中国での人気をどう受け止めている?
──5曲目の「GSSP」は大河内航太さんの提供曲で、タイトルはどんな意味なんだろう?と思ったら……歌詞も含め、遊びの多い曲ですね。
デモの時点で歌詞がかわいくて、曲調もすごくクセになるなと思いました。大河内さんとは前にキャラソンでご一緒させていただいて、そのときも素敵な曲を書いてくださったんです。それにご本人が陽気なお兄さんなので、レコーディングも楽しかった。
──ボーカルの処理が気持ちいいですね。ノンエコーの花澤ボイスはASMRとして素晴らしいと思います。
(笑)。これは本当にヘッドフォンで聴いてほしいです。
──次は沖井礼二さんの提供曲「Miss You」ですが、ブリティッシュロック的な、いわゆる“沖井節”とは違う印象を受けました。
そうそう。でもDメロを歌うと「沖井さんだ!」と感じるところもあって。なんて言ったらいいんでしょう。少しミュージカルっぽいというか。
──睡眠がテーマの「GSSP」に続いて、「Miss You」には「目が覚めても夢の中に一人」というフレーズが出てきますね。
確かに!
──示し合わせたわけではない?
基本的にはそれぞれの作家さんにお任せしているので、全然合わせてないんです。
──そして7曲目の「LOVE IS WONDER」は四つ打ちをベースにジャズなどの要素も入った、これまでの花澤さんのディスコグラフィにありそうでなかっためまぐるしい展開の曲ですね。
そうですね。ジャジーな曲はこれまでにもあったけど、こんなにダバダバ言ってる曲はなかったです。作曲のケンカイヨシさんは今回初めてご一緒したんですけど、とても不思議な人でした。すごく緊張していて「遅刻したらヤバいから」とスタジオの近くのサウナに泊まったみたいなんですけど、それなのに遅刻するという(笑)。
──(笑)。作詞の岩里祐穂さんも花澤さんの活動をデビューから支えてきた1人ですが、この曲を作るにあたって何かお話ししましたか?
岩里さんとは個人的にもお会いする仲で、私の近況も知ってくれていて。今回は私から岩里さんに歌詞を書いてほしいとお願いしたんですけど、やっぱり言葉のチョイスが独特でいいなと思いました。ウキウキする曲だし、アルバムのポップさを引き上げてるなって。
──「港の見える丘」は、シングル「Moonlight Magic」のカップリング曲で、移籍第1弾のタイミングで中国語バージョンもリリースされました。中国での認知度が上がったこともこの10年の大きなトピックの1つですが、実際、中国での人気は花澤さん自身どう受け止めているんですか?
私の感覚としては、日本で応援してくれている人たちとあまり変わらないですね。住んでいる場所が違うだけというか。こちらから頻繁に行けるわけじゃないから、中国にいながら楽しんでもらえるようなコンテンツを準備できたらいいなと思っています。向こうに行かなくてもお手紙をいただいたり、こちらから何か配信したときにリアクションを返してくれたり、ずっと応援していただいているので。実は今、「GSSP」の中国語版を作っているんですよ。原曲の聴き心地は残しつつ面白い仕上がりになっているので、リリースを楽しみにしておいてほしいです。今は実際に現地まで会いに行くのが難しいので、何かしらでつながっていられたらいいな。
ガチガチに韻を踏む曲が欲しい
──9曲目「息吹 イン ザ ウィンド」は2分48秒とアルバムの中では最短の曲ですけど、ゲートリバーブの効いたカッチカチな80'sサウンドに「笑いすぎてファミレス めくるめく本質」みたいな印象的なパンチラインがたくさん盛り込まれていて、小出祐介さん(Base Ball Bear)の気合いを感じます。
以前、番組で小出さんが作ったキャラソンを歌う機会があって、そのときにちょっとラップに挑戦したんですよ。それで今回の打ち合わせで小出さんに「ラップをもっと歌いたいです」とお話して。
──ラップは花澤さんからのリクエストだったんですね。
はい。私は帰り道にRHYMESTERの曲を聴きながら歌ったりするんですけど、自分の曲でガチガチに韻を踏む曲が欲しいなと思って(笑)。でも実際に歌ってみるとカッコよくラップするのは難しくて……私の声だとイキッた小学生みたいになっちゃうんですよ(笑)。だからウィスパーを入れたりして、小出さんにアドバイスをもらいながら何十テイクもレコーディングしました。すごく楽しかったです。
──ラップはこれからもやっていきたい?
