花澤香菜「blossom」インタビュー|ソロデビューから10年、“再出発”をテーマに掲げたニューアルバム完成

花澤香菜が2月23日に約3年ぶりとなるニューアルバム「blossom」をリリースした。

2012年4月にシングル「星空☆ディスティネーション」でソロデビューを果たした花澤。彼女は声優業と並行しながら積極的に音楽活動を続け、2021年9月にはポニーキャニオンへのレーベル移籍第1弾シングル「Moonlight Magic」をリリースした。そんな花澤の最新アルバム「blossom」は、“再出発”をテーマに掲げた1枚。デビュー時より彼女の作品のサウンドプロデュースを努めてきた北川勝利(ROUND TABLE)をはじめ、岩里祐穂、大河内航太、沖井礼二(TWEEDEES)、ケンカイヨシ、小出祐介(Base Ball Bear)、雫(ポルカドットスティングレイ)、ミト(クラムボン)、宮川弾、矢野博康といった作家陣が参加している。

音楽ナタリーでは、花澤にソロデビューからの10年間を振り返ってもらいつつ、「blossom」の制作秘話、各楽曲の魅力について語ってもらった。

取材 / 臼杵成晃文 / 下原研二撮影 / 曽我美芽

「星空☆ディスティネーション」から10年

──1stシングル「星空☆ディスティネーション」のリリースからもうすぐ10年が経つんですね。10年前、「音楽活動を本格的にやろう」と言われたときはどんな気持ちだったんですか?

子役時代から人前で歌うことが好きだったのでうれしかったです。声優の仕事を始めてからは、キャラソンを歌う機会もいただいて。

──もともとやりたいことだったんですね。

そうですね。だから10年前にお話をいただいたときは「機会があったらやってみたい、やるなら今しかないんじゃないか」と思っていたんですよ。「恋愛サーキュレーション」(2010年にリリースされた、アニメ「化物語」のキャラクターソング)で私の歌声に注目してくれる人が増えて、実際にキャラソンのお仕事も多くなったんです。その中で漠然と自分の名義で音楽をやりたいという思いが強くなっていて。ただ、音楽活動を具体的にどう進めていくか、ライブをどれだけやるかとかはまったく考えていませんでした(笑)。

花澤香菜
花澤香菜

──導かれるままに。

そうそう(笑)。最初の頃は本当に導かれるままというか、どういう曲が自分の声に合っているのかもいまいちわかってなかったんです。邦ロックが好きでよく聴いていましたけど、カラオケで歌うとあんまりしっくりこなくて。

──自分に合う音楽を模索する中で、結果的に多くのチャレンジをしてきましたよね。25歳の誕生日にリリースされた2ndアルバム「25」が25曲入りのCD2枚組だったり、そんな大作の1年後にはもう次のアルバム「Blue Avenue」をリリースしたり……作品ごとに新たな挑戦があって、傍から見ていると無理難題を吹っかけられ続けた10年間という感じもします(笑)。

そうですね(笑)。いろんな挑戦をさせてもらいました。

──挑戦を続けてきたことによる変化もあれば、年齢を重ねたことで自分の中で変わってきた部分もある?

それは音楽を始めて10年経った今、一番思うことかもしれないですね。「星空☆ディスティネーション」の頃は22歳くらいで声優のお仕事も忙しかったから、あまり気持ちに余裕がなかったんですけど、今はゆとりを持って音楽を楽しめているのかも。それに結婚したことで「家に帰ったらいつでも自分の味方をしてくれる人がいるんだな」と思えるようになったんです(笑)。「私は大丈夫」と思えることが増えたというか。

──なるほど。今まで以上に楽しめている、というのはなんとなく伝わってきます。これまでが楽しそうじゃなかったというわけではなくて、今はいろんな局面を100%の状態で楽しんでいるような。

私は本当に不器用だから、できないことが多いとワーッとなってしまっていたんですけど、今は「経験を積み重ねていったらできるようになるんじゃない?」「だったらここを強化したらいいんじゃない?」と客観的に考えられるようになって。それはこの10年間で一番大きい変化ですね。

この聴き心地は初めてかもしれない

──3年ぶりのフルアルバム「blossom」は“再出発”がテーマとなっています。レーベル移籍後初のアルバムということもあり、テーマとしてはぴったりだと思いますが、このテーマは花澤さん自身が決めたんですか?

