花澤香菜インタビュー|ジム通い、忍者修行……意外な成果が現れた新曲「やれんの?エンドレス」 (2/2)

忍者修行が役立ったMV撮影

──そのMVのお話も聞かせてください。花澤さんが忍者役、殺し屋役、花澤香菜役の3役を演じるという、楽しい映像に仕上がっていますね。

本当に「にんころ」という作品がなかったら生まれなかったような映像になりましたね。今回「人生、役に立たないことってないんだな」と改めて思ったんですけど、この撮影以前にさとこ役の三川華月ちゃんと2人で忍者カフェに行ったんですよ。忍者がおもてなししてくれるカフェではなくて、忍者の修行ができるところなんですけど。

──水の上を歩いたり?

いやいや、そんなの1日で絶対できるようにならないじゃないですか(笑)。手裏剣の投げ方とか吹き矢の吹き方、殺陣なんかを語尾に「ござる」のつく人がワンオペで教えてくれるところで。めっちゃ楽しくて、しかもそのときの修行がMV撮影で役に立ったんですよ! 普通、手裏剣って両手の平を横に擦り合わせて飛ばすイメージですよね。でも本格的なやり方はそうじゃなくて、左手を標的のほうに突き出して狙いを定めて、右手で上から投げるんです。

──なるほど、野球のピッチャーと一緒ですね。

え、ピッチャーがグラブを前に突き出すのって狙いを定めるためだったんですか? 「やってやんぞ!」っていうやつかと思ってました。

──「やってやんぞ」もあると思います。

そうなんだ(笑)。じゃあそれと同じです。そこで習ったことがMVでの演技に生かせたので、行っといてよかったなあと思いました。

花澤香菜
花澤香菜

──殺し屋役のほうはどうですか?

殺し屋のほうは、銃の持ち方がまったくわからなかったので苦戦しました。でも、なぜか衣装さんが銃器の扱いにお詳しかったんですよ(笑)。「こうだよ」ってカッコいい持ち方を教えてくださったので、なんとか乗り越えられて。ただ、それもちょっと悔しかったので、どうせならと思って撮影後にシューティング場へ行って基礎から教わってきました。

──あとから(笑)。

あとから(笑)。もちろんモデルガンですけど、銃ってけっこう重たいんですね。よく映画とかでカッコいいアクションをしながら片手で撃つようなシーンを見ますけど、ホントにあんなことできるのかな?って思いました(笑)。撃った反動でまず吹っ飛んじゃう。

──その経験も今後に生きるかもしれませんね。

そうですね。アニメの世界では殺し屋のキャラクターってわりとポピュラーなので、ちゃんと銃の重みを想像しながら演じられるようになると思います。

今までのファンを安心させるカップリング曲

──カップリング曲の「クレマティスをあなたに」は、作詞が宮川弾さん、作編曲が北川勝利さんという花澤楽曲ではおなじみの布陣で書き下ろされた1曲です。

表題曲の「やれんの?エンドレス」がちょっと味濃いめというか(笑)、今まで私の音楽活動をずっと追ってきてくれた人たちからすると、もしかしたら「こういう曲調で来たんだ?」と構えちゃう曲かもしれないなって。そういう人たちをリラックスさせられる曲ですね。

──確かに、初期のアルバムに入っていても違和感なさそうな感じがします。

北川さんとは「“ツアーを回ってきての今の私”みたいな曲が欲しいよね」という話をしていて、「たぶんそういう曲はライブの最後に歌って締まるようなものになるんじゃないか」ということで、これを作ってくださいました。お客さんがさわやかに会場をあとにしてもらえるような感じをイメージした、とおっしゃっていましたね。

──言葉の意味そのものよりもイメージを重視した歌詞という点では、「やれんの?エンドレス」と共通しますよね。それ以外が全部違いますけど。

確かに(笑)。歌い方とか全然違うしなあ。

花澤香菜

──“言葉の外側にあるものを表現する”というところでは、どんなことを意識していますか?

