ゴスペラーズ「The Gospellers Works 2」特集|村上てつや、酒井雄二、北山陽一がセルフカバー集を徹底解説 (2/3)

04. Sounds of Love(小野大輔)
作詞・作曲:酒井雄二 / 編曲:平田祥一郎

村上 この曲は酒井が作詞作曲を担当して、6月下旬に配信シングルとしてリリースされた小野大輔くんの新曲をセルフカバーしたもの。過去にリリースされて、すでに一定に評価を得た曲をセルフカバーするのとは、ちょっと意味合いが変わってくるよね。

酒井 いずれにせよ、「100万枚売れるのか?」みたいなシビアな状況からは、少し離れて作れるのが提供曲の楽しいところだと思っていて。もちろん売れなきゃダメなんだけど(笑)、それよりもまずその人に似合う曲、歌って喜んでもらえる曲であることが大事というか。「すごくいい曲です。大好きです」と言われるのが何よりうれしいんですよ。

北山 そういう意味では、自分たちのオリジナル曲を作っているときよりも優しい気持ちになれるというか。小野大輔さんはゴスペラーズのことをすごく好きでいてくださって、ずっとカバーもしてくださっていた声優さんだしね。

酒井 ゴスペラーズがデビューして間もない、アカペラがまだ世に浸透していなかった頃、まるで海原にレターボトルを流すかのごとく出版したアカペラ教則本があるんですけど(2000年発売の「VOICES ゴスペラーズ・パーフェクトハーモニーブック」)、それを小野さんが愛読してくださっていたんです。

村上 ゴスペラーズがデビューしてから28年の間にやってきたことは、大半が孤独な戦いだったわけですが(笑)、小野さんからその話を聞いたときは心から報われた気持ちになった。Penthouseの件もそうだけど、届くべきところに確実に届いていたということを、ここ最近は少しずつ実感する日々ですね。

酒井 歌詞についてはリクエストがありました。「コロナ禍が収束へと向かっていく中での、祈りのような曲が歌いたい」と。そういう意味では「書きたい、書かなければ!」という今の自分が持つ思いもテーマに込められましたね。あと、俺は「ジョジョの奇妙な冒険」が大好きだから、空条承太郎を素敵に演じてくれた小野さんへ感謝の気持ちも入れています(笑)。

酒井雄二

酒井雄二

村上 僕らにとっても“新曲”なので、セルフカバーという感じでもなかったんですけど。どこかのインタビューで酒井さんが「小野さんへの提供曲だから、ここまで素直な歌詞が書けた」みたいなことを言っていましたが、俺自身はまったくそうは思わなかった。

酒井 ホント?

北山 うん、酒井さんっぽい曲だなと思った(笑)。

村上 もちろん、小野くんが歌うということで考えに考え抜いた言葉の選び方なのですが、それでいてゴスペラーズにとっても普遍性のある歌詞に仕上がっているなと思いましたね。あと、小野くんのバージョンと僕らのセルフカバーでは、アレンジの展開がかなり違うので、そういう意味では「Keep It Goin’ On feat. Penthouse」と同じくらい攻めたアレンジになっています。

05. Follow Me(アオペラ・FYA'M')
作詞:村上てつや / 作曲・編曲:村上てつや、とおるす

06. RAINBOW(アオペラ・リルハピ)
作詞・作曲:安岡優 / 編曲:とおるす

村上 この2曲が使われている「アオペラ」は、ちょっとやんちゃな高校と、それに比べると真面目な高校という2つの私立と都立高校のアカペラ部をめぐる青春ストーリーで。何より「青春×アカペラ」という設定が、エンタテインメントとして成立していること自体が僕らとしては感慨深いですよね。制作スタッフもアカペラ大好きな人たちの集まりなんですよ。我々のことも非常にリスペクトしてくれていて。僕らやハモネプが、アカペラを世の中に浸透させようと躍起になっていた頃から考えると隔世の感がある。そういう思いも含めて丁寧に楽曲を作ろうと思いました。

