お礼として始めた音楽活動
──樋口さんをはじめとするにじさんじの皆さんは、ファンの方が作ってくれた曲を歌うことで活動が広がっていったという意味で、珍しい音楽活動の広がりを経験してきたんじゃないかと思います。自身の音楽活動にはどんな楽しさを感じますか?
私はもともと歌を歌いたいと思っていなかったんですよ。配信デビューの前にTwitterの自己紹介動画で中川翔子さんの「空色デイズ」を歌わせていただいたのも、音楽好きだということを伝えようと思ったときに「トランペットが好き」と言ってもわかりづらいかなと思ったからで(笑)。でも、ファンの方が曲を作ってくださるようになって、どうお礼をしようかと考えているときに「歌を付けてお返しするのが一番いいかも」と思ったんです。それをきっかけに、たくさん曲を作っていただけるようになって。
──もともとはファンへのお礼として始めた音楽活動が、2019年1月のZepp Osaka Baysideでの初のワンマンライブ「Kaede Higuchi 1st Live "KANA-DERO"」につながるという。なんだか不思議な話ですね。
本当にそう思います。その前から何かリアルイベントをしようという話はあったんですけど、ファンの方が作ってくれた歌を歌うにつれて「トークより音楽のイベントがしたい」という気持ちが強くなっていって。ファンのみんながいなかったらあのステージには立てなかったし、みんなの思い出に残るようなライブにしたいと思って、「KANA-DERO」では演出にも携わらせていただきました。
──そして2019年の後半では、にじさんじの皆さんと共に幕張メッセや両国国技館のような大きなステージにも立ちました。
他人事みたいですけど、本当に不思議です……! 私はにじさんじの1期生として活動を始めましたけど、それ以降も歌やゲームがうまい人たちが入ってきたりして、VTuber市場を盛り上げてくださっているので、周りの環境に感謝しかないですね。
──樋口さん自身も、歌うことがさらに楽しくなってきている感覚はありますか?
今はめちゃくちゃ楽しいです。ただ、そもそも人前で歌うのはあまり得意ではなかったので、ちょっと恥ずかしい気持ちは今もあるんです。でも「KANA-DERO」のときに、私の歌で会場の人たちがノッてくれているのを見てとても気持ちよかったんです。お客さんの顔を生で見ることができたし、私の生声が伝わったときに歓声を返してくれて。それにリアルな世界の人たちとリアルタイムで交流できて、すごくうれしい気持ちになりました。一方で、VRライブの場合はいろんな演出ができて面白いんですよ。花火を何発も打ち上げたり、桜の花びらを降らせた後に紅葉を降らせたり、背景が徐々に朝から夕焼けに変わったり……そうやって視覚的に楽しめる要素が多くていいなと。一度VRライブを体験すると、なかなか戻れないと思います(笑)。
憧れのレーベルからメジャーデビュー
──これまでの音楽活動で特に印象的だった瞬間は?
やっぱりファンメイドでオリジナル曲を提供してもらったことは大きいです。私の活動を追っていないとできないことだと思うので感動しました。それに、ファンの方の顔をライブで実際に見られたことは本当にうれしかったです。あとは、ランティスさんに「KANA-DERO」を観に来てもらったときですね。その少し前からお話しをしていて「ぜひ観に来てください」と伝えたんですけど、終演後に「ライブよかったよ!」と言っていただいて。憧れのレーベルにそう言ってもらえたことやライブを観てもらえたことが、仮にお世辞だったとしても、すごくうれしかった。
──ランティスというレーベルには、どんな魅力を感じているんでしょう?
ランティスさんは私が好きな曲を特に多くリリースしているレーベルなんです。あとランティスさんが手がけているライブ自体も素晴らしくて、「あのアニメのシーン、よかったなあ」とその場で思い返すのもすごく楽しいんです。アニメの思い出と自分の思い出、アーティストさんの曲がリンクしているような気がして。私たちもVTuberとして日々活動する中で物語が生まれているので、そういうものとリンクしたライブやりたいと思っていて、そのためにも「ランティスさんからデビューしたい」と野望を抱いてました(笑)。
──では今回のランティスからのデビューは、夢が叶ったわけですね。
声をかけていただいたのが「KANA-DERO」から少し期間が空いたあとだったので、正直「ライブがダメだったのかな」と思っていました。でも、もし断られても「もう1回お話しできませんかね……!」と言うつもりでした(笑)。
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2次元と3次元の壁を破りたい
2020年3月25日更新