音楽ナタリー Power Push - 秦基博

これまでとこれからをつなぐピース

やりたいことを続けていけば、自然と湧き上がってくる

──そして2曲目の「終わりのない空」はエッジの効いたロックテイストのナンバーです。

「終わりのない空」は映画「聖の青春」の主題歌として書き下ろした曲です。映画を観させてもらって、そのときに浮かんだメロディ、サウンドをまずは形にして。エンドロールで流れるので「映画の余韻の中で、どういう曲が聞こえてきたらいいだろう?」とイメージしながら作りました。

秦基博

──独特の緊張感、鋭さがあるサウンドですよね。

それも映画から感じたものですね。もちろん難病を抱えながら、将棋の世界に生きた村山聖さんという主人公の生き様もそうだし、すごくヒリヒリした雰囲気があったので。死と隣り合わせの状態で将棋にのめり込んでいく、その命を懸けた真剣勝負の緊張感をサウンドの強さとして出したかったんです。ドラムのビート、ギターの鋭さもそうだし。レコーディングに参加してくれたメンバーは「Q & A」と同じなんですけど、皆さん忙しいからなかなかスケジュールが合わなくて、レコーディングも夜からになりましたが、バッチリでしたね。

──歌詞に関しても、村山聖さんの生き様に刺激を受けたところが大きいんですか?

まず感じたのは「どうやったらそんなにすさまじい生き方ができるんだろうか?」ということですね。死を意識しながら、今の生を120%で生きるっていう。それは本当にすごいことだと感じる一方で、「本来、自分たちもそうあるべきだな」とも思ったんですよ。誰もが瞬間を生きていて、そこに向かって命を燃やしているはずだって。村山聖さんの生き様にインスピレーションを受けながら、自分自身とつなげることができたのが、サビの「痛いほど 僕ら 瞬間を生きてる」という歌詞だと思います。

──デビューからの10年も瞬間瞬間の積み重ねですからね。「70億のピース」「終わりのない空」というタイプの違う楽曲をシングルとしてリリースすることで、次の音楽的な方向性も見えてきました?

うーん、どうですかね……今回の2曲、前作の「スミレ」もそうなんですけど、1曲入魂という感じで作っていて、先を見据えているわけではないので。でも「気付いたら、全部つながっていた」ということになりそうな気はします。「青の光景」もそうだったんですよ。あのアルバムの中で最初に作ったのは「ダイアローグ・モノローグ」なんですけど、曲を書いたときはまだアルバム内でのつながりはまったく考えてなくて、あとになってリンクしていたことに気付いたので。表現したいことをつくり続けていけば自ずと湧き上がってくるというか、次のアルバムまでの道筋も決まってくると思いますね。

しっかり自分を歌う先に普遍性がある

──今回のシングルの初回限定盤は、「青の光景」のツアー「HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2016-青の光景-」のライブ映像を収めたBlu-ray / DVDとの二枚組になっています。ツアー前にナタリーでバンドメンバーとの座談会も行いましたが(参照:秦基博「スミレ」特集)、今振り返ってみるとどんなツアーでしたか?

すごく充実してましたね。ツアーが始まってからも細かい修正を重ねながらブラッシュアップできたし、バンドのグルーヴもどんどんよくなっていったので。

──素晴らしいメンバーですからね。個人的には弓木英梨乃(G / KIRINJI)さんのギター、あらきゆうこ(Dr / MI-GU)さんのドラムが印象的でした。

秦基博

弓木さんのギターはどこでも評判がよくて、僕よりも注目されてた気がします(笑)。彼女の音は「青の光景」のどの曲にもすごく合ってたんですよね。弾きっぷりがいいというか、音が気持ちよく抜けて、広がっていって。ゆうこさんのドラムはもともと好きなんです。ビートが前に出るし、すごくドッシリしているんだけど、メロディックというか歌心があるんですよね。それが自分の歌ともマッチしてるんじゃないかなって。鈴木正人(B / LITTLE CREATURES)さん、皆川真人(Key)さんも素晴らしいプレイヤーだし、バンドとしての相性、バランスもよくて。こういうコンセプチュアルなツアーを映像作品として残せるのはすごくうれしいですね。当日演奏した曲もすべて収録していて、ほぼノーカットなんですよ。画質のクオリティをキープできる限界まで詰め込みました(笑)。

──そして11月から12月にかけて初のアリーナツアー「HATA MOTOHIRO 10th Anniversary ARENA TOUR "All The Pieces"」が開催されます。まさに10周年の記念碑的なツアーだと思いますが、どんなライブになりそうですか?

