「グラフィティスマッシュ」インタビュー kors k×プロデューサー・西岡大樹|“勘違い”を大事に生まれた「グラスマ」音楽

奥深いのにどこか明るい「グラスマ」の魅力

──実際にkors kさんが手がける音楽を「グラスマ」と合わせてみて、どういう感想を持ちましたか?

西岡大樹

西岡 表現が正しいかはわからないんですけど、kors kさんが書く曲ってすごく攻撃的な側面がある音楽だと感じています。「グラスマ」は敵を倒してダンジョンを進んでいくゲームなので、そのゲーム性とkors kさんの音楽がすごくマッチしているんです。

kors k うれしいです。ありがとうございます。

西岡 開発当初、「グラスマ」はコアなターゲット向けに世界観もやや暗めで想定していて、そこから徐々に間口を広げていこうという方針だったんです。開発途中でフィールドを派手なオレンジ色に塗っていく“グラフィティ”の要素を加えたことでゲーム自体は明るいテイストになりましたが、当時の世界観はある程度残してますね。

kors k 「グラスマ」ではゲームを進めていくと「ロストフラグメント」っていう “旧世界の情報”が拾えるんですよね。ロストフラグメントで得られる情報の断片って、けっこう暗いものを想起させるというか、先ほど西岡さんがおっしゃっていた「暗い一面」を垣間見ることができるんです。ただゲームの背景は奥深いのに派手に塗って戦う演出や、キャラクターの造形はどこか明るい。そこは「グラスマ」の魅力だと思いました。

西岡 開発中の紆余曲折はあったんですが「グラスマ」を「アクション性の高いゲームにする」ということは、あまりブレていないんです。先ほども話したようにゲーム性の部分とkors kさんの音楽の相性がとてもよかったので。

「グラフィティスマッシュ」のプレイ画面。

kors k ストーリーパートの音楽は僕の曲を中心に使ってもらっているんですけど、ゲームの中では僕以外のサウンドクリエイターさんが作った曲も流れるんですよね。例えばログインしてすぐ流れるストリングスが入ったテーマ曲なんかは “THE ゲームBGM”って感じで、僕はそれを聴いて「これはやられたな」って思ったんです。僕に発注が来ていたのがバトルにまつわる曲中心だったこともあって、僕はアグレッシブな音を鳴らすのを意識していたんですけど、ゲームの中ってずっと戦っているわけではなくて、酒場のようなプレイヤーがリラックスして画面に向かう瞬間もあるんですよね。実際に曲を提供してみて、ゲーム音楽っていうものの奥深さに気付きましたし、音ゲーとは違った感じの自分の曲を聴きながらプレイする感動も味わいました。

強化合成のときに一瞬だけ流れる力作

──音楽ゲームは“音が主役”のゲームとおっしゃっていましたが、音が主役ではない「グラスマ」の音楽を作るとき、kors kさんはどんなことを意識しましたか?

左からkors k、西岡大樹。

kors k 「グラスマ」の曲作りで一番意識したのは「ジャンルを決めない」ってことですね。音ゲーの曲はどうしてもジャンルありきで作ることが多いんですけど、今回の依頼にはそういう縛りが一切なかったので、その都度キャラクターやステージのイメージイラストに合わせて自分の作りたいものを作っていった感じですね。

西岡 まさにさっき言っていた“大喜利”に近い形だったんですね。

kors k 僕が「グラスマ」の曲を書き始めた頃って、まだゲームがプレイできなくて、ゲームのコンセプトの説明とキャラクターや世界観のイメージイラストしか素材がなかったんです。なので、僕なりにイメージを膨らませて作った曲も多いんですよね。

「溶岩洞窟」のイメージビジュアル。

西岡 当時、僕らの発注もそんなに丁寧にできていたわけじゃなくて、例えば「溶岩洞窟」というキーワードと数点のイメージビジュアルをお渡ししただけだったこともあるんです。それでもちゃんとハマる曲を書いていただくことができて、本当に感謝しています。

kors k 自分でもけっこう気に入っている曲があるんですけど、その曲はキャラクターの強化合成のときに一瞬だけ流れるんです。実はこの曲、そうやって使われるとは全然思ってなくて(笑)。ちゃんとサイズも長く作っているんですよ。

