樋口楓 | 2次元と3次元の壁を破りたい! ファンへの感謝込めたメジャー初シングル

VTuberの樋口楓が、3月25日にシングル「MARBLE」でメジャーデビューを果たす。

バーチャルライバーグループ・にじさんじの元1期生として2018年にデビューして以降、積極的に音楽活動を展開してきた樋口がかねてから憧れていたというランティスからリリースされるこのシングルには、平朋崇と光増ハジメが手がけた「MARBLE」「Sugar Shack」に加え、影山ヒロノブ(JAM Project)が作曲し、樋口自身が作詞を担当してファンからも歌詞案を募集した「For you」の3曲が収められる。

音楽ナタリー初登場となる今回は、メジャーデビューまでの道のりと、「MARBLE」の制作秘話を聞いた。

取材・文 / 杉山仁

本当の自分を出せるようになった

──まずはデビュー2周年おめでとうございます。とはいえ、過去の配信では「2018年の後半にはもうVTuberを辞めていると思っていた」という話もされていましたよね。

私の場合、本当に気軽な気持ちでVTuberの活動を始めたので、デビューしたばかりの頃は「秋くらいには会社自体が終わってるかもしれない」と思っていたんです(笑)。でも、それからVTuber界が盛り上がっていって、私が所属するにじさんじもどんどん大きくなって。それで気が付けばスケジュールも埋まるようになったんです。体感としてはあっという間でしたけど、振り返るとめちゃくちゃ濃い2年間でした。

──2018年の初め頃というと、VTuberの皆さん自身もまだまだ「VTuberって何だろう?」とそれぞれ考えていた時期だったように思います。活動を続けていくにつれて、樋口さんの中でも理解が深まった部分はありますか?

最初は3Dモデルの方々が動いている様子を見られるのがVTuberだと思っていた方が多かったと思うんですけど、私たちはLive 2D(2Dイラストに立体的なアニメーションを加える表現技術)での活動もしていて。2Dのメリットって、自宅で気軽に配信できることだと思うんです。その結果、いろんな場所で配信できるようになって。私はもう3次元のYouTuberさんと変わらないんじゃないかと思っているんです。

──では、活動していて楽しいのはどんなことですか?

それはやっぱり、ファンの方々と交流しているときですね。まずレスポンスが返ってくるのがめちゃくちゃ楽しくて。私はもともと話すのが得意なタイプではないし、話題作りが苦手だということもあって、聞き役に回ることが多かったんですよ。でもファンの方たちと話していると話題が尽きなくて。それがめちゃくちゃうれしいです。

──もともとは1時間雑談のみを配信をするなんて考えられなかった?

本当にそうです(笑)。最初の配信では30分間お話をしたんですけど、あのときもめちゃくちゃ緊張したんですよ。「話がもたなかったらどうしよう?」「自分が好きなものを受け入れてもらえなかったらどうしよう?」って些細なことに不安を感じていて。私は1期生の中で2日目にデビューしたんですけど、初日にデビューした同期に対してファンの方がすごく温かかったんです。それを見て安心しました。

──実はこのインタビューの前に、初回の配信を見返してきたんです。今とは雰囲気も全然違いますよね。

あの頃はまだ私たちのことをキャラクターとして見ている人が多くて。私自身も樋口楓のかわいいキャラクター像を守らなきゃいけないと思っていたんです。でも、同期のみんなもだんだんキャラクターが崩れていって(笑)。

──(笑)。それが今の皆さんの魅力につながっていますよね。

ファンの皆さんが本心で「かわいい」と言ってくださっているのに対して、「(本当の自分とは)違うなあ」と感じてしまっていて。猫をかぶっているようで、自分らしく配信ができなかったりもしたんです。なので、私的には今が正解かなと思っています(笑)。

「Kaede Higuchi 1st Live "KANA-DERO"」の様子。©2017 Ichikara Inc.

樋口楓の音楽原体験

──樋口さんはにじさんじ所属のVTuberの中でも特に積極的に、初期から音楽活動をしていますよね。そもそもの音楽に興味を持ったきっかけは?

両親が2人共、大学時代に軽音楽部に所属していたこともあって、家の中でも車の中でも常に音楽がかかっていたんですよ。それで3歳になったときにピアノを習うことになって。でも私は両手を同時に動かすことが苦手で、なんで右手でメロディを弾いて、左手でリズムを取れるのかが全然わからなくて……。音楽を好きになったのは小学校の2年生の頃にミニ吹奏楽部のようなものに入って、トランペットに出会ったのがきっかけだったと思います。そこで「音楽って楽しいんだな!」って気付いたんですよ。

──いろんな楽器がある中で、なぜ吹奏楽を選んだのでしょう?

小学校の文化祭で上級生たちが「聖者の行進」を演奏しているのを見たんです。それがめちゃくちゃカッコよくて、当時の私にはキラキラして見えたんです。よく、おもちゃのサルが叩いていたり、サンリオさんのキャラクターが持っているような金管の楽器がありますけど、「あの楽器、本当に存在するんだ!」と思ったんだと思います(笑)。

──リスナーとして音楽を聴くのも好きでしたか?

アニメの主題歌は好きでしたけど、そんなに能動的には聴いていなかったと思います。小さい頃は親の影響でSHOW-YAやTHE BLUE HEARTS、ザ・クロマニヨンズを聴いていました。今度お母さんと一緒にクロマニヨンズさんのライブに行くのが今の楽しみです。あとは、吹奏楽部でJ-POPを演奏するときに原曲を聴いてみたり、顧問の先生にオススメの曲を教えてもらったりして。ただ私はVTuberとしての活動を始めて、ファンの方にオリジナル曲を作っていただくまでは、ボーカルも楽器の1つとして捉えていたので歌詞の読み取りが全然できなかったんです。なので歌モノよりもファンクやジャズのインストをよく聴いていました。

──じゃあ、自分から好きになった歌モノの曲で印象的だったものというと?

なんだろう……自分から曲を聴こうと思ったのは本当に最近のことなんですよ。さっきも言った通り、ファンの方にオリジナル曲を書いていただいて、初めて歌詞の意味がわかるようになって。

──ファンの方に曲を作ってもらった経験は、樋口さんにとって大きな出来事だったんですね。

めちゃくちゃ大きかったです。最近は逆にインスト曲をあまり聴かなくなっていて、VTuberさんが歌っているオリジナル曲やカバー曲を聴くことが増えました。

──先ほど少し話に出てきた、アニソンだとどんな曲が好きなんですか?

「ラブライブ!」の曲が好きで、スポ根的な魅力を感じています。キラキラしているアイドルというより、挫折を経験して、それを乗り越えていく物語にジーンきちゃって。あとはテレビアニメ「響け!ユーフォニアム」のオープニングテーマを担当しているTRUEさんの曲もよく聴いていました。「響け!ユーフォニアム」は、私自身が吹奏楽をやっていることもあって、自分と重なる部分が多いんです。特にトランペットリーダーがパートソロを吹くのか、新人の子が吹くのか、というところでめちゃくちゃ泣きました……というのも、私もまったく同じ経験をしたんです。中学生の頃に先輩が吹くはずのパートを私が任されて、その先輩が影ですごく泣いていたことがあって。そのほかだとバトル系やスポーツ系のアニメも観ますけど、物語の中に音楽が入っている作品がすごく好きですね。


2020年3月25日更新