ナタリー PowerPush - ハンサムケンヤ
本当にハンサム!? 京都から来た謎の新星
就職活動して、内定もらって、卒業して、入社の直前で蹴った
──2009年は、バンドで自主制作したCD2枚「戦前生まれのエンジン」「これくらいで歌う」をリリースします。このあたりでそろそろプロ志向というか、音楽で食べていこうという意識が固まりつつあったのでしょうか。
ケンヤ いや、全くなかったですね。普通に就職して会社員になることしか考えてなくて、音楽は趣味というか自己表現としてやっていくつもりでした。
──でもこれまでの音楽活動でファンもついていたでしょうし、就職するのはもったいないという意見もありませんでしたか?
ケンヤ 確かに毎回ライブに来てくれる人は徐々に増えていたけど、自分自身は自分の曲にあんまり自信がなかったというか。それはさっき話した親のことも関係してるんですけど、高校生で最初にCD出したときから一切僕の曲を聴いてくれなかったり、応援してくれなかったり、ずっと受け入れられていないという思いが強くて。だから普通に就職活動して、内定もらって、卒業して。そしていざ入社っていう直前のタイミングで、彼(新井)がレーベルを作ってデビューしようって言うもんですから、僕も会社員の道を蹴ってこっちに……。
──すごくドラマチックですね! ではここで新井さんにもお話を伺いたいと思います。元々2人は同じバンドを組んでいたんですよね。そのバンドが解散して、新井さんは「古都レコード」を立ち上げて、ケンヤさんにデビューしようと声をかけた。その行動を起こしたのはどうしてですか?
新井 ズバリ彼が日本の音楽を変えると思ったからです。
──それは、バンド仲間として活動している間にケンヤさんの魅力に惹かれたということ?
新井 そうですね。
──新井さんの考えるケンヤさんの魅力とはどんなところか教えてください。
新井 彼の音楽には、人を動かす力があると思うんです。僕の大好きな吉田拓郎さんの音楽とかもそうなんですけど、そういう音楽って聴くだけじゃなくて、聴いたあとに「この曲ってどういう意味なんだろう」とか「この人はどういう人生を歩んできたんだろう」「じゃあ自分はこれからどうしよう」って考えさせられるんですよね。それが今の日本には少ないなと感じていて。でも彼の曲を聴いたときは考えるんですよ。なので、出そうと思ったんですよね、日本の音楽界に。出さなきゃいけないんじゃないかっていうほどの変な使命感を勝手に感じて。
──新井さんにやろうよと言われたときはいかがでしたか?
ケンヤ やろうと思いました。やろうと思いましたけど、でも就職するよって思ってたんです。仕事しながらそっちにも顔出すっていう二足のわらじでいこうと思ってたんですけど、彼がポンポンといろんな商談を進めていってたので(笑)、僕も腹を決めなきゃと思って。
──入社直前に就職を蹴ったということは二足のわらじが一足になるわけで、人生最大の分岐点とも言えるんですが、こうなると気になるのはご両親のことですよね。
ケンヤ 就職を辞めたとき、両親には「こうなる気がしてたよ、高校生のときから」って言われました。それが原因で仲がこじれたりもしましたけど、絶対音楽1本で食ってくって覚悟決めたら、ついに僕の曲を聴いてくれましたね。「こんな曲書くのか……」って言ってたと姉づたいに聞きました。そんなことがあったりして、だんだん僕自身も自分の音楽に自信を持てるようになったんです。
「エフコード」が合わなかったら、多分一生ハンサムケンヤを聴かない
──ここからは今のハンサムケンヤの音楽について聞かせてください。まず、ケンヤさんが曲作りの中で一番重視してるものは何ですか?
ケンヤ やっぱり歌詞は一番時間をかけてじっくりと作ります。その次にメロディですね。
──その歌詞の面で、こだわりや自分なりのルールがあれば教えてください。
ケンヤ 本音で書くことですかね。自分の本当の気持ちだったり、他人には言えないことだったり、人の心に直接訴えかけるにはそういうのが大事かなと。
──確かに新作「エフコード」のどの曲にも嘘や偽善は書かれていないと感じました。さらにサウンドもキャッチーだし、メロディもしっかり耳に残るし、2011年の音楽シーンにハンサムケンヤの音楽を投下してどんな反応があるのか楽しみです。
ケンヤ うーん……どのくらい受け入れてくれるかはわからないけど、いい意味で、今あるいろんな音楽と横並びにして比べてほしくないですね。1曲1曲と対話するつもりで聴いてほしいし、そのときだけは僕の音楽が聴く人の心を独占できたらいいなって思います。
──○○系みたいに括られたくはないと。
ケンヤ はい、まさにそうです。
──では、ナタリー読者の皆さんに向けて締めのメッセージをお願いします。
ケンヤ 8月24日に僕の集大成……っていったらもう終わるみたいですけど(笑)、フルアルバムが出ます。ぜひ聴いてほしいです。タイトルが「エフコード」っていうんですけど、ギターのFコードって最難関じゃないですか。Fコードが弾けたらギター続けていけるし、弾けなかったらそこで挫折すると言われてるぐらい。それと同じように「エフコード」も、聴いてみて合わなかったら、多分もう一生ハンサムケンヤを聴かないだろうし、このアルバムいいなって思っていただけたら、今後もハンサムケンヤにのめり込んでもらえるような、ハンサムケンヤの色がかなり強く出ている作品だと思います。
──「ハンサムケンヤ」という名前に釣られて興味本位で聴いた人も虜になる出来栄えですか?
ケンヤ はい! 最初「ハンサムケンヤ」についていろいろわかりづらい説明をしたんですけど(笑)、自分で言うのもアレですが、とにかく覚えやすい名前ですので。「変な名前。曲聴いたろか」っていうふうに人の心を掴むことができたら、この名前は成功かな。
新井 ついでにネットで検索してみて「あんまハンサムじゃないじゃん」って思ってもらった瞬間に僕たちの勝ちですね。そこまで調べてもらえたということで。
ケンヤ 「何こいつ」ってちょっと上から見られてたほうがやりやすいです。
──じゃあツッコんでいいんですね?
新井 ツッコミ待ちです。
ハンサムケンヤ
1987年10月30日生まれ。京都在住のシンガーソングライター。2011年に立命館大学を卒業。大学時代のバンド仲間が立ち上げたインディレーベル・古都レコードの第1弾アーティストとして、同年5月に1stミニアルバム「これくらいで歌う」を発表。このうち収録曲「蟲の溜息」「これくらいで歌う」のビデオクリップは椙本晃佑によるアニメーションやCGを取り入れた作品で、動画サイトを中心に話題となる。同年8月、12曲入りの1stフルアルバム「エフコード」をリリース。