細かいところはこれから詰めていくんですが、これまでの自分の曲の振り幅を凝縮させられたらいいなと思っています。「青の光景」のツアーメンバーに加えて、ストリングスのダブルカルテットにも入ってもらいます。アリーナの規模にふさわしい、スペシャルなライブにしたいですね。

──デビューから10年の集大成になりそうですね。秦さんは丁寧によい曲を作り続けてきたという印象がありますが、ターニングポイントと言えるような出来事もあるんですか?

1枚1枚のアルバムの積み重ねなんですが、5年目が1つの節目だったかなと思います。「Documentary」というアルバムをリリースしたんですけど、そこで自分の価値観、作品性というものがブレなくなったんですよね。デビューの頃は衝動のまま作っていたんですが、その後、いろいろと考えるようになって、試行錯誤を繰り返して。その中でたどり着いたのが「Documentary」という作品だったと思うんです。しっかり自分を歌う先に普遍性があるんじゃないかって。自分自身のことを突き詰めることで、その時代に生きている人みんなにも通じる普遍性が生まれる。それが明確になってからは、迷わなくなりましたね。

──今回のシングル「70億のピース」「終わりのない空」もまさにそうですね。

はい。表現の方法は違いますけど「自分が思っていること、見えている景色をどう描くか?」という根本は同じなので。あとはそれを深く、鋭くしていきながら、そのときの自分の趣向を加えることが大事なのかなって思っています。

秦基博
ニューシングル「70億のピース / 終わりのない空」/ 2016年10月19日発売 / オーガスタレコード/アリオラジャパン
「70億のピース / 終わりのない空」初回限定盤
初回限定盤A [CD+Blu-ray] / 6480円 / AUCL-207~8
初回限定盤B [CD+DVD] / 5400円 / AUCL-209~10
通常盤 [CD] / 1300円 / AUCL-211
CD収録曲
  1. 70億のピース
  2. 終わりのない空
  3. 聖なる夜の贈り物(2016 ver.)
  4. 70億のピース(backing track)
  5. 終わりのない空(backing track)
初回限定盤Blu-ray / DVD収録内容
  • 「HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2016-青の光景-」
    2016年6月3日の東京・東京国際フォーラム ホールA公演のライブ映像全21曲を収録。

HATA MOTOHIRO 10th Anniversary ARENA TOUR "All The Pieces"

2016年11月1日(火)
神奈川県 横浜アリーナ
2016年11月4日(金)
大阪府 大阪城ホール
2016年11月5日(土)
大阪府 大阪城ホール
2016年11月15日(火)
愛知県 日本ガイシホール
2016年11月19日(土)
宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
2016年11月27日(日)
北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
2016年12月23日(金・祝)
福岡県 マリンメッセ福岡
秦基博(ハタモトヒロ)
秦基博

オフィスオーガスタに所属する、1980年生まれ宮崎県出身のシンガーソングライター。横浜を中心に弾き語りでのライブ活動を開始し、2006年11月にシングル「シンクロ」でデビュー。柔らかな声と叙情豊かな詞、耳に残るポップなメロディで大きな注目を浴びる。2007年9月に発表した1stフルアルバム「コントラスト」が支持を集め、2009年3月に初の東京・日本武道館公演を実施。2011年には自身3度目の武道館公演を全編弾き語りで成功させた。2013年10月に自身が選曲したセレクションアルバム「ひとみみぼれ」をリリース。そして2014年8月発表の3DCGアニメ映画「STAND BY ME ドラえもん」の主題歌「ひまわりの約束」は100万ダウンロードを超える大ヒットを記録した。2015年12月には全曲のアレンジを自ら手掛けたセルフプロデュースの5thアルバム「青の光景」を発表。2016年9月に行われたオフィスオーガスタによる野外ライブイベント「Augusta Camp」ではプロデュースを務めた。そして10月19日にデビュー10周年を記念したシングル「70億のピース / 終わりのない空」をリリースする。