なんだかんだ歴史は繰り返す

──模索期って、作っていて楽しい時期でもありますよね。

すごく楽しいですね。一辺倒だったものが各々で次の何かを探している感があって。見ていても楽しいし、自分も何かやってみたいなっていう気持ちにもさせられます。

──かつて初音ミクが登場して、八王子Pさんが創作を始めた頃の空気にも近いのでは。

そうですね。まさに今回のアルバムのテーマにもなっている“Refrain”の部分でもあるんですが、やっぱりなんだかんだ歴史は繰り返すと言うか、10周年を期にハチくんが楽曲をアップしたり、去年にはryoさん（supercell）が新曲をアップしたりしていて……なんて言うのかな。みんなミクを嫌いになったわけじゃなくて、自分がアップしていた頃の空気をどこかで望んでいる。そうやって循環して繰り返していく感覚があるなって。だから今はみんな新しい形は模索しているんでしょうけど、完全な新しいものと言うより、今までのベースがあるうえでの繰り返しになっている部分が大きくて。それこそアヴィーチーがEDMにカントリーを組み合わせたみたいに、昔のサウンドを取り入れることもそうだし、そこがクリエイターの葛藤の部分でもあり、面白いなって俯瞰的に見て感じます。僕らがやろうとすることを「新しい！」って感じる人もいるかもしれないですけど、長くシーンにいる人たちからすれば「最初の頃にやってたことだよね」みたいな、10年もあればそういう循環が出てくるのかなって。

──「Refrain」には「あの頃」とか「リスタート」といった印象的なワードが出てきます。その過去とこれからがつながっていくイメージは作品全体の根底にもありますよね。

うん、そうですね。解釈は自由なんですけど、1曲目の「Last Dance」、4曲目「No Equation」と8曲目の「Refrain」はボカロPやボカロシーンのことをイメージしながら歌詞を書いていて。時系列的には1曲目から8曲目に向けて現在に向かっていくんです。

──「Last Dance」はある意味ミクを世に出るためのツールとして扱ったことへのアンチテーゼであり、「No Equation」を経て、最後の「Refrain」で希望を歌ったのかなと思いました。

「Last Dance」はもうその通りで……きっと最初から本当にミクが好きだった人ってあんまりいなくて、僕もそうだったけど、ボカロで歌えば聴いてもらえるっていうところがスタートだった人、ツールとして考えてた人はたくさんいると思うんですよ。で、アマチュアじゃなくなって、音楽で食っていくってなると葛藤とか、縛られることも多くなっていく。それが今回のようなタイミングで一息ついたときにふと最初の頃を思い出すっていうことは、ほかのボカロPの方と話していても共通してある感覚で、そのことをやんわりと考えながら作りました。今のボカロシーンの、なんだかんだみんなが戻ってきてくれてる状況はすごくいいなと思っていて。

──八王子Pさんは言わば、みんなが戻ってくるのを待っていた側でしたから、思いもひとしおでしょうね。

はい。でも、そこで10周年に向けたお祝いソングとかは、僕が作らなくてもいいかなと思ったんです。だから今回のアルバムにも“ザ・10周年お祝いソング”みたいな、ミクのことを歌った曲は入れていない。たぶん、その役割は自分よりもっと先からボカロを始めていた人が担ってくれる気がしたし、そのほうが説得力も増すだろうと。だからこそ自分は思い切って自由に、新しいことにも挑戦できました。

──背景にその気持ちは映し出しつつも。

がっつり前に出すことはしなかったですね、今回は。

──ただ、そういうシーンの歩みやずっと共にあったものに対しての思いがつづられていること、全曲ミクを使用していることを大きく捉えれば、この作品全体がミクへのラブソングとも言えるのかなと。

ああ……いいですね、キャッチコピーにしたい（笑）。その、ずっと共にあったものに対してっていうことは、考えながら作りましたね、うん。