岡崎律子が残した「Mint」と「リグレット」の関係
──今回は岡崎律子さんにまつわる2曲も収録されています。先ほどお話に出た未発表曲の「Mint」と、1996年にリリースされた「リグレット」のカバーです。
重ね重ね言いますけど、「Mint」と出会えたのはホントに奇跡だと思います。前作「CHOICE」にも「雨の子犬」という未発表曲が入っていたんですけど、私はあれで終わりだと思ってましたから。テープから流れてきた岡崎さんの歌声を聴いた瞬間、いろいろな思いが浮かんできて泣きそうになっちゃいましたね。でも涙がこぼれる前には「この未発表曲は、本当に未発表なのか、形を変えて、どこかに存在するのでは?」とプロデューサー目線な自分がいて、因果なもんだな……と驚愕しました。まあ、それだけ岡崎曲に飢えていたとでも思っていただければですけど……。
──アレンジは岡崎さん楽曲を多数手がけていた蓮沼健介さんですね。
そう。「Mint」を歌うにあたっては蓮沼さんといろんなお話をさせていただいて。その中で「『Mint』は『リグレット』のアンサーソングみたいだよね」という話をした記憶があるっておっしゃっていたんですよ。
──なるほど。確かにこの2曲の歌詞は対になっている印象がありますよね。
「Mint」を歌うことに決めた段階では、アルバムにカバーを入れる予定はまったくなかったんです。でも蓮沼さんのそんなお話を聞いたことで、じゃあせっかくだから「リグレット」もカバーして入れようということになって。
──どちらもどこか懐かしい雰囲気のアレンジになっていますし、流れで聴くとグッときますよね。
いいですよねえ。あとこれはネタの1つとして受け止めてもらえればいいんですけど、「今際の死神」の後に「リグレット」を置いたのはあえてなんですよ。「リグレット」は「恋人なら大切にしなくちゃね」って歌っている曲なので、それをみよ(みよ吉)ちゃんにも、こっそり言ってあげたかったと言うか。
──囁き声で歌っているという点でも「今際の死神」と「リグレット」は心地よくつながりますし。
そこは全然狙っていたわけではなく、そもそも最初は囁き声で歌おうとも思ってなかったんです。でも、歌のディレクションをしてくれたたかはしごうさんが「『リグレット』ではちょっと囁いてみませんか? そのほうが伝わる気がするから」っておっしゃってくれて。それが結果、いい流れになりました。
ナチュラルな“あきらめない”
──そしてアルバムのラストは、林原さんがご自身で作詞した「Fifty」で締めくくられます。年齢シリーズはこれで3作目になりますね。
「Thirty」「Forty」「Fifty」とそろいました。ポーカーで言ったらロイヤルストレートフラッシュくらいのけっこう強い手ですよね(笑)。去年、せっかく50歳で初ライブでもしたので、やっぱり「Fifty」という曲は入れておきたいなと思ったんですよ。
──どんなことを思いながら歌詞を書いていったんでしょう?
たまにネットなんかで“劣化した”みたいな表現を見ることがあって、自分が言われてどうのこうのではなく、その表現そのものが、嫌だなーって思うんですよ。一生懸命生きてきた人に対してそういう表現を張り付けるのって、なんだかすごく切ないでしょ。「それって当たり前なことなんだってば! みんな時に順応しながら老いていくんだってば!」って言いたかったんだと思います。私は自分のおばあちゃんに対して劣化したって思ったこと一度もなかったし(笑)。
──なるほど。でもこの曲では変わっていくことよりも、変わらないことにフォーカスしている感じですよね。
そうそう。私は二十代のときに「幽☆遊☆白書」という作品をやっていたんですけど、あるとき、一緒に出ていた大先輩の方に「あんたたち50歳になるって想像付かないでしょ? なんにも変わんないのよ」って言われたことがあって。当時は「そんなバカな」って思っていたけど、実際に自分が50歳になってみると「ホントにそうだな」って痛感しました。当然、変わった部分もあるんだけど、そこは十分自分の中で咀嚼できてわかっていることだから、この曲ではあえて変わらない部分を肯定的に歌いたいなって思ったの。いくつになっても変わらないところは変わらない。でもそれを成長がないと嘆くんじゃなくて、それこそが自分の核たる部分なんだって愛せたらいいなって。
──今回、改めて年齢シリーズの3曲を聴いてみましたけど、確かに林原さんの核となる部分は変わっていない印象がありました。そのうえで、その歌声であったり歌詞の表現であったりが一番瑞々しいのが「Fifty」だったんですよ。むしろ若返っているくらい。
ああ、それは周りの方にも言われますし、自分でも歌っていてビックリしましたね。レコーディングでポーンと歌ったときに、たかはしさんが椅子から転げ落ちてて。冗談半分で「成人式の方ですか?」みたいな(笑)。それくらい声が伸びてるっておっしゃってて。でも明らかに20歳ではない。包容力のようなものを感じてもらえたらうれしいですね。
──しかも歌詞の中では“あきらめない”という思いを何度も繰り返しています。年齢を重ねてもなお、そういう気持ちを保ち続けられていることもすごく素敵だなと。
そう感じてくれてよかったです。使い古されてる言葉ではあるんですけど、それってやっぱりすごく大事なことですからね。二十代の頃なんかは「夢は叶うさ」って言い続けて、そこに向かってがんばっていくわけだけど、30歳を超えてみるとどうしたって叶わなかった夢も必ずあるわけで。そこからは叶えるために何をしたか、何をしてきたかっていう、自分の中に貯まったものをエンジンにしていくことが必要になる。今の私はナチュラルに、頭をポリポリかきながら“あきらめない”感じで、十代の部活みたいに歯を食いしばる感じの“あきらめない”とは少し違う。その年代年代の“あきらめない”があっていいと思います。
次にどんな切符が私の元に届くか
──林原さんは本作のリリース日にまた1つ歳を重ねます。「Fifty」の歌詞になぞらえるなら、ここからまた“半世紀からの先の未来”がスタートするわけですが、何かビジョンはありますか?
