音楽ナタリー PowerPush - GRAPEVINE
新たな刺激受け再出発
GRAPEVINEがニューアルバム「Burning tree」を1月28日にリリースした。本作は1997年のデビュー以来所属していたポニーキャニオンから、ビクターエンタテインメント内のレーベル・SPEEDSTAR RECORDSへの移籍を経て完成したもの。今回のインタビューでは田中和将(Vo, G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)の3人に、移籍がもたらしたバンドへの影響について話を聞いた。
取材・文 / 伊藤実菜子 撮影 / グレート・ザ!歌舞伎町
契約終了、無職、移籍
──昨年5月に、ポニーキャニオンからビクターのSPEEDSTAR RECORDSへの移籍を発表されましたね。正式に発表されるまでさまざまな紆余曲折があったかと思うのですが、今回のアルバムの制作は移籍が決まる前にすでに始まっていたんですか?
田中和将(Vo, G) アルバムの制作というよりは、時間が空いてるうちに今後のために曲作りをやっておこうかっていうことで、2013年の11月くらいからプリプロをやってたんですよ。で、6、7曲だかはなんとなく形になりそうなもんを作っておいて「続きはまた来年で」って年末を迎えたんですけど。そのあと契約が終了しますよというお達しが来ましてですね。
──バンドの状況は激変しますよね。
田中 年が明けてからは2、3カ月無職でしたね(笑)。まず「プリプロした曲をどうしようか、せっかく作ってたのに」っていうようなところからでした。とりあえず1、2月は、さあこれからどうしようかってことを週に1回くらいみんなで集まって話し合って。で、お声をいただいてスピードスターに決まり、5月くらいからプリプロを再開して。前のレーベルで作っていた曲で生かせるものは生かして続きを作っていった感じですね。新たなA&Rの方の意見ももらいながら、「これは面白そうだから入れてもいいんじゃないか」みたいな話をしつつ。
──約半年ほど間が空いてから制作を再開したんですね。
西川弘剛(G) まあ間が空いたというよりは、またイチから始めるみたいな感じでしたね。新しいレーベルの人から「再デビューという形でGRAPEVINEと一緒にやっていきたい」っていうような企画書をいただいて、「こういうビジョンで、こういう年間計画でやりたい」みたいな提案をみんなでディスカッションしました。
──ではいい形で心機一転できた?
西川 そうですね。これから新しいところでやっていくぞみたいな気持ちは、制作の過程でも表れていたと思いますよ。レーベルもなければ事務所もなかった期間が何カ月かあったので、やっぱりそれぞれ思うところは多少あっただろうし。バンドとか、メジャーレーベルというものに対してだとか。
──亀井さんはどうですか?
亀井亨(Dr) 曲を作っといてよかったなっていうのはありましたね。移籍するときに曲はありますよってアピールできた(笑)。もともと去年出すはずやったんですよ、アルバム。ちょっとズレましたけど、その分アレンジについて考える時間ができました。
田中 移籍前に作ってた曲に関してはかなり転がす時間がありましたね。そういう意味ではわりとじっくりアルバムを作れたんでよかったんじゃないかなと。
──今作は前作「愚かな者の語ること」に続きセルフプロデュースだと伺いましたが、今回も西川さんが主導権を握って進めていったんですか?
西川 そうですね。
──新たに試みたことは何かありますか?
西川 いやあ、基本的にはやり方は前作と変わらないですね。でも全体的なトーンは明るくなったと思います。
田中 いろいろ新鮮でしたからね、移籍したこともあって。スタジオも違いますし、意見をくれる人間との新たな出会いもあったわけですし。
亀井 CDを出せる場ができてよかったなっていう安心感とかもあるんじゃないですかね。3カ月くらい無職やったんで、けっこう大きな会社で、無事に音源が出せるっていう。心機一転……うん。やる気は出たんじゃないかと思う。
贅沢なレコーディング
──「Burning tree」は「Big tree song」でのウォータードラムや「Esq.」などに盛り込まれた厚みのあるコーラスなど、今までにないアプローチがふんだんに盛り込まれていて、非常に自由度の高いアルバムだと思いました。
西川 前のレーベルでプリプロをしてたし、さらにこっちのレーベルに移ってからもスタジオを使わせてもらったんで、作り込む時間とか考え直す時間がたくさんあったんですね。正直すごく贅沢なレコーディングをさせてもらったんですよ。制約も非常に少なかったですし、スタジオミュージシャンに演奏を依頼してもいいですよって言ってくれるし。その自由度が表れてるかもしれないですね。
田中 「Big tree song」に関しては、最初のプリプロの段階と最終的なものでずいぶん変わりましたね。最初はもうちょっとバンドっぽかったといいますか、普通にギターもベースもたくさん入ってるようなアレンジだったんですけど。DadaDのShigeくんに依頼したパーカッションループを中心にしたアレンジになりました。
──スタジオミュージシャンを起用するのはGRAPEVINEにとっては珍しいのでは?