西岡 いただいた曲をこちらでもかなり吟味していろんなところで使わせていただいているので、kors kさんの想定と違うところは出てきてしまっていると思います。

kors k 全然いいんです(笑)。しかもそれが意外とハマってたりするんですよね。

「グラスマ」の隙間を探す

──今後、kors kさんが新たに書き下ろした曲が追加される予定もあるんですよね?

kors k はい。すでに何曲か納品させてもらってます。

西岡大樹

西岡 kors kさんには新たにいろんなテーマをお伝えして曲を書いていただきました。

kors k イメージとしては「和」のテイストを取り入れた曲が多いかもしれないですね。「グラスマ」の曲を作るために和楽器の音色が入ったシンセを買いました(笑)。「和」をテーマにした曲は過去にも楽曲提供をしたことがあるし、maras k(まらしぃとkors kによるユニット)としても作ったことがあるんですけど、今回の曲はちょっとイメージを変えているんです。僕自身が「グラスマ」をプレイしてみて作品世界の背景にあるミステリアスな感じに惹かれたこともあって、ちょっとドロドロした感じとか、実態の見えない霧っぽいイメージを意識しながら曲を作っています。

西岡 資料ベースで楽曲を発注していた開発当初の曲と比べて、新曲は実際にkors kさんにゲームをプレイしてもらいながら作っていただいたので、いろんな部分でレベルアップしたBGMになっていると思いました。

「グラフィティスマッシュ」のプレイ画面。

kors k ゲームを実際にプレイしてみて、作品世界のことをより理解することができた半面、最初に曲作りをしていたときに生じていた “勘違い”の要素も忘れちゃいけないと思っているんです。「グラスマ」の世界に寄せすぎてしまうのも違うと思ったから、ダンスミュージック寄りの僕ならではのアプローチで送られてくる大喜利を返し続けてます(笑)。音ゲーで長らく曲を書いてきて、いろんなジャンルを開拓しながら隙間を突いて生きてきたと僕は思っていて。その隙間を突くっていうのは「グラスマ」の中でも変わらないんですよね。実際に「グラスマ」をプレイしながら、僕なりにまだやれていない音のアプローチを探しています。

西岡 「グラスマ」のサービスを開始してもう8カ月目なんですけど、「曲がいい」って意見をたくさんいただいているんです。kors kさんに協力していただいて本当に感謝していますし、今よりももっと「グラスマ」の曲を多くの方に聴いていただきたいと考えています。kors kさんの新曲を早くお届けできるよう準備も進めているので、今後とも「グラスマ」をよろしくお願いします。

kors k こちらこそ。クリエイターとして関わっていくのはもちろん、1人のプレイヤーとしても「グラスマ」の今後が楽しみです。

左からkors k、西岡大樹。
「グラフィティスマッシュ」
BANDAI NAMCO Online Inc.
「グラフィティスマッシュ」

キャラクターを引っ張るだけの簡単操作で、画面を彩りながら戦う“塗って戦う爽快アクションゲーム”。プレイヤーは「ハンター」と呼ばれる個性豊かなキャラクターを指揮する「ローダー」となり、指でハンターを弾いて画面を塗りながら戦略性のあるバトルを楽しむことができる。

kors k(コースケ)
kors k
音楽プロデューサー、アーティスト、DJ。10代の頃からシンセサイザーで楽曲制作を始め、2000年にコナミの音楽ゲーム「beatmania IIDX 4th Style」に提供した「Clione」でデビュー。「beatmania」シリーズの主力トラックメーカーとして楽曲を提供し続けながら、アニメ関連の楽曲やJ-POPのリミックスなどを手がけ、トータルで400曲以上におよぶ楽曲群を世に送り出している。teranoidやEagle、StripE、Ryu☆とのユニット・The 4thといった名義でも活動。現在はDJとしてクラブやイベントのステージでも活躍しており、国内のみならずアメリカやアジア各国でもライブを重ねている。2014年6月にアルバム「Let's Do It Now!!」を、2015年3月に前作のリミックス音源と新曲を収めた「Let's Do It Again!!」を発表した。同年7月にはピアニストのまらしぃとのコラボユニット・maras kとしてアルバム「Beat Piano Music」をリリース。2018年5月にはmaras kとして3作目のアルバム「Beat Piano Music3」を発表する。