やっぱり、情景を思い浮かべていますね。「クレマティス」で言うと、ライブに来てくれたみんなを見ながら感謝を込めて「また会おうね」と歌っている感じ。歌詞だけを読むと「失恋しちゃったのかな?」とか、いろんなふうに捉えられると思うんですけど、私的には「いろいろあるけど、また会えるよね」という気持ちで歌っています。

──これは僕の勝手なイメージですが、宮川さんの歌詞には“ストーリーのハッキリしない美しい映画のセリフ”が連なっているような印象をいつも受けるんです。

あー、わかるー! なんかそうなんですよね。以前、宮川さんに書いていただいた文章の朗読でつなげたライブがあったんですけど(参照:朗読にアルバムの新曲初披露!花澤香菜、単独ライブで声優アーティストの本領発揮)、あれもそれこそ映画のワンシーンみたいなものの組み合わせでできていて。

──なので、登場人物の気持ちになって歌う感じに近いのかな?と想像するんですが。

そうかも。とはいえ、ちゃんと自分という人はそこにいるんですけど……登場人物を演じるというよりは、自分自身がその物語の中で言葉を発しているイメージに近いのかもしれないです。情景を想像で補いながら歌っている感じですね。

花澤香菜

──なるほど。あと気になったのが、単純に尺が長いですよね。6分近くあって、近年の音楽シーンではなかなか珍しいサイズになっています。

今は短い曲が多いから、よくアーティストの皆さんが「ライブのセットリストを組んでみたら全部ボーカル始まりだった」とか「間奏が全然なくて休むところがない」とか言いますもんね。北川さんはやっぱりライブを基準に考えてくださっているので、表題曲では現代のマナーにある程度合わせつつ、カップリングはライブで機能することを優先しているんだと思います。

──だいぶ両極端なシングルになりましたよね。説明の難しい1枚というか。

そうですね、どう説明しましょう(笑)。作品と一緒に「やれんの?エンドレス」のインパクトを気に入ってくださった方が「クレマティス」を聴くことで、普段の私も知っていただけるシングルになっていると思います。挑戦的な曲と安心できる曲、セットで楽しんでいただけたらうれしいです。

──月並みな表現ですけど、僕はカレーライスみたいなシングルだなと思いました。

出た、カレーライス! 刺激的なカレーと安心できるライスが同じお皿に乗っているということですよね。そう書いておいてください(笑)。

ほぼコケてます

──今後の話としては、ひとまずビルボードツアー(9月から10月にかけて行われる「HANAZAWA KANA Billboard Live 2025」)への意気込みを伺っておきたいです。

私はビルボードが大好きで、またやれたらいいなと思っていたんです。去年大きなツアーがあったので、今年は大規模なライブはお休みしようかなというタイミングではあるんですけど、それでもライブ活動は続けたい思いがありまして。なので、ビルボードのようなリラックスして聴いてもらえる空間はちょうどいいんじゃないかと。横浜、大阪、東京と回るんですけど、横浜のビルボードは初めてなので楽しみです。

──ビルボードで「やれんの?エンドレス」は歌うんですか?

やりたいですねー。

──会場の雰囲気に若干そぐわない予感もしますが(笑)。

確かに(笑)。でも、きっと北川さんがアコースティック編成で「やれんの?エンドレス」をどうやるのか考えてくださると思うので。

花澤香菜
花澤香菜

──ハードバップ系のジャズアレンジなども合いそうですしね。

そう思います。例えば「星空☆ディスティネーション」もアコースティックライブではボサノバアレンジが定番になっていたりしますし、ライブならではのいろんなアレンジを楽しんでもらえる場になればいいなと。ただ……なんか私、ビルボードライブではいつもコケちゃうんですよね(笑)。ステージの奥行きがそこまでない中で足元にケーブルがたくさん這ってるから、ちょっと動き回ると何かに当たっちゃうんです。お客さんの顔を見ながらほにゃほにゃ歌ってたら足元がおぼつかなくなって、ビルボードではほぼコケてます。

──ほぼ(笑)。

大阪の会場ではコケた先でそのままふて寝できるようなソファが置いてあったんですけど、横浜にはソファあるのかな?とか……まあコケないのが一番いいんですけど。

──そこまで定番化しているとなると、楽しみにしているお客さんもいそうですけど。

でも、求められてやり始めたらもうダメですよね。

──確かに(笑)。

なので気を付けながらやろうと思います。あとはライブで言うと、「かなめぐり」の浜松公演(7月5日に静岡・LiveHouse 浜松 窓枠で行われる「帰ってきたかなめぐり in 浜松」)というのが決まっていまして。ソニー時代にやっていたアコースティックライブシリーズなんですけど、コロナ禍で中断しちゃってたんですね。今年はライブが少なめになるということで「1本でもいいからやれたらいいね」と話していたら、ちょうど浜松の会場が押さえられて。ライブで行ったことのない街ですし、これもすごく楽しみです。