田中 そうですね。プリプロでは亀井くんの「Wavedrum」で、特に何も考えずに、プリセットされていた音色でなんとなく叩いたシーケンスを作ってたんですよ。ただタブラだとかの音色が入ってたんで、わりとインド色が強かったといいますか(笑)。ちょっと曲の方向性がそっちに引っ張られるから、まずはそれを差し替えたいという話になり、せっかくだからパーカッショニストにお願いしてみようということになって。
──珍しいといえば、こういった生命賛歌のような歌詞もそうですよね。
田中 珍しいかもしれないですね。曲のテイストが今までありそうでなかった感じなんで、自分でもちょっとそういう歌詞を書いてみようかなと。取っ掛かりはTalking Headsの「Road to Nowhere」だったりするもんですから、そういうイメージがあったんだと思いますね。
──かと思えば「死番虫」をはじめ死を匂わせるような内容の曲もあるので、アルバムには「生と死」という壮大なテーマが隠れているのではないかと感じました。
田中 大げさに言えば「生と死」でしょうね。でも「死番虫」なんかは笑ってほしいとこでもあるんですよ。かなり悪ノリというか、なんていうんでしょうね……悪ふざけというか(笑)。全体的にそういうバンドですよ、うち。楽曲のアレンジにしても歌詞にしても。でも、そうやっていろいろ深読みしていただけるような仕掛けはたくさん作ってます。
──亀井さんは収録曲の約半分を作曲していますが、今回はどういったモードで制作しましたか?
亀井 (移籍して)一発目に出すアルバムですから、インパクトのある曲を作りたいなって考えてましたね。景気のいい曲にしなくてはっていう、ちょっとしたプレッシャーみたいなものもありました。まあできなかったですけど(笑)。
──亀井さんの曲の中で言うと「Esq.」が景気のいいタイプに入る気がします。
亀井 ああ、そうですね。
田中 これ、移籍前に作ってきた曲やけどね(笑)。
亀井 移籍前のほうが景気よかった(笑)。僕の持っていった曲もけっこうバンドでいじり倒したんで、とてもいい感じになったと思います。
──ちなみにバンドに持っていくときのデモってどんな状態なんですか?
亀井 まあ、ギター、ベース、リズムマシンと、僕がボエーって歌ったのと。ほんとにもう土台というか、たたき台みたいな簡単なものです。ワンコーラスくらいしか作ってないから、コード進行も変わって、メロディしか原型が残ってないものもありますね。
──今作で一番大きく変わった曲はどれですか?
亀井 うーん……「MAWATA」はだいぶ変わりました。1980年代テイストっていう遊び心を入れた感じに。これはすごく面白くなったと思いますね。
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- ニューアルバム「Burning tree」 / 2015年1月28日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3996円 / VIZL-756
- 通常盤 [CD] 3240円 / VICL-64266
CD収録曲
- Big tree song
- KOL(キックアウト ラヴァー)
- 死番虫
- Weight
- Empty song
- MAWATA
- IPA
- 流転
- アルファビル
- Esq.(エスクワイヤー)
- サクリファイス
初回限定盤DVD収録内容
- 「Empty song」Music Video
- VIDEOVINE Vol.2(RECORDING / SHOOTING / LIVE)
- ライブDVD / Blu-ray「IN A LIFETIME」 / 2015年1月28日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- Blu-ray+CD / 6480円 / VIZL-768
- DVD+CD / 5400円 / VIZL-769
DVD / Blu-ray
- いけすかない
- スロウ
- SUN
- 光について
- RUBBERGIRL
- Lifework
- 25
- 青い魚
- RUGGERGIRL No.8
- 白日
- 大人(NOBODY NOBODY)
- 望みの彼方
- HOPE(軽め)
- This town
- JIVE
- 空の向こうから
- 熱の花
- 豚の皿
- Reverb
- ミスフライハイ
- 超える
- アナザーワールド
Bonus Movie
- 「IN A LIFETIME」SPECIAL INTERVIEW
CD
- いけすかない
- スロウ
- SUN
- 光について
- RUBBERGIRL
- Lifework
- 25
- 青い魚
- RUGGERGIRL No.8
- 白日
- 大人(NOBODY NOBODY)
- 望みの彼方
- HOPE(軽め)
GRAPEVINE(グレイプバイン)
田中和将(Vo, G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)の3人からなるロックバンド。1993年に元メンバーの西原誠(B)を含めた4人で結成。1997年にミニアルバム「覚醒」でデビューし、1999年リリースの3rdシングル「スロウ」が大ヒットを記録する。2002年に西原がジストニアのため脱退して以降は、高野勲(Key, G)、金戸覚(B)をサポートメンバーに加えた5人編成で活動を続けている。2010年にはギタリスト / プロデューサーの長田進と「長田進 with GRAPEVINE」名義でアルバム「MALPASO」を制作。2012年にメジャーデビュー15周年を迎え、9月に初のベストアルバム「Best of GRAPEVINE 1997-2012」を発表した。2014年11月にビクターエンタテインメント内のSPEEDSTAR RECORDSへ移籍し、2015年1月に移籍第1弾シングル「Empty song」収録曲を含むニューアルバム「Burning tree」をリリース。