春ねむり|奪われてることにもっと怒っていい

国会中継を5分見ただけでブチ切れる自信あります

──最近「怒りは何も生まないよね」みたいなことを言う人が多くないですか?

いるいる。「それはね、君が高みにいるからそう思うんだよ」って思います。「そんなに怒って話さなくてもさあ」みたいに言う人もよくいるけど、冷静に話して通じる関係性があるならともかく、そうじゃない段階で怒ってるときには、本っっ当に無意味だから。鬱陶しいくらい言わないと対話すら始まらないときってたくさんあるじゃないですか。「人類がどうやって民主主義を勝ち取ってきたか知ってんのか? 怒りから始まったに決まってんだろ!」って思います(笑)。たまにそういうこと言う人がいっぱいいる場所なんかに行くと、本当に絶望し切っちゃいそうになりますね。「あー、ここで今死んだりしたら、この人たち考え改めてくれんのかなー」みたいな。

春ねむり

──改めないでしょうね。消費されて終わりです。

そういう人に限って「カート・コバーン好きでさ」とか言うんでしょ?「XXXテンタシオン聴いてたのに死んじゃって悲しい」とか言うんでしょ?って思います。エミネムが新曲でジュース・ワールドをフィーチャーして追悼みたいなMV出してましたけど、マジで怒ってんなって思いました。あんなに才ある人が若くして死んだら怒るに決まってるよなって。怒らないほうがどうかしてます。怒らない人って逆に何考えて生きてるんだろう? 本当にわからない。私、国会中継を5分見ただけでブチ切れる自信ありますよ(笑)。あとワイドショーとかも。

──ひどいですよね。

うちにテレビがないからSNSで回ってくる動画で見るんですけど、最近一番「ハァ?」って思ったのが、韓国のアイドルの子が自殺したときのことで。その子の元彼がリベンジポルノの動画をネットに流してたんですよね。ワイドショーでその画面を印刷したフリップが出てきたんですけど、司会者がその画面にある再生ボタンを押して「再生されないんですか? 残念ですね」みたいなこと言ってて、マジで死んでくれないかなって思っちゃって。でもその人は売れっ子司会者らしくて、本当にわけがわからない。

──そりゃライオットも起こしたくなりますよね。

本当に。何かを人に訴えかけるって、暴力でないわけがない。それが戦争とか虐殺とか差別とかになるのがイヤだから音楽やってるわけで。わかってるんですよ、暑苦しくて鬱陶しいって。

──資料にも「鬱陶しいほど“愛よりたしかなものなんてない”と叫ぶ春ねむり」とありますし、自覚はあるわけですよね(笑)。

アルバムができあがったときに、「愛よりたしかなものなんてない」ってどういう気持ちで書いたんだっけなと思って自分のツイートを検索したんですよ。そしたら「ライブで『せかいを、きみを、愛したい!』とMCしたら『春ねむりキツイ。勝手に愛しててください』と書かれたことある春ねむりさんの新曲/『愛よりたしかなものなんてない』と鬱陶しいほど連呼するパンクロック(BPM230)”って書いてて(参照:春ねむり (@haru_nemuri) | Twitter)、変わってないなと思いました(笑)。だから自覚はもちろんあるんですけど、そうしないと変わってくれないじゃない? みんなって。考えるっていう営みを放棄しちゃってるから、獲得してほしいんです。放棄したくなる気持ちもわかるんですけど、それで世界はよくならない。「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」っていう吉田健一の言葉があるじゃないですか。あれって根本的には間違ってないと思うんですけど、それじゃもう足りないんですよ。みんなが選挙に行かないと、みんなが正しい知識を身に付けないと、社会を成立させることすら難しいと思うから。

──その危機感は僕も共有しています。

春ねむり

ヤバいですよね、本当に。どう考えても自分が美しく暮らしているだけでは滅びる一方みたいな状況なのに、なんでみんなそう思わないんだろう。「考えるってどういうことなんだろう?」って考えた瞬間に、人ってめっちゃ成長すると思うんです。自分がそうだったから。なのに、その機会を断たれるようなことが、特に若い人には多い気がしていて。毎日一生懸命働いてるのに、生活が不安定で、目の前の労働に追われて何も考える気力がないみたいな。奪われすぎだろと思って。「何に?」って聞かれたら一概には言えないんですけど、もっと奪われてることに怒っていいと思うんですよね。音楽とか文学とか、芸術にできることって、そのタネを植えることじゃないですか。だから私はそれをやるしかないんですよ。

──特に若い人は生きにくい世の中だと思います。

考える力を奪うのが、支配する人たちや富を得る人たちにとっては一番楽な方法だから。大げさに聞こえるかもしれないけど、これが大げさに聞こえるんだとしたら、もうたぶん奪われてる。そういうものに対抗し得る一番平和な手段が芸術だと思うんです。だから芸術で対抗していきたい。

音楽だけはやめられない

──今回は春ねむりの表現として許容できるギリギリのラインまで明快に、直截になってきているなと思ったんですが、その理由がよくわかりました。

これでわかってもらえなかったら、どうしたらいいのかなって思うくらいです(笑)。

──7曲通してドアを叩き続けている感じですもんね。叩いても応えてくれるとは限らないけど、少なくとも叩かないと外に人がいることはわからない。

うん、うん。そうなんですよね。わかってほしいとかではもはやなくて、「いるじゃん! いるよね? じゃあ話始めようか」みたいな感じです。いることすらなかったことにされてるようなことがめちゃめちゃ多いなって思うから。自分が存在しているのは自分だけのせいじゃないし、自分だけのおかげでもないから。話し合うことって、人間が社会を作るために必要なことだと思うけど、それを放棄しちゃう人がいっぱいいるのが怖いんです。

──そうした恐怖や危機感や愛や怒りを音楽という形で表現する。そのスキルはどんどん上がっていると思います。

音楽を作ってるときは音楽だけに向き合えばいいから、いろんなことを忘れられるんですよね。2年前は「人のために」とか言いたかったんですけど、今は違うなって思います。やっぱり自分が音楽が好きだから作ってるんであって、それが結果的に人のためになったらいいよね、っていうことだなって。音楽だけは飽きないです。やめられない。

春ねむり