北山 僕らはアカペラに魅了され、このグループでデビューして28年ですけど、声優さんが集まってアカペラをやるというのは、演じる能力と歌う能力、両方兼ね備えていなければならないわけですよね。さらにハモる能力も必要だと思うと、集めようと思って集まる素地がすでにできていることにも驚かされます。そんな彼らがイチからアカペラを作り出そうとしている姿には心動かされるし、めちゃくちゃ応援したくなる。まさかこんな形で次世代にバトンを渡すことになるとは思わなかったけど、「幸せだな」と思いながらレコーディングしていました。

酒井 村上さんが書いた「Follow Me」は、私立高校のアカペラ部「FYA'M'」の曲ですね。

村上 FYA'M'は「オレたち、ちょっとイケてるんじゃね?」というノリのやんちゃなグループ。思い起こせば自分もそんな感じだったなあと。高校生の頃に黒沢と出会って、初めて文化祭で披露したアカペラがめちゃくちゃウケて。バンドをやっているほかの連中とはひと味違うんだぜ?なんて思っていた当時の感覚を思い出しながら作った曲です。当時と違うのは、それこそPenthouseを見ていても思うのですが、ある程度の早口とメロディの詰め込みが主流になってきていること。今回のアオペラも「2020年代のアカペラ」なので、なるべく情報量の多いメロディを目指したのは、自分にとってチャレンジングでした。シナリオも読み込んで、作品の世界観を頭に叩き込んでから曲に落とし込んでいきましたしね。「RAINBOW」を書いた安岡も、声優さん1人ひとりの声を思い浮かべながらメロディを書いたと言ってました。ちなみに「RAINBOW」は、僕らのバージョンとオリジナルでは歌詞が違っていて。物語の世界観は同じですが、視点がちょっと違っているんですよ。そんなところにもぜひ注目してもらいたいです。

北山 「アオペラ」は複数のメディアで展開していく音楽原作プロジェクトなので、ゆくゆくはライブを開催したり、アニメ作品を配信したりすることになると思うし、そのときはぜひゴスペラーズも声で出演させてくれないかなあ、なんて思っています(笑)。

村上 ものっすごいイケメンに描いてもらいたいよね(笑)。

07. 五時までに(郷ひろみ)
作詞・作曲:安岡優、北山陽一、妹尾武 / 編曲:井上一平、北山陽一

北山 この曲のメロディは、安岡と俺と妹尾武さんで作りました。まず僕が、「こんな感じのコードで始まるのはどうだろう?」と提案し、おもむろに妹尾さんがピアノを弾き始めて。そこからインスパイアされた言葉を安岡が並べ、俺がメロディを付けて歌っていくという。文字通り膝を突き合わせて1時間くらいで仕上げた曲です。それを郷ひろみさんが歌うと、「いったいどうやって?」と思うくらい「郷ひろみの曲」になるんですよね。そのことに衝撃を受けました。

安岡優

安岡優

酒井 その曲を僕らでセルフカバーするとなったときに、物真似をするわけにはいかないけど、じゃあどうやって自分たちの楽曲に寄せていくかを考えなければならなかった。

北山 そのためには一旦、曲作りのプロセスまで戻ろうということになり、妹尾さんにまたピアノを弾いてもらって、歌詞とメロディを手がけた俺と安岡のメインボーカルをまず録って、そこから5人のコーラスアレンジに広げていきました。作業を進めていく中で「やっぱりストリングスも欲しいよね」という話になり、井上一平さんにアレンジをお願いしています。スタジオミュージシャンではない、クラシックの演奏家に来ていただいたのですが、「とにかく歌を引き立てるという発想はやめてほしい。弾いていて(楽器で)歌いたくなったら存分に歌ってください」と注文したところ、一流のソリストたちが全力で弾きまくってくださって(笑)。

村上 セルフカバーだからこそ許されるような、かなり攻めたオーダーを北山がしているから「これは大変そうだな」と思ったんですけど(笑)、見事に応えてくれた演奏家の方々と井上さんに心から敬服します。この曲のメロディはとても美しいのですが、実は歌詞ではかなり生々しい「大人の恋」を歌っているんですよね(笑)。それがこの、いわゆるポップスにおける「美しいストリングスセクション」とはひと味違う演奏がリアルに引き出していて、ものすごく刺激的なアレンジに仕上がったと思います。