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2013年のアンセム完成 フロントマン辻村有記が舞台裏解説

「masquerade」は2013年のアンセム

──歌詞の面で変化はありましたか?

歌詞に関しては、“沈んでいく”みたいなテーマが多かったんですよ、これも。前回のインタビューで話させてもらったんですけど、“世の中との相互依存で自分ができてる”という感覚があって、それは今も続いてるんです。

──前回のインタビューでは「フォークボールみたいにいきなり落ち込むことがある」って言ってましたよね(笑)。

でも、その取材のときに「暗いことを歌ってるけど、どこかで希望を見てますよね」って言ってもらって。あのとき「あっ!」って思ったんですよね。それは自分でも発見できなかったことだったというか……。「masquerade」の歌詞にも、“沈んでいきそうな状況に対して抗う”という部分が出てるんですよね。どこかで希望のある未来を望んでいるし、“そこに向かって、みんなで一緒に行こうぜ”っていう気持ちもあって。そのことも改めて確認できたんですよね。

──「masquerade」という言葉には“自分を偽る”というイメージもありますね。

仮面舞踏会ですからね。自分を偽るとか、虚構とか……。歌詞の中で“溺れていく”というワードを使ってるんですけど、人が何かに対して溺れていく様子って、すごく怖かったり、滑稽な部分もあったりすると思うんですよ。実際に自分の近くにいる人が“溺れていく”瞬間を見てしまったんですよね、実は。周りの人がいくら「騙されてる」とか「そっちに行っちゃダメ」と言っても、当人は全然わからず、そのままのめり込んでいってしまって。それがすごくイヤだなって思ったんですけど、よく考えてみると、自分の24、5年の人生の中にもそういう瞬間があったなと思って。何かに溺れていって、何も見えなくなって、最後は息もできない状態になって……。そのことに気付いたとき、「これは曲にしたい」と思ったんです。それがさっき言った溺れている状況に抗い、叫ぶっていうことですよね。ちょうどライブに来るお客さんとひとつになりたいというタイミングでもあったし。

──何かに溺れる経験は多くの人が持ってるだろうし、実は共感しやすいテーマなのかも。

今まで「一緒に歌う」みたいなことを意識したことはなかったんだけど、お客さんとの距離が近付くにつれて、そこにある気持ち良さも知ってしまったので。何も考えずに楽しめる場所って、案外少ないじゃないですか。ライブってそのひとつだと思うんですよね。「masquerade」も既にライブでやってるんですけど、すごく反応がいいんですよね。この曲は2013年のアンセムになると思ってます。

「vanitas」はアート的な作品

──2曲目の「vanitas」がアートフォームとして非常に優れていると思いました。非常にデザイン性が高い楽曲ですよね。

「masquerade」PVのワンシーン。

「vanitas」は(昨年リリースした)アルバムの制作時からあって、すごく力を入れて作ってたんですよ。サビのパートで普段とは違うコード進行を試してみて、それがすごく気持ち良くて……。その結果、キーチェンジがすごく増えちゃったんですけど、とにかくインパクトがあったし、メロディも乗せやすくて。かなりフリーダムな作り方なんだけど、楽器もちゃんとついてきてくれたんですよね。今言ってもらったように、アート的な作品になったと思います。自分もそういう考えで作っていたので。

──アートとして成立する楽曲もHaKUの魅力ですからね。

そういうバンドでありたいと思ってるし、それはずっと変わらないですね。例えばビョークなんて、本当にすごいアーティストだと思うんです。あれこそが音楽だなって。もちろん同じことはできないし、自分たちは自分たちの感性でやるしかないんですけどね。

──なるほど。それにしてもギターの音色がとんでもないことになってますよね、この曲。シンセにしか聞こえない音もたくさん入っていて。

毎回ですけどね、それは(笑)。今回はサオ(ギター、ベース)やアンプもいろいろ試してみたんです。気分も新たにやらせてもらって。今までは自分たちの機材しか使ってなかったから、その変化は大きいですね。違った音色がプラスされるし、聞こえ方もだいぶ変わってるんじゃないかな、と。そういう作業は、すごく楽しいです(笑)。いろんな発見もあったし、いい雰囲気、いいモチベーションの中で音楽に向き合えたし。以前は気分的な浮き沈みもあったから、そこも変わってきましたね。

「光」はHaKUのスタート地点

──そして3曲目にはインディーズ時代の楽曲「光」をリアレンジした「“光”Reincarnation ver.」を収録。ライブのたびに新たなアレンジを加えてきたそうですね。

うん、どんどん変わっていきました。もちろん「オリジナルのアレンジで聴きたい」という人もいると思うんですよ。でもこの曲をリリースしてから4年くらいになるし、当時の自分たちのサウンドと現在のサウンドは全然違いますからね。「光」のポテンシャルをもっと高めることができると思ったら、そこに向かって挑戦するバンドなんですよ、自分たちは。まず歳を取っただけで変わるじゃないですか、いろいろ(笑)。19歳と24歳の考え方は全然違うし、今やれる最大限を提示していけるバンドになりたいので。

──「光」を作ったのは19歳のとき?

そうですね。僕が初めて歌ったのも、初めてライブをやったのもこのバンドなんです。自分の声が人と違っているのは知ってたんですけど、それを認めてくれて、「歌ってみれば?」って言ってくれた人がいて、その言葉をきっかけにして曲を作り始めて。そのスタート地点の楽曲ですね、「光」は。

HaKU(はく)

2007年に大阪で結成された辻村有記(Vo, G)、藤木寛茂(G)、三好春奈(B)、長谷川真也(Dr)からなるロックバンド。関西地区を中心にライブ活動を行い、辻村の独特のハイトーンボイスや、エレクトロサウンドを生音で構築するこだわりが注目を集める。2009年1月に初音源「WHITE LIGHT」を、同年11月にミニアルバム「BREATH IN THE BEAT」をリリースする。その後は着実にリリースを重ねるとともに、ライブも全国展開。2011年2月には東京と大阪で初のワンマンライブを開催する。2012年9月にマレーシアで初の海外ライブを行い、10月にアルバム「Simulated reality」でメジャーデビューを果たした。2013年1月にメジャー1stシングル「masquerade」を発表。