ナタリー PowerPush - ハンサムケンヤ
本当にハンサム!? 京都から来た謎の新星
「これなんていうバンドなん?」「THE BEATLESだよ」
──続いて2000年に「ビートルズでバンドに興味を持ち始める」、2002年に「ベースを触ってみる」、2003年に「クラシックギターを触ってみる」と、13~16歳で最初の音楽体験があります。まず、THE BEATLESに興味を持ったのはどういう経緯で?
ケンヤ 中学生くらいになると周りはチャート番組を観はじめたり、MDにヒットシングルを入れて友達と交換したりしてたんですけど、僕はあんまり音楽に興味がなくて。で、両親もさして音楽に詳しくはなかったんですけど、塾の送り迎えの車中でなぜか「THE BEATLES 1」がいつも流れてて、延々聴かされてたんですよ。「塾、嫌だなー」と思ってる行きの車内でも、終わって解放感に浸ってる帰りの車内でも、嫌でも耳に入ってきて。それである日「これなんていうバンドなん?」って訊いたら「THE BEATLESだよ」って教えてくれて、それでTHE BEATLESが好きになったんです。
──それをきっかけとして、2004年には「中学の同級生らとバンドを結成しビートルズのカヴァーでライブ」とありますが、バンドをやろうと言い出したのはケンヤさんから?
ケンヤ いや、流れですかね。とある福祉施設のクリスマスパーティで何か演奏してくれっていう依頼があったので、ギターやドラムができる友達と「やってみるか」って。しかも3人ともTHE BEATLESが好きだったので、当時のJ-POPのコピーじゃなくTHE BEATLESのカバーをすることになりました。
──初めて人前で演奏したときの感触はどうでしたか。
ケンヤ 僕自身はピアノの発表会で毎年ステージに立ってたのでそんなに緊張しなかったけど、何人かで立つのは初めてだったので、客席じゃなくステージ上のメンバーへの意識のほうが大きくて。1人だったら練習で積み重ねたものを人に見せるのみですけど、バンドだと練習以上のものが出たり、本番で全く違う何かが生まれたりしやすいなと思いました。
目立ちたがりだから歌いたかったんです
──また、ここでケンヤさんはベース&ボーカルを担当しています。ボーカルという一番目立つポジションに立ったのはなぜですか?
ケンヤ 自薦か他薦かでいうと自薦ですね。目立ちたがりだから歌いたかったんです。おいしいところを持っていきたかった(笑)。
──なるほど。さらにこの次に組んだバンドでは、ベース&ボーカルからギター&ボーカルに変わっていますが。
ケンヤ 単純にギターが弾けるようになったんですよ。より目立つ楽器を弾けるようになったから、じゃあそっちに移行しよう!って。
──一貫して目立つことに賭けてますね(笑)。そんな中、2005年に「初めて真剣に作った『アヴェスター』という自作曲が熊本の高校生バンドのオムニバスCDの1曲目に収録される」という出来事が。
ケンヤ はい、鮮明に覚えてます。すごくうれしかったです。
──具体的にはどんなことを覚えてますか?
ケンヤ CDが形になったときは、とりあえず眺めて、THE BEATLESのアルバムの横に並べてニヤニヤしたり(笑)、お母さんに「CDになったんだよ!」って渡したりしましたね。でも両親は、音楽の道になんか進ませたくないって猛烈に批判してたんですよ。
──「CDになったんだよ!」と見せても?
ケンヤ 反応悪かったですね。元々バンドでライブすることも反対してたし、部屋で楽器を弾いてることにもすごく批判的だったので。もちろん友達は「すごいなあ!」って喜んでくれたんですけど、一番評価してもらいたい親にはなんでこんなに怒られるんだろう?って疑問で。そこで反骨精神が身についたというか、そんなん言うんやったらもっとやったるわと思ったんです。それが青春真っ盛りの高校生の頃。
ライブじゃ表現できない音をMTRで作れる
──そして高校卒業後、浪人生となった2006年からより深く広い音楽知識を得て曲制作にのめり込んでいったそうですね。
ケンヤ はい。今まではピアノかギター、ベース、ドラムで曲を作ってたんですけど、この浪人生活中にMTRという機材を買ったんです。で、MTRを使ってこれまで作った曲を録音してたんですけど、ここにピアノも入れたら良くなるんじゃないかとか、リコーダーの音色が合いそうとか、途中で新しいことを試すようになっていったんですね。ライブじゃ表現できないような音を自分の家で作れるっていう楽しみが生まれて、ひたすら1人で曲作りをしてました。
──“宅録少年”化して、部屋にどんどん機材が増えていく状況ですね。
ケンヤ そうなんです。当時はバンドも組んでいなくて、録った曲をライブで実践する環境というのもなかったんで、ひたすら録って聴いて録って聴いての自己満足で。
フィクションの歌詞からノンフィクションの歌詞へ
──また、同じ2006年に「ノンフィクションの歌詞を書き始める」とのことですが、ノンフィクションの歌詞とは?
ケンヤ ウソのない歌詞。自分の体験したこと、思ったこと、ささいな日常のことです。それまではファンタジーのような、頭の中で妄想した架空の世界のことを書いてきたので。
──なぜここでフィクションからノンフィクションに変えたんですか?
ケンヤ 夢から覚めたんですかね……。俺が今まで歌ってた曲はなんのメッセージ性もないなと。自分で聴く分には、歌詞に深い意味を込めなくてもいいんですけど、このあたりになると人に聴かせることも多くなってきて、そのとき自分の妄想を聴かせてるだけじゃ恥ずかしいなと思ったんです。それから、人に伝えたい思いというのが徐々に増えてきたこともあって、メッセージ性の強い歌詞を書きたいなと感じ始めました。
──ではこの転機からずっとノンフィクションにこだわって歌詞を書いている?
ケンヤ そうですね。こだわりというか、あんまり夢物語みたいな内容は書けなくなってます。
──実際に感じたことや体験したことを書くということで、普段からメモを取ったりネタをストックしておくことはありますか?
ケンヤ しないです。思い立ったときに机に向かって書く。でも、毎日暮らしてて何かストレスを感じたりするときは自分でもチャンスやと思って、そのときの思いを忘れないようにしてます。あ、それがストックっていうことなら、してるか。
──頭の中にメモしてるということですね。
ハンサムケンヤ
1987年10月30日生まれ。京都在住のシンガーソングライター。2011年に立命館大学を卒業。大学時代のバンド仲間が立ち上げたインディレーベル・古都レコードの第1弾アーティストとして、同年5月に1stミニアルバム「これくらいで歌う」を発表。このうち収録曲「蟲の溜息」「これくらいで歌う」のビデオクリップは椙本晃佑によるアニメーションやCGを取り入れた作品で、動画サイトを中心に話題となる。同年8月、12曲入りの1stフルアルバム「エフコード」をリリース。