琴と笛に大きな役割を担わせた「恐山ル・ヴォワール」
──本作に収録された14曲を眺めてみて、改めて感じることって何かありますか?
さまざまなキャラクターがいるからこそ私の歌があるんだなということは1stアルバムの頃から変わっていないです。時折、今回で言うと「Fifty」みたいな曲で素の私らしい部分を添えたりはしていますけど、基本は四方八方に軸がたくさんある感じ。それらをまとめたものをオリジナルアルバムと呼んでいいのかどうかはもはや私にはわからないんですけど(笑)、それこそが声優としてのだいご味であるし、もっとも声優らしいアルバムの形になっているなとは思います。
──曲調もさまざまですから、1枚としてまとめる難しさもありそうですよね。
そうそう。インパクトのある「集結の園へ~セカンドインパクト~」を1曲目にしたいというディレクターからのご意見はありましたけど、それ以外の曲順は私が決めたんですよ。そこから、エヴァ関連の曲もアルバムの頭にまとめたほうがいいだろう、とかね。いろいろ考えましたよ。「恐山ル・ヴォワール」の置き場所なんかは一番悩みました。
──その「恐山ル・ヴォワール」は、オリジナルに多少手が加えられているそうですね。
アレンジはそのままで、琴と笛だけを生に差し替えてます。そこにもちゃんと理由があるんですけど……。
──まずは自由に楽しんでもらいたいと。
はい。琴と笛に大きな役割を担わせた、ってことだけ言っとこうかな。そうしたことでより素晴らしい仕上がりになったと思います。レコーディングのときにもウルウルしちゃってましたし、今日車の中で聴きながらまたボロボロ泣いちゃいましたし(笑)。変な先入観なく聴くことで、皆さんにも自然とそういう感覚を味わってほしいなって。
キャラで歌うか、林原めぐみさんで歌うか
──本作には4つの新録曲が収録されています。まずは、アニメ「3×3EYES」の楽曲であった「もう1人の私」の“MEGU Version”。
オリジナルはヒロインのパイとして「3×3EYES」の世界観を体中に入れながら歌っていたんですけど、今回はピアノだけのサウンドの中、林原めぐみさんとして歌いました。受験生であったり、工事現場で働いている人であったり、子供の夜泣きに困ってるお母さんであったり、そういったいろんな人のがんばりを想像しながら、「まだ行かなきゃいけない」「もうちょっと行かなきゃいけない」みたいな気持ちを脳内で描いて歌いました。
──同じ曲であっても、歌い手としての視点がどこにあるかでまったく違った響き方をするのが面白いですよね。極端な話、同じ人が歌っているとは思えないくらいの違いがあると言うか。
それも“声優・林原めぐみ”の独特なところだと思いますね。私の中ではいくつかパターンがあって。キャラのマインドや作品の世界観を全身に受けた林原めぐみさんで歌うパターンもあれば、キャラになりきって歌うパターンも当然あるし、この“MEGU Version”や「Fifty」のようにゴリゴリの林原めぐみさんとして歌う場合もある。さらに言うと、主題歌の場合はその作品世界を代表して林原さんとして歌うんだけど、挿入歌のようにより作品の中に入った曲の場合はもう少しキャラの人格が必要になってきたりもするんですよね。そのさじ加減が私らしさだとも思います。
椎名林檎とのレコーディング
──どんな立ち位置、視点でその曲を歌うのかは、アニメサイドなりから指示があるものなんですか?
ないですね。基本は私の判断です。あーでも今回入っている「薄ら氷心中」や「今際の死神」なんかはね、最初は林原めぐみさんで歌うつもりだったんですけど、曲を作ってくれた(椎名)林檎嬢の指示で「昭和元禄落語心中」のみよ吉にグッと寄った肉声になりましたね。
──あの囁くような歌い方は椎名林檎さんのディレクションによるものだったんですね。
そうそう。最初はもっと歌い上げていたんですよ。いただいたデモの仮歌も、いわゆる林檎節で歌われたものだったので、言葉をばらまくような感じがいいんだろうなと思ったので。でも実際はひたすら「囁くように、囁くように」と言われ。さらに、この曲はみよ吉が命を落とす3分前の曲だっていう、そこに込めた思いを聞いたことでよりキャラに寄っていったところはありました。とは言えね、みよ吉さんに「歌ってよ」って頼んだところで小唄しか歌ってくれないですからね。「いやよ」って言われちゃいそうなんで、「そこをなんとか、あなたの生き様を借りていいかしら?」みたいな感じでなりきっていきました。
──みよ吉さんとそんなやり取りをしつつ。
そう。脳の中でね(笑)。まあでも、あれだけ楽器が鳴ってるサウンドに対して囁き声で渡り合わなきゃいけないなんてね、最初はまったくできる気がしなかったですよ。綾波レイもビックリなくらいの囁きを要求されたわけですから。
──でも結果的に林原さんのボーカルの存在感たるや、ものすごいですよね。確実にあのサウンドと渡り合えていると思います。
たぶんそうなることが林檎嬢には見えていたんでしょうね。囁き声であっても、あまたの楽器が鳴り響くオケに負けないマインドを重視してくれました。だからこそ、「もっとちょうだい、もっとちょうだい」みたいな感じでディレクションしていただけたんだと思いますし。私としては求められるがままに心地よく漂っただけなんですけどね。
次のページ »
岡崎律子が残した「Mint」と「リグレット」の関係
- 林原めぐみ「Fifty~Fifty」
- 2018年3月30日発売 / KING RECORDS
-
初回限定盤 [CD+Blu-ray]
3780円 / KICS-93693 -
通常盤 [CD]
3240円 / KICS-3693
- CD収録曲
-
- 集結の園へ~セカンドインパクト~
- Come sweet death, second impact
- The Image of black me
- Dilemmatic triangle opera AYANAMI Version
- SKY5
- もう1人の私 MEGU Version
- サンハーラ~聖なる力~
- つばさ
- 薄ら氷心中
- 今際の死神
- リグレット
- Mint
- 恐山ル・ヴォワール
- Fifty
- 初回限定盤Blu-ray収録内容
-
- 薄ら氷心中(Music Video)
- 薄ら氷心中 アナザーバージョン(Music Video)
- 今際の死神(Music Video)
- 青空(Music Video)
- 林原めぐみ(ハヤシバラメグミ)
- 東京都出身の声優、アーティスト。高校卒業後、看護学校に通いながら声優養成所に入所。養成所在籍中の1986年にアニメ「めぞん一刻」で声優デビューを果たし、以来「魔神英雄伝ワタル」の忍部ヒミコ、「らんま1/2」の早乙女乱馬、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの綾波レイ、「スレイヤーズ」シリーズのリナ=インバース、「名探偵コナン」の灰原哀、「ポケットモンスター」シリーズのムサシなど人気作の主要キャラクターを歴任する。また1989年発表の「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」のイメージソング「夜明けのShooting Star」が話題を集め、“声優アーティスト”の先駆け的存在に。1990年には個人名義で1stミニアルバム「PULSE」をリリースし、1990年代後半には「Give a reason」「Just be conscious」「don't be discouraged」などオリコン週間シングルランキングトップ10入りを何度も果たす。その後もコンスタントにリリースを重ね、2017年5月には、2004年に急逝した岡崎律子のトリビュートアルバム「with you」を発表。同年6月には初のワンマンライブ「林原めぐみ 1st LIVE -あなたに会いに来て-」を開催した。2018年3月、7年8カ月ぶりとなるニューアルバム「Fifty~Fifty」をリリース。