花澤香菜

──それは静岡のファンもたいそう喜んでいるでしょうね。

あとは、「やついフェス」(6月に東京・渋谷で行われる、エレキコミックやついいちろう主催のサーキットイベント「YATSUI FESTIVAL! 2025」)! 初めてお声がけいただいて出演させてもらうんですけど、音楽ライブとお笑いライブが融合したサーキットイベントということで、私的にはめちゃくちゃ好みのフェスなんです。バンドセットで参加できるということだったので、北川さんたちと一緒に参戦します。これもやっぱり今年はライブが少なめになるから、新鮮な場所にも飛び込んでみようかしらと。

──「やついフェスに花澤香菜」という字面だけだとけっこう意外性がありますけど、音楽的にはまったく違和感ないですね。

「なぜここに花澤香菜が?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ラインナップを見てみると親和性はあるかなあと。NONA REEVESさんとか、私の好きな人たちもいっぱい出てらっしゃるので。

──花澤さんはだいぶキャリアも長くなってきて、言葉は悪いですけど惰性で走り始めてもおかしくない位置まで来ていると思うんです。でも全然アグレッシブなままですよね。

惰性で(笑)。そうですね。やりたいことは常に湧いてくるし、ちょっと緊張する場所にも出て行って刺激をもらいたい気持ちもあるんです。最近はテレビのバラエティなどに出させてもらうことも増えて、いろんな人に知ってもらえる機会をいただけるのは本当にありがたいことだなって。

花澤香菜

──その「やりたいことは常に湧いてくる」というのがまず素晴らしいです。

できるかできないかは置いといて、ですけどね(笑)。とにかく楽しいことがしたいです。

──そうやってエンジンがずっと動いている感じが伝わるから、ファンの方も安心して応援し続けられるんだろうなと。

「いったいどこへ行くつもりなんだ?」と思われてるかもしれないけど(笑)。

──たぶんですけど、「思いもよらぬところへ連れて行ってほしい」というファンが多そうな気がします。

そうなんですかね。だったらうれしいなあ。

公演情報

花澤香菜「HANAZAWA KANA Billboard Live 2025」

  • 2025年9月27日(土)神奈川県 ビルボードライブ横浜
    [1st STAGE]OPEN 15:00 / START 16:00
    [2nd STAGE]OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2025年10月19日(日)大阪府 ビルボードライブ大阪
    [1st STAGE]OPEN 14:00 / START 15:00
    [2nd STAGE]OPEN 17:00 / START 18:00
  • 2025年10月26日(日)東京都 ビルボードライブ東京
    [1st STAGE]OPEN 14:00 / START 15:00
    [2nd STAGE]OPEN 17:00 / START 18:00

プロフィール

花澤香菜(ハナザワカナ)

1989年2月25日生まれ、東京都出身の声優。2006年放送の「ゼーガペイン」で初のヒロインとなるカミナギ・リョーコ役を演じ、2007年には「月面兎兵器ミーナ」「スケッチブック ~full color's~」「ぽてまよ」といった作品で次々と主要キャラクター役に抜擢された。その後も「こばと。」「化物語」「海月姫」などの人気アニメでヒロインを演じるかたわら、多数の作品でキャラクターソングを歌い、2011年放送の「ロウきゅーぶ!」では声優ユニット「RO-KYU-BU!」のメンバーとしても活躍。2012年4月にはシングル「星空☆ディスティネーション」でソロデビューを果たした。2013年2月には1stフルアルバム「claire」を発表し、同年3月には大阪・NHK大阪ホール、東京・渋谷公会堂にて初のワンマンライブを行い、いずれも大成功に収める。2021年7月にポニーキャニオンへの移籍を発表し、2022年2月には約3年ぶりとなるアルバム「blossom」を発表した。最新シングルは2025年5月発売の「やれんの?エンドレス」。