2016年10月にミニアルバム「さよなら、ユースフォビア」でデビューし、昨年6月に2作目「アトム・ハート・マザー」をリリースしたポエトリーラッパー、春ねむりが初めてのフルアルバム「春と修羅」を完成させた。今作には新曲のほか、突然少年を迎えた「ロックンロールは死なない」のバンドサウンドによる再録バージョンも収録。言葉の分節をコントロールし、ラップと朗詠と絶叫を縦横無尽に往来する彼女独特のエモーショナルな歌は、下手に近付けば斬られそうな迫力と、無防備なまでの人懐っこさを併せ持っている。
音楽ナタリーでの初インタビューとなる今回は、アルバムの内容を紐解きながら、彼女の創作のエネルギー源を探った。
取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / 西槇太一
- 春ねむり「春と修羅」
- 2018年4月11日発売 / パーフェクトミュージック
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初回限定盤 [CD+DVD]
3240円 / PMFL-9001 -
通常盤 [CD]
2700円 / PMFL-0008
- CD収録曲
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- MAKE MORE NOISE OF YOU
- 鳴らして
- アンダーグラウンド
- 春と修羅
- zzz
- ロストプラネット
- せかいをとりかえしておくれ
- 夜を泳いでた
- zzz
- ナインティーン
- ゆめをみよう
- zzz
- ロックンロールは死なない with 突然少年
- zzz
- 夜を泳いでた(Nemu remix)
- アンダーグラウンド feat. NERO IMAI(shnkuti remix)
- 鳴らして(長谷川白紙 remix)
- 初回限定盤DVD収録内容
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2017.10.26 春ねむりワンマンライブ「ぼくを最終兵器にしたのはきみさ」@武蔵野公会堂ホール
- Intro
- 怪物
- 東京
- ぼくは最終兵器
- ロストプラネット
- アンダーグラウンド
- ロックンロールは死なない
- 「ロックンロールは死なない with 突然少年」レコーディングドキュメンタリー映像(ボーナストラック)
音楽作品として成立するギリギリのラインを考えて、極限まで削ってまた作る
──初めてのフルアルバム、完成おめでとうございます。
ありがとうございます。フルアルバムは未知の領域だったのでどれくらい大変かなと思ったら、想像よりだいぶ大変でした。しかもマネージャーが2016年の段階から「2018年の4月に出す」って決めていたらしくて、「やべえ……曲作んないと……」みたいな(笑)。でも達成感はやっぱり大きいですね。私の曲は言葉を尽くして1つのことを説明するみたいなのが多いので、曲数が多いと聴く人は大変だと思うんですけど、自分としては言いたいことをいっぱい言えてよかったです。
──饒舌なのはねむりさんの音楽の特徴ですよね。
誤解されるのがすごくイヤなので、言葉数が多くなるんですよ。このアルバムは1時間くらいありますけど、あと30分は付け足せるくらい言いたいことがありました(笑)。デモの段階だとどうしても書きすぎちゃうから、音楽作品として成立するギリギリのラインを考えて極限まで削って、また作ってまた削って……みたいな作業を、前のミニアルバム2枚よりだいぶ神経質になってやりましたね。
──そういう作業は1人でやるんですか? 周りの人の意見も聞きながら?
聞かないです。何か言われるのがイヤなんで(笑)。自分が納得するまでは絶対に曲を聴かせないし、納得して聴かせたら、何か言われても絶対に変えない。「もっとキャッチーにしたほうがいいよ」って言われたら、別のキャッチーな曲を作るんです。そうして曲数が増えていくみたいなことをずっと繰り返してますね。最初は「春と修羅」をリード曲にしようと思ってたんですけど、「もうちょっとライトなリスナーにも伝わるような曲が欲しい」って言われたので「せかいをとりかえしておくれ」を作りました。
──アルバムタイトルも「春と修羅」ですが、曲のほうが先にできた?
