事にしたかったので、最初から最後まで通して歌う録り方を初めてしました。合計3回だけ歌って、その中から1番いいテイクを選んだんですけど、基本的に歌の表現に関してはまったく迷いはなかったです。

田中　私はただただ泣かないようにだけしてドラムを録りましたね。

──確かに気を緩めると泣いてしまいそうになる曲ですもんね。

堀胃　5回くらい泣いてましたけどね、そいは（笑）。

田中　そんなこと言ったら5回どころじゃなく、デモをもらったときからもう泣いてましたし（笑）。なんなんでしょうね。私がちっちゃい頃からよくわからないけど感じてきた悲しい思いみたいなものとすごくリンクする曲なんですよ。私の思いを代弁してくれている感じがするというか。今まで生きてきた中で我慢してきた分、今これを聴いて泣いているというかね。

──いろんな人のいろんな思いを切なく刺激してくれる曲だと思います。みとさんも泣いちゃいました？

みと　私は涙腺がないんで涙は出ないんですけど（笑）。

田中　まあね、泣くことがすべてじゃないから。

みと　でも、演奏しているときから終始、鳥肌でした。感情を大事にしてベースを弾いて、最後に生の弦が入った完成形を聴いたときは完全に鳥肌人間でしたね。

田中　ちなみにこの曲も伊藤さんアレンジです。「おぼえたて」同様、本当に素晴らしい仕上がりにしていただけて感謝しています。

──12月には本作を引っさげたワンマンツアー「Butterfly Crews」も開催されます。アルバムの曲たちがどう再現されるのか楽しみです。

堀胃　自分たちも、どう見せていこうかを楽しみながら考えているところですね。

みと　アルバムにはいろんな機材を使った曲が多いので、それをどうしようかなっていう悩みはあるんですよ。シンベ弾きながらエレべは弾けないですから。でもまあ、そこはライブならではの感じでやればいいのかなという気持ちもあります。

田中　ワンマンはコロナ禍に入る前、インディーズの頃以来なんですよ。しかも作品をリリースして、それを皆さんに聴いてもらった状態でやるワンマンは初めてになるので、私たちとお客さんでお互いの思いを見せ合いっこできるのがほんとに楽しみですね。

──黒子首は来年結成5周年を迎えますし、ここからさらなる盛り上がりに期待してます。

堀胃　ヤバい！ 5周年は何かしたいね！

みと　うん。そのためにもこのツアーを成功させないと。

堀胃　そうだね。今回のツアーの成功が、5周年を迎えるにあたって重要になってきゅる！

田中　最後、思いきり噛みましたけどね（笑）。