まったく見えてないです(笑)。私の場合、その都度その都度やりきるんで、そのたびに「もう次はないだろう」って思っちゃうんですよね。今もそういう感じ。ただ、去年のライブのときも「やりきった!」と思ったけど、その打ち上げの席で「Mint」という新たな行先の切符をもらっちゃいましたから。この先もどうなるかはわからないですね。きっぷが舞い込んできたときに、どうやって進むか全力で考えるんだと思います。
──ライブに関してはどうですか? お話を伺っていると、初ライブはいろんな形で林原さんに影響を与えている印象がありますが。
先ほども言ったように、私の中ではレコーディングで歌い終わったときが頂点、気持ちのマックスなんですよ。でもね、ライブをやってみると、そのマックスな気持ちは違うところにもあるんだなってことに気付けたと言うか。お客さんたちの感情がマックスになっているところを見られるのがすごく新鮮でした。
──それを目の当たりにできる場所であると。
そう。みんなが私の歌をカラオケで歌って楽しんでくれているとか、そういうことはお便りを通じて知ってはいましたけど、そうやって楽しんでくれてる姿を生で見られる場所という意味ではすごいものだなって。
──となると2ndライブにも全力で期待しちゃいますけど。
それは次にどんな切符が私の元に届くかにかかっていると思います。いつ、どんなタイミングで届くかはわからないので、なるべくポストは見るようにはしますね(笑)。
- 林原めぐみ「Fifty~Fifty」
- 2018年3月30日発売 / KING RECORDS
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初回限定盤 [CD+Blu-ray]
3780円 / KICS-93693 -
通常盤 [CD]
3240円 / KICS-3693
- CD収録曲
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- 集結の園へ~セカンドインパクト~
- Come sweet death, second impact
- The Image of black me
- Dilemmatic triangle opera AYANAMI Version
- SKY5
- もう1人の私 MEGU Version
- サンハーラ~聖なる力~
- つばさ
- 薄ら氷心中
- 今際の死神
- リグレット
- Mint
- 恐山ル・ヴォワール
- Fifty
- 初回限定盤Blu-ray収録内容
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- 薄ら氷心中(Music Video)
- 薄ら氷心中 アナザーバージョン(Music Video)
- 今際の死神(Music Video)
- 青空(Music Video)
- 林原めぐみ(ハヤシバラメグミ)
- 東京都出身の声優、アーティスト。高校卒業後、看護学校に通いながら声優養成所に入所。養成所在籍中の1986年にアニメ「めぞん一刻」で声優デビューを果たし、以来「魔神英雄伝ワタル」の忍部ヒミコ、「らんま1/2」の早乙女乱馬、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの綾波レイ、「スレイヤーズ」シリーズのリナ=インバース、「名探偵コナン」の灰原哀、「ポケットモンスター」シリーズのムサシなど人気作の主要キャラクターを歴任する。また1989年発表の「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」のイメージソング「夜明けのShooting Star」が話題を集め、“声優アーティスト”の先駆け的存在に。1990年には個人名義で1stミニアルバム「PULSE」をリリースし、1990年代後半には「Give a reason」「Just be conscious」「don't be discouraged」などオリコン週間シングルランキングトップ10入りを何度も果たす。その後もコンスタントにリリースを重ね、2017年5月には、2004年に急逝した岡崎律子のトリビュートアルバム「with you」を発表。同年6月には初のワンマンライブ「林原めぐみ 1st LIVE -あなたに会いに来て-」を開催した。2018年3月、7年8カ月ぶりとなるニューアルバム「Fifty~Fifty」をリリース。