ナタリー PowerPush - HaKU

世界進出を目指すまっさらな才能

生々しい肉体性を感じさせるバンドサウンド、エレクトロやテクノの要素を“生音”で再構築したアレンジ、そして中性的なボーカルから放たれる美しいメロディ。またひとつ、ロックミュージックの可能性の広げるバンドが登場した。大阪出身の4ピースバンドHaKU。1stフルアルバム「Simulated reality」でメジャーデビューを飾る彼らに、これまでの軌跡をたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 ライブ写真撮影 / O-mi

最初はR&Bがやりたかった

──まずこれまでのバンドのキャリアについて教えてください。活動をスタートさせたのは2007年ですよね?

9月15日の新宿LOFT公演の様子。(撮影:O-mi)

長谷川真也(Dr) そうです。4人とも大阪にある同じ専門学校の出身なんですけど、最初は辻村(有記 / Vo, G)と藤木(寛茂 / G)がセッションしていて。そのうち「ドラムがおらんとバンドができへん」って僕が誘われて、そのあと「ベースがおらへん」ってことになって春奈(三好春奈 / B)が入って。

──辻村さんと藤木さんがセッションしていた時期は、どんな音楽をやってたんですか?

藤木 2人で好きなようにギター弾いてただけなんですよ。ワンコード、ツーコードくらいでソロを回したり、有記が適当に歌ったり。

辻村 R&Bっぽいことがやりたかったんですよね。「18、19歳くらいで黒っぽい音楽をやってる自分たちってカッコいい」っていう(笑)。

藤木 R&Bは今もカッコいいと思いますけどね。当時やってたのは、もっと遊び感覚だったんですけど。

長谷川 僕が誘われたときも「俺が適当に歌うから、気持ちいいリズム叩いて」くらいのユルイ感じした。

お客さんを意識したときに“踊ってもらう”発想が生まれた

──三好さんが加入したときは?

三好 「こんなんやってるんやけど」って曲が入ったMDをもらって、「あ、楽しそうやな」って思ったんですよね。学校の授業でもオシャレな音楽を教わってたし、自分でもやってみたいと思ってたので。

──オシャレな音楽というのは、テンションコード使ってたり、ブラックミュージックっぽいリズムだったり?

辻村 そうだと思います。専門学校に入ると、そういう音楽をかじるんですよ。ただ、それをモノにできるかどうかっていうと、難しいところがあって。

──結成当初はどんな音楽をやっていたんですか?

結成当初は歌詞もなかったんですよね。ライブのときも「このステージの上から見える景色をアドリブで歌う」みたいなことをやってたので。

──ヒップホップのフリースタイルみたいに?

9月15日の新宿LOFT公演の様子。(撮影:O-mi)

辻村 そうですね(笑)。生音のヒップホップバンドが好きだったから。THE ROOTSとか、韻シストとか。その影響もあったと思うし。でもバンドとしては一番ダメな感じでしたね。とにかく自分たちが気持ち良くなれることが先で「対お客さん」っていう意識が全くなくて。でも、すぐに「今やってる音楽はダメだな」って思ったんですよ、メンバー全員が。ちょっとかじっただけの音楽をやってて、全く芯を捉えてないなって。で、まずはバンドとお客さんの間にある壁を壊そうと思ったんですよね。そのためには考え方を根本から変えなくちゃいけなかったし、そこから“踊ってもらう”っていう発想が生まれてきて。

サカナクションのライブに衝撃

──2007年というと、ロックバンドがダンスミュージックの要素を積極的に取り入れ始めた時期ですよね。

辻村 はい。でも当時はダンスミュージックをちゃんと聴いているメンバーは誰もいなくて。みんなで他のバンドのライブを観に行くうちに、4つ打ちやエレクトロを聴くようになったんですよね。例えば、サカナクションとか。

長谷川 4人でサカナクションのライブを観に行って、ものすごく衝撃を受けて。

三好 サカナクションがメジャーデビューする前ですね。

辻村 そういうこともあって「こういうサウンド、どうやったらできんのかな?」って自分たちでやり始めたんです。まずは音源を作ったんですよ。ライブでは全くやったことなかったんだけど、4つ打ちの曲を作って、それを自分たちなりに突き詰めていって。

藤木はすごいギタリスト

──HaKUの音楽は、肉体的なバンドサウンドが基軸になってると思うのですが、そこは当初から意識してたんですか?

9月15日の新宿LOFT公演の様子。(撮影:O-mi)

辻村 今は“生にこだわってる”と言えるし、生でしかできないことがあると思ってます。でも、最初は“生にこだわる”ということではなく、誰も打ち込みができないっていう理由が大きかったですね。打ち込みはできないし、シンセもないけど、エレクトロやダンスミュージックの要素は取り入れたい。そうなると一番大変なのは藤木なんですよね。どんどん足下の機材が増えていって……。

──エレクトロ的なサウンドをギターで表現するために、エフェクターが増えていく。

藤木 そうですね(笑)。僕もめっちゃ機械オンチですからね。パソコンすら持ってないし(笑)。でも、エフェクターは好きだし、自分でいじることもできるので。最初の頃はディレイって何?っていう状態だったんですけど、わかっていくにつれて物欲が出てきて、エフェクターの数が増えたんです。今は落ち着いてますけど。

辻村 打ち込みを入れずにエレクトロ的なサウンドを表現できているのは、ギターの力が大きいと思うんですよ。ホント、すごいギタリストです。

藤木 (辻村に向かって親指を上げる)

1stフルアルバム「Simulated reality」 / 2012年10月10日発売 / 2500円 EMI Music Japan TOCT-29069
1stフルアルバム「Simulated reality」
収録曲
  1. 1秒間で君を連れ去りたい
  2. Mr.Scary
  3. novel
  4. アステリズム
  5. unknown justice
  6. carpe diem
  7. navigation
  8. twilight museum
  9. selfish
  10. astray

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HaKU(はく)

HaKU

2007年に大阪で結成された辻村有記(Vo, G)、藤木寛茂(G)、三好春奈(Ba)、長谷川真也(Dr)からなるロックバンド。関西地区を中心にライブ活動を行い、辻村の独特のハイトーンボイスや、エレクトロサウンドを生音で構築するこだわりが注目を集める。2009年1月に初音源「WHITE LIGHT」を、同年11月にミニアルバム「BREATH IN THE BEAT」をリリースする。その後は着実にリリースを重ねるとともに、ライブも全国展開。2011年2月には東京と大阪で初のワンマンライブを開催する。2012年9月にマレーシアで初の海外ライブを行い、10月にアルバム「Simulated reality」でメジャーデビューを果たした。