アルバムタイトルは前作の「アトム・ハート・マザー」を出したときから決めてました。「春と修羅」というタイトルの曲があったほうがいいって言われたので、その段階でできていた曲をもう1回聴いて、「リード曲で言わなきゃいけないことって何なんだろう……それが『春と修羅』という曲名になるってどういうことなんだろう……」と、直感で決めたことにあとから理屈を付けていくみたいに考えて作りました。今まで自分がしてきたことって言うか、ポエトリー、シャウト、リズムの変化、ロックみたいな要素を全部凝縮させた曲ですね。
仏様にも人間にもなれずに怒ってる状態で死ぬまで音楽を作りたい
──「春と修羅」というアルバムタイトルにした理由は?
宮沢賢治の同名の詩集が好きなんですけど、なんでこんなに好きなのかなって考えたら、彼は浄土真宗の家に生まれて、18歳のときに法華経の書物を読んで感動して日蓮系の国柱会に改宗した人なんですよね。浄土真宗は自分の救い、死後の極楽浄土での救いを説くんですけど、法華経にはエゴを捨てて衆生の救いを求めて、あの世じゃなくこの世に“仏国土”の世界を実現させようと書かれているんです。でも、仏様になるってぶっちゃけ無理じゃないですか。人間はどうしても生臭いものだから。そこに葛藤した人生だったみたいで、「春と修羅」では「いかりのにがさまた青さ」みたいなことを言ってるんですよ。「あ、怒ってるんだ」と思って、何に怒ってるのかなと思って読んでたら、仏様にも人間にもなりきれない自分に怒ってるんですよね。それで「めっちゃわかる!」と思って。
──なるほど。
1点違うのが、私は神仏にはなりたくないんです。ずっと仏様にも人間にもなれずに怒ってる状態で死ぬまで音楽を作りたいから。宮沢賢治は「おれはひとりの修羅なのだ」って書いてるんですけど、それってすごい孤独じゃないですか。でも本当はそれが普通と言うか、「人間はそもそも孤独が前提なんじゃないか、それを受け入れないと何も始まらないんじゃないか」みたいな。そういうことを考えました。ただ、そこまではっきりとわかるようになったのはアルバムの曲をほとんど作り終わってからで、最初に決めた理由は直感なんですけど。
──そこで見つけたテーマがほかの曲にも通じているんですか?
そうですね。「ロストプラネット」とか「夜を泳いでた」とか「ナインティーン」は、1人になる覚悟がなかったときのことを思い出して歌ってる感じです。これまでは「こうなりたい」とか「こうあるべき」みたいな歌が多かったと思うんですけど、今回は「こうしてほしい」ってすごく言ってるんですよ。「せかいをとりかえしておくれ」とか「鳴らして」っていう曲名もそうだし、「春と修羅」での「光って」という歌詞のフレーズとか。だから、どうして私がそう思うようになったかも、ちゃんと見せていかなきゃいけないと思って。これまではイヤだったんですけど(笑)、ミニアルバムを2枚作って、自分の個人的な経験とか体験を、聴いた人たちが自分のものにしてくれることがわかったので、春ねむりになる前の私がどういう人間で、何が起こってこうなったのかを見せなくちゃ、と。
- 春ねむり(ハルネムリ)
- 神奈川・横浜出身、1995年生まれのポエトリーラッパー。17歳の頃に結成したバンドでシンセサイザーを担当し、21歳で春ねむりとしての活動を始める。その数カ月後にオールナイト野外ロックイベント「BAYCAMP2016」にオープニングアクトとして出演。2016年10月に1stミニアルバム「さよなら、ユースフォビア」を発表した。2017年6月には2枚目のミニアルバム「アトム・ハート・マザー」、9月には後藤まりことの共作シングル「はろー@にゅーわーるど / とりこぼされた街から愛をこめて」をリリース。2017年10月には東京・武蔵野公会堂で初のホールワンマンライブ「ぼくを最終兵器にしたのはきみさ」を成功させた。2018年4月に初のフルアルバム「春と修羅」をリリースする。