はい。なのでアルバムの会議をしたときは、新しい人たちに楽曲をお願いするより、これまでお世話になってきた人が再度今の私に向けて書いた曲を歌ってみたいとお伝えしていて。今回こういう形でアルバムを完成させることができてすごくうれしいです。

──全12曲でトータル45分という、これまでの花澤さんの作品と比較するとコンパクトな内容で、ポップかつさらりと楽しめるアルバムという印象を受けました。

カラーの違う楽曲が12曲そろっていて充実した1枚なんですけど、スルッと聴けるというか、すごくすっきりしてますよね。アルバムが完成して全曲を通しで聴いたときに、「この聴き心地は初めてかもしれない」と思いました。ポニーキャニオンに移籍したことで初めて私の曲を聴いてくれる人もいるかもしれないから、そういう人にはぴったりかも。

花澤香菜
花澤香菜

──ここからは収録曲について聞かせてください。冒頭の「ユメノキオク」「Don’t Know Why」は北川勝利(ROUND TABLE)さん、藤村鼓乃美さん、acane_madderさんというお馴染みの布陣で、本作がどういうアルバムなのかを提示するような軽やかな楽曲です。「ユメノキオク」のイントロなしでいきなりボーカルから始まる感じは新鮮ですね。

そう! レコーディングしたときは曲順が決まってなかったので、あとで聴いたときに「この始まりは引き込まれるな」と思いました。「ユメノキオク」は歌詞もすごく好きなんですよ。「夢から醒めた夢の続きはどこにあるの」というフレーズはいろんなシチュエーションに例えられると思うけど、私の場合は「大きな夢が叶ってこの先どうがんばったらいいんだろう?」「もっとステップアップできるんじゃない?」という思いを重ねながら歌いました。

──まさにレーベル移籍第1弾のアルバムにふさわしいですね。

そうそう。自分の状況にすごく重なるなと思って。

──「Don’t Know Why」に関してはミュージックビデオも作られています。アルバムのリード曲的な立ち位置になるのでしょうか。

はい。この曲は最初のポポポンという音にびっくりしました(笑)。

──シンセドラムですよね。確かにここまで80’s感の強いシンセドラムの音は今までの曲にはなかったですね。

恋愛中の乙女の頭の中を描いたような歌詞もへんてこだし(笑)。少しごちゃっとしたかわいい感じが聴けば聴くほどクセになるというか。

──そしてMVではミラーボールを被った人たちが踊ってるという。

私もMVがああなるとは思っていませんでした(笑)。でも前向きなメッセージが込められた楽曲と、へんてこなMVが意外に合っているなと思いました。

デビュー当時の私じゃできなかった表現も

──3曲目「You Can Make Me Dance」は、こちらも花澤さん作品ではお馴染みの矢野博康さんの提供曲です。タイトルの通りめちゃめちゃ踊れるし、「何かが始まりそうな予感がする」という冒頭の歌詞にぴったりなイントロにワクワクしますね。

本当にそう! レコーディングのときから「これは盛り上がるぞ」と思ってました。北川さんが「ライブで踊れる曲」というオーダーをしたらしく、ライブで人気の高い「We Are So in Love」(矢野の提供曲。2015年3月発表の3rdアルバム「Blue Avenue」に収録)の対抗馬になるような曲だなと思いました。

──4曲目「Moonlight Magic」は、昨年7月レーベル移籍第1弾シングルとしてリリースされました。ファンが求める花澤香菜像が凝縮されているような、“ニーズオブファン”とでも言うべき1曲だなと思いました。

北川さん作曲ということで懐かしさを感じる方もいると思うんですけど、デビュー当時の私じゃできなかった表現も入っているので、ちゃんと新しさのある曲としても聴いてもらえるかなと思います。レコーディング中は「やっぱり北川さんが作る曲は馴染むなあ」と思いながら歌いました。そのあと最終版のアレンジを聴いたときは、音のキラキラ加減がすごくて「北川さんどうしちゃったの!!」と連絡した記憶があります(笑)。

──花澤さんはこの曲で作詞を担当していますが、作詞家としても年月を経てスキルアップしているんじゃないでしょうか。前回のインタビューでは、ポルカドットスティングレイの雫さんが“作詞家・花澤香菜”を絶賛していました(参照:花澤香菜×雫「SHINOBI-NAI」インタビュー)。

作詞については挑戦しなきゃと常々思っているので、レーベル移籍のタイミングでやれたのはよかったです。ただ、私は歌詞を書くとどうしても内向きな内容になってしまうので、そこは気を付けつつ、カタカナ英語を多用して言葉選びも明るくかわいいイメージで書きました。

──ともすれば内向きになってしまう、そこは1stアルバムの頃から変わらない部分なんですね(笑)。

はい(笑)。明るい曲の場合は私の中の幸せ成分みたいな要素を取り入れているので、無理して書いているという感覚はないんですけどね。