やっていきたい! ラップ、たぶん全然望まれてないけどやっていきたいです(笑)。
10年間の積み重ねが開花して
──「草原と宇宙」の作編曲は、こちらもお馴染みクラムボンのミトさんです。ミトさんはいつもアルバムの中で絶妙にほかとは違うパーツを持って来る人、という印象があります。
今までとも全然違いますよね。こんなにカントリーな感じになるとは思ってなかったです。ミトさんとも定期的にお会いしてるので、レコーディングも勝手知ったる感じでした。これもまた歌詞がいいんだよなあ。
──これも作詞は岩里さんですね。
私、ジェーン・スーさんと堀井美香さんがやっているPodcast番組「OVER THE SUN」が好きで、その番組の影響で今ヒヤシンスを育てているんですよ。「それぞれの場所でそれぞれの花を咲かせましょう」という素敵な企画で、それが歌詞とリンクしてエモく感じたんです、と岩里さんにお伝えしました。突然ヒヤシンスの話をしちゃったので、岩里さんからしたらなんのこっちゃという感じで困ったと思うんですけどね(笑)。
──「SHINOBI-NAI」は提供者である雫さんがセルフカバーしたりしていて、お互いのファンも含めた相乗効果が生まれていますね。
雫さんとはあれからもちょくちょくやり取りさせてもらっていて。新たなお友達というか、支えてくれる人が現れたというか。またご一緒できたらいいなって思いますね。
まだいい曲いっぱい作ってるんですけど!
──そしてアルバムを締めくくるのは、宮川弾さん提供の「青い夜だけの」です。宮川さんも花澤作品に独特な色を与え続けているキーマンですね。今回の曲は不思議な余韻を残すエンドロール的な雰囲気があります。
「ブルーベリーナイト」(宮川の提供曲。2015年3月発表の3rdアルバム「Blue Avenue」に収録)的なかわいい曲かなと思っていたら、こんなにしっとりとした曲が来て少し意外でした(笑)。宮川さんの詞も大好きなんだよなあ。私の年齢に絶妙に合わせてくれているのかなとも思いました。現実味のある心の中の言葉みたいなものがちりばめられていて、飾らずに歌えるんですよ。
──アルバムは「青い夜だけの」で穏やかに終わっていくんですけど……。
……はい、もうちょっと歌った気がします(笑)。最後の最後まで聴いてもらえたら。
──(笑)。ちなみにアルバムタイトルの「blossom」はどういうイメージで付けたんですか?
「星空☆ディスティネーション」からの10年間で積み重ねてきたことがたくさんある中で、私はこれからも成長していきたいという意味と、植物の開花を重ねて「blossom」と名付けました。
──なるほど。その「blossom」が完成した今のお気持ちはどうですか?
すごくいいアルバムができたなと思います。この10年間のどこかで私の音楽を聴かなくなったという人がいたら、「まだいい曲いっぱい作ってるんですけど!」「聴いてください!」とお伝えしたい(笑)。あとはまだまだ世の中的に自由に動ける環境じゃないし、気分の上がらない日もあると思うので、そういうときにコンパクトに前向きな曲がたくさん詰まったこのアルバムを聴いてほしいですね。
──春には兵庫と東京でワンマンライブ「HANAZAWA KANA Live 2022 "blossom"」の開催を控えていますが、どんなステージにしたいですか?
アルバム収録曲をリハーサルで歌ったりしているんですけど、やっぱりいい曲ぞろいだし、ライブ映えする曲が多いですね。みんなの前で大きいステージに立つのはひさしぶりなので、期待しておいてほしいです。「You Can Make Me Dance」みたいに踊れる曲が多めなので、声を出さなくても楽しめると思います(笑)。
ライブ情報
HANAZAWA KANA Live 2022 "blossom"
- 2022年4月10日(日)兵庫県 神戸国際会館こくさいホール
- 2022年5月7日(土)東京都 なかのZERO 大ホール
プロフィール
花澤香菜(ハナザワカナ)
1989年2月25日生まれ、東京都出身の声優。2006年放送の「ゼーガペイン」で初のヒロインとなるカミナギ・リョーコ役を演じ、2007年には「月面兎兵器ミーナ」「スケッチブック ~full color's~」「ぽてまよ」といった作品で次々と主要キャラクター役に抜擢された。その後も「こばと。」「化物語」「海月姫」などの人気アニメでヒロインを演じるかたわら、多数の作品でキャラクターソングを歌い、2011年放送の「ロウきゅーぶ!」では声優ユニット「RO-KYU-BU!」のメンバーとしても活躍。2012年4月にはシングル「星空☆ディスティネーション」でソロデビューを果たした。2013年2月には1stフルアルバム「claire」を発表し、同年3月には大阪・NHK大阪ホール、東京・渋谷公会堂にて初のワンマンライブを行い、いずれも大成功に収めた。2021年7月にポニーキャニオンへの移籍を発表し、2022年2月には約3年ぶりとなるアルバム「blossom」をリリースした。
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