ゴスペラーズの最新ライブ映像作品「ゴスペラーズ坂ツアー2023 “HERE & NOW”」が発売された。
昨年9月から今年1月にかけて最新EP「HERE & NOW」を携えて、全国を巡ったゴスペラーズ。映像作品にはツアーの終盤を飾った東京・東京国際フォーラム ホールA公演の模様が収められている。約4年ぶりに声出しが解禁された「ゴスペラーズ坂ツアー2023 “HERE & NOW”」で、メンバーはどんなハーモニーを響かせ、どんなステージングでファンを魅せたのか。音楽ライター黒田隆憲に解説してもらった。なお、音楽ナタリーでは「HERE & NOW」リリース時のインタビュー(参照:ゴスペラーズ「HERE & NOW」インタビュー)も掲載中なので、ぜひご一読を。
文 / 黒田隆憲撮影 / 笹原清明
心憎い演出としての“白”衣装
今年メジャーデビュー30周年を迎える5人組ボーカルグループのゴスペラーズが、昨年9月から行った全国31都市を巡るツアー「ゴスペラーズ坂ツアー2023 “HERE & NOW”」より、12月8日開催の東京国際フォーラム ホールA公演の模様を全曲収録したライブ映像作品がリリースされた。
コロナ禍以降、感染予防による制限を逆手にとった“アカペラドラマ”スタイルのシアトリカルツアー「ゴスペラーズ坂ツアー2021 “アカペラ” #あなたの街にハーモニーを」を開催するなど、大きく変化していく環境の中で自分たちなりの表現を模索してきたゴスペラーズ。本作には、客席での声出しもようやく解禁となったアフターコロナで、再びオーディエンスとともにライブという場を作り上げることを心から喜ぶ5人の姿が収められている。
ライブは2部構成で、ゴスペラーズとゆかりのあるアーティストが楽曲提供した5曲入りEP「HERE & NOW」を中心に、代表曲である「永遠(とわ)に」や「ひとり」など新旧織り交ぜたセットリストをもとに進行する。サポートメンバーは、村上てつやがライブ内で“ゴスペラーズバンド”と紹介した、本間将人(Sax, Key)、荻野哲史(B)、坂東慧(Dr)、佐藤雄大(Key)、田中"TAK"拓也(G)、宇佐美秀文(Manipulator)の6人。ゴスペラーズが織り成す多彩なハーモニーを最大限生かしながら、ダイナミックなバンドアンサンブルを全編にわたって展開している。
まずはラテンのリズムが印象的な「Mi Amorcito」で第1部がスタート。ゴスペラーズ初のトリビュートアルバム「The Gospellers 25th Anniversary tribute『BOYS meet HARMONY』」にも参加していたYUUKI SANO(ex. UNIONE)による、「熱帯夜」にも通じるような情熱的なナンバーだ。登場した5人の衣装は白で統一されているが、例えば村上は丈の長いジャケットにストライプのシャツを合わせ、北山陽一はボーダーのカットソーの上から白いブルゾンを羽織るなど、1人ひとり着こなしを微妙に変えているのがポイント。同じ色を身にまとっているからこそ、それぞれの個性がより際立つという心憎い演出の1つだ。
最も旬なハーモニーをお届け
ゴスペラーズのライブの醍醐味は、曲ごとに変化するボーカルのフォーメーションを視覚的に楽しめるところにもある。例えば「ポーカーフェイス」は、村上と安岡優がオクターブユニゾンで合いの手を入れる中、リードボーカルが黒沢薫から酒井雄二へと途中でバトンタッチする。続くバラード曲「ミモザ」では黒沢がリードを取り、エンディングでは村上、酒井雄二の3人が掛け合いのフェイクを展開。艶やかな黒沢の声と清々しい酒井の声が混じり合う。かと思えば、高校生ボカロPの晴いちばんが提供した「アフタースランバー」では、北山のふくよかな歌声を、安岡の少年のようなハイトーンボイスが受け継いでいく。
まったく声質の違うボーカリストの集合体であることをフルに生かし、それぞれの立ち位置もボーカルのフォーメーションに合わせて変化させることで、楽曲を立体的に彩っていくゴスペラーズのステージング。そして、そんな様子を時にステージ上空から俯瞰で、時にステージの上からメンバー目線で、そして時にステージの上から客席を仰ぎ見るような臨場感たっぷりのアングルで捉えた映像が、ライブの感動を何度でもよみがえらせてくれる。
「HERE & NOW」と銘打った今回のツアーでは、「“今、ここ”で最も旬な我々を、たっぷりお届けすることができたら」と村上が言ったように、彼らが声優として初主演したアニメ「アカペラ侍~ハモリ隊は江戸を救う!~」の挿入歌や米米CLUBのトリビュートアルバム「浪漫飛行 トリビュートアルバム」でカバーした「浪漫飛行」をアカペラで披露するひと幕も。歌い出す直前、軽くハミングしてチューニングしたかと思いきや、息の合ったハーモニーを一瞬にして響かせる5人の姿に思わず息をのむ。
