ミクのライブをもっとパワーアップさせたい

──その8曲の本編とは別に、初回限定盤には「ヒビカセ×Sweet Devil -Special Mashup-」と「Hand in Hand -八王子P Remix-」が収録されていて。これはちょっと珍しい試みだなと思いました。

アルバムとしては8曲で完結しているので純粋にボーナストラック扱いなんですけど。DJとしてライブに出演させていただくときに、最近は新しいリミックスとか自分の曲のライブバージョンのようなものを極力作っていくようにして、自分だけしかかけられない音源を増やそうと心がけているんです。なので、セルフリミックスもマッシュアップも結構ストックがあって、中でも特に人気で反響があった2曲を入れちゃいました（笑）。まさかリリースできるとは思っていなかった、現場でしか使えないと思って作ったものなので、ちゃんと形にできるのはうれしいですね。

──「Hand in Hand -八王子P Remix-」に関しては、「Tell Your World」の一節も聴こえてきたりして、本編では表に出ていない、ミクへの祝福の役割も担っているなぁと。

まさにそうですよね。あれはもう、kzさんへのリスペクトを込めまくった感じで（笑）、間奏のところに今までのkzさんの楽曲からフレーズを引用していて。じっくり聴くとボーカルだけじゃなくオケの部分にもほかの曲のフレーズが入っていたりするんです。「ヒビカセ」のマッシュアップのほうは「ニコニコ超会議」のために作っていった音源なんですけど、マッシュアップって「この曲がくるんだ」っていうところに違う曲が入ってくるから、ある意味みんなの期待を裏切れるし、狙い通りに盛り上がってくれたときは楽しいんです。DJでは1コーラス分しかかけないんですけど、今回はフルコーラス作ったので、そのあたりも楽しんで聴いてもらえたらと思います。

──そういう点でもやはりクラブカルチャーからの影響は大きいわけですね。そういったプレイヤーとしての顔を持ち、同時に楽曲制作者でもある八王子Pさんにはこの先どんな絵が見えていますか。

やりたいことはたくさんありますけど、ボカロのことで言えば、やっぱりミクのライブをもっとパワーアップさせたいなと。今「マジカルミライ」とかでスクリーンに出てくるミク、あれはあれですごいんですけど、そこに甘んじることなく、どんどん新しい技術やライブ演出も出てきているし、もっと面白いことができるだろうと。自分が世界のいろんなところを回らせていただく中でも、ミクやボカロを世界に広めていくためには、インターネット主体の文化だからといって「勝手に見てもらえて人気になるでしょ？」という感覚ではなく、その国々の文化にある程度ローカライズした伝え方が必要だと感じるんですよね。それは自分のDJパフォーマンスも、もっと大きいミクのライブ演出の部分でもそうで、すごくわかりやすい言い方をすれば、誰もやっていないようなショーケースとして面白いものを作りたい。どうすればいいのかはまだわからなくて「これだ」っていう提示はできていないんですけど、そろそろ新しくしていきたいんです。だから今は極力いろんなライブを観たり、新しい技術……最近で言えばVRとかを体験したり、インプットは欠かさないようにしていて。

──なるほど。

ミクがあの透明なスクリーンで歌っている姿って、最初に観たときにみんな感動したと思うんです、本当にその場にいるみたいで。でも今はそれが当たり前になってきちゃっているから、またあのときの驚きを新しい技術や演出で見せていきたいし、作っていきたいですね。

──もはや、演出家とかプロデューサーの視点になりつつありますね。

確かにそうですね……まあ、“P”ですから（笑）。フロントマンとしての観点もありますけど、「自分が前に出るぜ」っていうよりもミクをどういうふうによりよく伝えるか？という視点で総合的に考えるのが楽しいんです。そもそもミクというフロントマンがいるわけですからね。実在しないから、自分が前に出ているような気持ちになるだけで、結局はミクが主役なんです。やっぱり10年経っていい節目だし、そろそろ新しいも何かを生み出したい。とにかく最初にやりたいですね。結局、それが一番強いと思うので。