エレガントなストリングスで始まるソウルナンバー「Summer Breeze」は、Penthouseの浪岡真太郎と大島真帆による提供曲。抑揚をたっぷりつけたメロディを5人が入れ替わり立ち替わりリードを取りながら歌い上げたあとは、会場の時を今から5年前、10年前、そして15年前、20年前へと巻き戻していく。メンバーは官能的な大人の恋愛を歌詞につづった「In This Room」、モータウンビートに合わせてそろいのステップを踏む姿がかわいらしい「太陽の5人」など、往年の人気曲4曲をメドレー形式で披露。「この曲が生まれ、僕たちは時を超えて歌い続けることを誓いました」と村上が言い、「永遠(とわ)に」が始まると客席からは大きな拍手が沸き起こった。
約束を叶えるための旅は続く
ゴスペラーズと言えば、デビュー時から一貫して「ケンカアカペラ」を標榜しているように、バラバラの個性をそのままぶつけ合うこともしばしば。ビートボックスの世界大会「Grand Beatbox Battle 2023」でチャンピオンに輝いたSARUKANIをゲストに招いた第2部のオープニングは、その荒々しいハーモニーを存分に堪能できるハイライトとなった。
まず披露されたのはSARUKANIによる楽曲提供の「XvoiceZ feat. SARUKANI」。強力なビートやベースライン、シンセエフェクトのような音まですべて声だけで作り上げるSARUKANIの4人の超絶パフォーマンスに、負けじと5人もケンカアカペラで応戦。さらに、そのケンカアカペラの真骨頂ともいえる「VOXers」を総勢9人で歌い上げると、会場は大歓声に包まれた。
「走り出す僕達のボリュームをあげて」という歌詞が、アフターコロナの今聴くとまた新たな輝きを放つ「Vol.」をファンとシンガロングしたあと、ライブはいよいよ“灼熱の後半戦”へ。メンバーは屈指のファンクチューン「MOVIE☆STAR」で腰を揺らしたあと、「愛の歌」で再び会場を巻き込んでシンガロングを繰り広げる。オーディエンスを誕生月の偶数と奇数のグループに分け、「La la la... 聞かせて」のフレーズを全員でハモる“なりきりゴスペラーズ”に突入するとホールは一体感に包まれた。
終盤では「声出しのライブができる日を心待ちにしてきましたが、僕たちよりも皆さんがそれを待ち望み、喜んでくださっている姿が見られて本当にうれしいです」と村上が笑顔で客席に話しかける。「ここ数年は、声を出すことそのものに制約がかけられていた時期がありました。そんなときでも僕たちゴスペラーズの歌を聴きたい、一緒に音楽を楽しみたいと思ってくださった皆さんの心の声は、我々にしっかりと届いていました。僕たちを呼ぶ声が聞こえてくる限り、皆さんのもとへ直接向かって歌を届けるという約束を、僕たちは忘れたことがありません。その約束を叶えるための旅は、まだまだ続きます」。改めてそう決意表明をして、その名も「約束の季節」を歌う5人。フィリーソウル風の「コーリング」を経てアカペラで「星屑の街」を披露し、この日のライブに幕を下ろした。
後輩アーティストによる提供曲を歌うことで“ゴスペラーズらしさ”を再定義しつつ、過去曲を振り返りながらファンとの“約束”を改めて確認した5人。本作には、メジャーデビュー30周年を目前に控えてもなお自分たちを更新し続ける彼らの「今、ここ」が、余すところなく収められているのだ。
ライブ情報
ゴスペラーズ 30周年記念祭@日本武道館
- 2024年12月20日(金)東京都 日本武道館
- 2024年12月21日(土)東京都 日本武道館
ゴスペラーズ 30周年記念祭@大阪城ホール
- 2025年1月13日(月・祝)大阪府 大阪城ホール
プロフィール
ゴスペラーズ
北山陽一、黒沢薫、酒井雄二、村上てつや、安岡優の5人からなるボーカルグループ。1994年にシングル「Promise」でメジャーデビュー。以降、「永遠(とわ)に」「ひとり」「星屑の街」「ミモザ」など、多数のヒット曲を送り出す。他アーティストへの楽曲提供やプロデュース、ソロ活動など多彩な活動を展開する。2022年7月には提供曲のセルフカバーアルバム「The Gospellers Works 2」をリリースした。2023年8月23日には5組のアーティストから楽曲提供を受けたEP「HERE & NOW」をリリース。同年9月から2024年1月にかけて、全国ツアー「ゴスペラーズ坂ツアー2023 “HERE & NOW”」を行った。2024年12月にはメジャーデビュー30周年を迎える。
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